くり舟

在所の近所に、くり舟あり。其の所にて、彼の牢人を呼ぶこと、頻(しき)り也(片仮名本・因果物語)、 とある、 くり舟、 は、 粗製の川舟。船首船尾とも箱型、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。同じ出典で、 其の夜より、彼の縷(く)り舟の渡りに、化けものありと云ひけり(仝上)、 とある、 縷り舟、 も、文脈から同じ意味かと想像され…

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頓(とみ)に

その人々には頓に知らせじ。有様にぞしたがはん(源氏物語)、 とある、副詞、 頓(とみ)に、 は、 早急に、 さっさと、 の意で、 風波とににやむべくもあらず(土佐日記)、 とある、 トニニの転、 で、 多くの場合、下に打消しを伴って使われる。その打ち消された行動は、実は、即座に為し遂げられることが予想・期待される、 とある(…

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しきり

在所の近所に、くり舟あり。其の所にて、彼の牢人を呼ぶこと、頻(しき)り也(片仮名本・因果物語)、 とある、 頻(しき)り、 は、 動詞シキルの連用形から、 とも、 シク(頻)と同根、 ともある(岩波古語辞典・広辞苑)。 その年おほやけに物のさとし(不思議な前兆)しきりて(源氏物語)、 の、 しきる(頻)、 と、 新しき年…

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竜田姫

物の色合ひなど、染め出だせる事は、竜田姫も恥ぢぬべき程なり(曽呂利物語)、 とある。 竜(龍)田姫、 は、 秋を支配する女神、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 龍田山は奈良の京の西に当たり、方角を四季に配当すると西は秋に当たるのでいう、 とある(岩波古語辞典)。 (立田姫(竹久夢二) https://mai-arts.com/yu…

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百万遍

……怨念を払はん爲とて、寺中寄りあひ百万遍の念仏を修行しける(曽呂利物語)、 とある、 百万遍の念仏、 とは、 災厄や病気をはらうために、大勢が集まって念仏を百万回となえる行事、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 百万遍念仏、 とも、略して、 百万遍、 ともいう。 如綽禅師、撿得経文、但能念仏一心不乱、得百万遍已去者、定得往…

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十念

一々懺悔して十念を授かりて、久しく念仏しければ、いつと無く蛇失せたりと也(片仮名本・因果物語)、 とある、 十念、 とは、 僧から南無阿弥陀仏の六字の名号を十遍唱えてもらい、仏との縁を結ぶこと、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)が、これは、 浄土宗・時宗、 で、僧が南無阿弥陀仏の名号を信者に授けて結縁(けちえん)させること、 をいい(広辞…

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聊爾

こは如何に、聊爾をしつる事かな、と肝を潰し(曽呂利物語)、 脇よりも、聊爾をすな、殿の御秘蔵の唐猫なりと云ひければ(仝上)、 などとある、 聊爾、 は、前者については、 あやまち、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)が、後者は、後述の意味の幅から見ると、 粗相、 とか、 失礼、 といった意味ではないかと思う。 聊爾(レウジ・リョ…

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唐臼

いつも内なる唐臼(からうす)の上に、俵もの、石など多く置き、二十人ばかりしては、動かしがたく拵へて(曽呂利物語)、 いつもの如く、唐臼を踏み鳴らす(仝上)、 とある、 唐臼、 は、 足で踏んで杵(きね)を上下させる仕掛けの石臼、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 天照るや日の異(け)に干(ほ)しさひづるや唐臼(からうす)に搗き庭に立つ手臼(てうす…

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いはんや悪人をや

金子大栄校注『歎異抄』を読む。 「直接に耳の底に留まるところを記録したのは、ただこの『歎異抄』のみ」(校注者解題)とされる、 弟子唯円が、親鸞の肉声を伝えている貴重な本である。本書の構成は、 序 親鸞の語録(第九章まで) 序(第十章) 唯円の歎異(第十一以下十八章まで) 結(述懐) となっており、 大切の証文ども、少々ぬきいでまいらせさふらふて、…

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乙矢

本筈(もとはず)末筈(うらはず)一つになれと、能引(よっぴ)きひやうと放つ。……乙矢(おや)を射る間のあらざれば、駒をはやめて逃げ来たる(曽呂利物語)、 とある、 乙矢(おや)、 は、普通、 おとや、 と訓ませ、 第二番目に射る矢、 の意である(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。因みに、「本筈」「末筈」は、 弓の両端の弦をかける所、上になる方を末…

