2022年12月06日

十念


一々懺悔して十念を授かりて、久しく念仏しければ、いつと無く蛇失せたりと也(片仮名本・因果物語)、

とある、

十念、

とは、

僧から南無阿弥陀仏の六字の名号を十遍唱えてもらい、仏との縁を結ぶこと、

とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)が、これは、

浄土宗・時宗、

で、僧が南無阿弥陀仏の名号を信者に授けて結縁(けちえん)させること、

をいい(広辞苑)、これを、

十念を授(さず)く、

といい、

僧が南無阿弥陀仏の六字の名号を十遍唱えて信者に阿弥陀仏との縁を結ばせる、

ことで、浄土宗では、

葬式のとき、引導のあと、導師が六字の名号を十度唱えること、

をいう(仝上)。無量寿経には、

南無阿弥陀仏と阿弥陀仏の御名(みな)を十ぺん唱えること(十念)によって阿弥陀仏の極楽浄土に往生できる、

と説かれ、浄土教義の重要な根拠となっているとされるが、これは唐の善導は、観無量寿経の、

至心に声をして絶えざらしめ、十念を具足して南無阿弥陀仏と称す、

を十声の称念と解し(観経疏)、法然も、

声はこれ念、念は即ちこれ声、

とのべ(選択(せんちやく)本願念仏集)、

十声、

ととらえている。この根拠になっているのは、大無量寿経の法蔵菩薩の誓願は漢・呉訳では24であるが、増広された魏訳の48願の第18願で、

十方世界の衆生が心を専一にして(至心)深く信じ(信楽)極楽に往生したいと願い(欲生)、わずか10回でも心を起こす(十念)ならば、必ず極楽に往生できる、

と説いている。この〈十念〉が10回の念仏と解され、中国、日本における念仏による往生の思想の根拠として重視されるにいたったようである(世界大百科事典)。

一般に、

十念、

というと、原始仏教経典に説かれる、

十種の心念、

つまり、

念仏・念法・念僧・念戒・念施・念天・念休息(ぐそく)・念安(あんぱん)般・念身・念死、

という、

十種の思念を行う修行法、

をいい、

十随念、

ともいう(仝上)。また、

阿弥陀仏の相好を十遍つづけて観想すること、

または、

その御名を十遍唱えること、

をもいい(往生要集)、それを、

十念称名、

といい、また、

慈心・悲心・護法心など十種のおもいを数えたもの、

をもいう(彌勒所問経に説くとされている)とする(往生要集)、とある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

なお、十念の唱え方は、https://zenryuji-jodo.com/jyunen/に詳しい。

「十」 漢字.gif

(「十」 https://kakijun.jp/page/0211200.htmlより)

「十死一生」http://ppnetwork.seesaa.net/article/485500800.htmlで触れたように、「十」(慣用ジッ、漢音シュウ、呉音ジュウ)は、

指事(数や位置など、形を模写できない抽象的概念を表わすために考案された漢字)。全部を一本に集めて一単位とすることを、丨印で示すもの。その中央が丸く膨れ、のち十の字体となった。多くのものを寄せ集めてまとめる意を含む。促音の語尾がpかtに転じた場合は、ジツまたはジュツと読み、mに転じた場合はシン(シム)と読む。証文や契約書では改竄や誤解をさけるため、拾と書くことがある、

とある(漢字源)が、

象形。はりの形にかたどる。「針(シム)」の原字。借りて、数詞の「とお」の意に用いる、

とも(角川新字源)、

指事或いは象形。まとめて一本「丨」にすることから、後にまとめたことが解るよう中央部が膨れた。或いは針の象形で、「針」の原字とも(なお、「シン」の音はdhiəɔpのp音がmpを経てm音となったもの)、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8D%81

象形文字です。「針」の象形から、「はり」の意味を表しましたが、借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「とお」を意味する「十」という漢字が成り立ちました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji132.html

「念」 漢字.gif


「念」(漢音デン、呉音ネン)は、「繋念無量劫」http://ppnetwork.seesaa.net/article/491112345.htmlで触れたように、

会意兼形声。今は「ふさぐしるし+-印」からなり、中に入れて含むことをあらわす会意文字。念は「心+音符今」で、心中深く含んで考えること。また吟(ギン 口を動かさず含み声でうなる)とも近く、経をよむように、口を大きく開かず、うなるように含み声でよむこと、

とある(漢字源)。別に、

形声。心と、音符今(キム、コム)→(デム、ネム)から成る。心にかたくとめておく意を表す、

とも(角川新字源)、

会意文字です(今+心)。「ある物をすっぽり覆い含む」事を示す文字(「ふくむ」の意味)と「心臓」の象形から、心の中にふくむ事を意味し、そこから、「いつもおもう」を意味する「念」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji664.html

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:43| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする