2022年12月19日
ちぶりの神
世のいはゆる道陸神(どうろくじん)と申すは、道祖神とも又は祖神とも云へり。(中略)和歌にはちぶりの神などよめり(百物語評判)、
にある、
ちぶりの神、
は、
ちふりの神、
ともいい、
旅の安全を守る神、
とあり、
行く今日も帰らぬ時も玉鉾のちぶりの神を祈れとぞ思ふ(袖中抄)、
を引いている(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。因みに、『袖中抄』(しゅうちゅうしょう)は、顕昭が著した鎌倉時代の歌学書である(仝上)。
「道祖神」は、「さえの神」(http://ppnetwork.seesaa.net/article/489642973.html)で触れたように、
塞(斎 さえ)の神、
道陸神(どうろくじん)、
ともいい、
塞大神(さえのおおかみ)、
衢神(ちまたのかみ)、
岐神(くなどのかみ)、
道神(みちのかみ)、
などとも表記される(日本大百科全書)。
障(さ)への神の意で、外から侵入してくる邪霊を防ぎ止める神(岩波古語辞典)
路に邪魅を遮る神の意(大言海)、
邪霊の侵入を防ぐ神、行路の安全を守る神(広辞苑)、
さへ(塞)は遮断妨害の意(道の神境の神=折口信夫・神樹篇=柳田國男)、
等々という由来とされ、近世には、
集落から村外へ出ていく人の安全を願う、
悪疫の進入を防ぎ、村人を守る神、
としてだけでなく、
五穀豊穣、
夫婦和合・子孫繁栄、
生殖の神、
縁結び、
等々、
性の神、
としても信仰を集めた。中国では、もともと、
祖餞、崔寔(さいしょく 四民月令の著者)四民月(しみんげつれい 後漢時代の年中行事記)令曰、祖道神也、……故祀以為道祖、
と(「文選」李善註)、
行路神、
として祀られていたらしいが、平安期の御霊信仰の影響で、
境の神、
としての信仰が盛んになった(日本昔話事典)。
「ちぶりの神」は、
道触の神、
と当て、
わたつみのちふりのかみにたむけするぬさのおひかぜやまずふかなん(土佐日記)
と、
陸路または海路を守護する神。旅行の時、たむけして行路の安全を祈った、
とされ、
道祖神、
のこととされる(広辞苑・精選版日本国語大辞典)が、
隠岐国の一宮、
である、
隠岐の西ノ島町の由良比女(ゆらひめ)神社、
は、由良比女命をまつる。この神は「ちぶり神」ともいはれ、海上安全守護の神として信仰されてきた、
とあり(http://nire.main.jp/rouman/fudoki/42sima17.htm)、
上記土佐日記の、
わたつみのちぶりの神に手向けするぬさの追ひ風やまず吹かなん(袖中抄)、
と言い、確かに旅の守護神だが、
海路の旅の安全を守る神、
の色彩が強いのではないか、という気がする。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95