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酒呑童子

手足は龍の如くにて、長さ一丈三尺五寸、かしらは絵にかけれる酒顛童子(しゅてんどうじ)の如くなり(曽呂利物語)、 にある、 酒顛童子、 は、 酒呑童子、 とも当てるが、 鬼形をもって財を掠め、婦女子を略奪した伝説の妖怪。丹波大江山や近江国伊吹山に住んだ、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。南北朝時代頃成立した御伽草子、 酒呑童子、 を…

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来国光

漸(ようよ)うに押し寛げ、相伝の来国光を以つて払い切りにぞしたりける(曽呂利物語)、 にある、 来国光、 は、 鎌倉末期の名工来国光が作った刀、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 「来国光(らいくにみつ)」は、 鎌倉末期の刀工、 で、 来国俊の子。鎌倉末期を飾る来派の名工で、その作になる現存の太刀、短刀は多い、 とある(精選…

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一条戻り橋

いつの頃にか有りけん、都のもどり橋の辺に、夜な夜な変化のもの有りと云ひわたる事あり(曽呂利物語)、 とある、 もどり橋、 は、 一条戻り橋、 のことで、 堀川の一条大路に架かる。古代、中世を通じて京域の境とされ、多くの伝承を生んだ。橋名の由来は、「一条の橋をもどり橋といへるは、宰相三善清行のよみがへり給へるゆへに名付けて侍る」(『撰集抄』)とされている、 …

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おはぐろ

振り分けた髪の下よりも、並べたる角生(つのお)いたるが、薄化粧に鉄漿(かね)黒々とつけたり。恐ろしとも云はん方なし(曽呂利物語)、 とある、 鉄漿、 は、 おはぐろ、 の意で、 歯を染めるための黒い液、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 (お歯黒を付ける女性(歌川国貞) デジタル大辞泉) 「おはぐろ」は、 御歯黒、 鉄漿、…

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肝煎る

あまた人の子を肝煎るとて、其の生(うみ)の親のかたよりは、金銀をとりて、おのれが物とし、其の子は此の河へ流せしとかや(百物語評判)、 にある、 肝煎る、 とは、 あっせんする、 意とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 肝を煎る、 意とある(日本国語大辞典)。「肝を煎る」とは、 おもひきりしに来てみえて、きもをいらする、きもをいらする(「閑吟…

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きも

「きも」は、 肝、 胆、 と当てる。古くは、 吾が肉(しし)は、御膾(みなます)はやし、吾が伎毛(臓腑)も、御膾はやし(万葉集)、 と、 臓腑の総称、 をいい、 群(むら)ぎも、 ともいい、 いまも、鳥の臓腑をきもと云ひ、俗に雑物(ざふもつ)と云ふ、 とある(大言海)。その意味から、 汝(なが)肝(心)稚之(わかし)、若雖(…

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獺祭(だっさい)

河太郎も河獺(かわおそ)の劫(こう)を経たるなるべし。河獺は正月に天を祭る事、七十二候の一つにして、よく魚をとる獣なり(百物語評判)、 の、 河太郎も河獺(かわおそ)の劫(こう)を経たるなる、 とは、 獺(カワウソ)老而成河童者(元和本下学集)、 とある(『下學集』は、室町時代の意義分類体の辞書)のに基づく(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 七十二候、 …

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求聞持法

智遁といふ出家、浅間が嶽(たけ)に来たりて、求聞持(ぐもんじ)の法を行ひ度(たき)よし望みけるに(百物語評判)、 にある、 求聞持の法、 とは、 仏教密教修法の一つ、『虚空蔵求聞持法』に説く修法で、見聞したことすべてを記憶する術、求聞持法、 のこと(高田衛編・校注『江戸怪談集』)で、正確には、 仏教書、「虚空蔵菩薩能満所願最勝心陀羅尼求聞持法」、 の…

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ちぶりの神

世のいはゆる道陸神(どうろくじん)と申すは、道祖神とも又は祖神とも云へり。(中略)和歌にはちぶりの神などよめり(百物語評判)、 にある、 ちぶりの神、 は、 ちふりの神、 ともいい、 旅の安全を守る神、 とあり、 行く今日も帰らぬ時も玉鉾のちぶりの神を祈れとぞ思ふ(袖中抄)、 を引いている(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。因みに、『袖中抄…

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垢ねぶり

垢ねぶりといふ物は、ふるき風呂屋にすむばけ物のよし申せり(百物語評判)、 にある、 垢ねぶり、 は、 垢舐、 とも当て、 人の垢をねぶりて生く、 とあり(大言海)、室町後期の国語辞書『林逸節用集』に、 垢舐、アカ子(ね)ブリ、温室中之蟲也、 とある。で、 風呂場に生ずる蟲の名、 とある(大言海)。だからか、 いもり(井守…

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