本筈(もとはず)末筈(うらはず)一つになれと、能引(よっぴ)きひやうと放つ。……乙矢(おや)を射る間のあらざれば、駒をはやめて逃げ来たる(曽呂利物語)、
とある、
乙矢(おや)、
は、普通、
おとや、
と訓ませ、
第二番目に射る矢、
の意である(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。因みに、「本筈」「末筈」は、
弓の両端の弦をかける所、上になる方を末筈、下になる方を本筈という、
とある(仝上)。「はず」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450205572.html)については触れたし、「弓」についても、「弓矢」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/450350603.html)で触れた。
手に持った二本の矢のうちで、二番目に射る矢を、
乙矢、
つまり、
二の矢(二矢)、
といい、
二本持って射る矢のうち初めに射る矢、
を、
甲矢(はや)、
つまり、
一の矢(一矢)、
という。
矢をつがえたとき、三枚羽根の羽表が外側になり裏が手前になる矢、
をいう(デジタル大辞泉)とある。これは、
鳥の羽は反りの向きで表裏があり、半分に割いて使用する。一本の矢に使う羽は裏表を同じに揃えられるため、矢には二種類できる。矢が前進したときに時計回りに回転するのが、
甲矢(はや、早矢・兄矢)、
逆が、
乙矢(おとや)、
となる。この、甲矢と乙矢あわせて一対で、
一手(ひとて)という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2)。矢は、二本(甲矢、乙矢)を一手(ひとて)ととし、
四本を単位、
として使用することが一般的である(世界大百科事典)とある。
「甲矢(はや)」は、
端矢(はや)なるか、
とあり(大言海)、
歩射、四十六歩、十箭中的、四已上者為及第、若一箭(イチノヤ)不中皮者、以二的准折(左衛門府式)、
とある(仝上)。
(矢羽(鷲)。下が甲矢、上が乙矢 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2より)
(甲矢と乙矢 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2より)
(甲矢 デジタル大辞泉より)
(乙矢 デジタル大辞泉より)
矢羽の数によっていくつか種類があり、
二枚羽、
は原始的な羽数で軌道が安定しにくいが、儀式用として儀仗に用いられ、飛ぶ軌道の安定性を得るため、
四枚羽、
となったが矢が回転しないため、
三枚羽、
で、
矢を回転させ鏃で的となる対象物をえぐり取り殺傷力が強化された、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%A2)。矢羽(やばね)は、
鷲、鷹、白鳥、七面鳥、鶏、鴨、
など様々な種類の鳥の羽が使用されるが、特に鷲や鷹といった猛禽類の羽は最上品とされ、中近世には武士間の贈答品にもなっている。使用される部位も手羽から尾羽まで幅広いが、尾羽の一番外側の部位である、
石打、
が最も丈夫で、希少価値も高く珍重される(仝上)。「石打」は、
石打ちの羽、
鳥が尾羽を広げたとき、両端に出る1番目(小石打ち)と2番目(大石打ち)の羽、
をいい、鷲や鷹のものは、特に矢羽として珍重された(デジタル大辞泉)。
(鷲羽根 https://qdou.exblog.jp/6120299/より)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95