それは俗にいへるつるべおろしと云ふ、ひかり物なり(百物語評判)、
とある、
つるべおろし、
は、
垂直に上下する妖怪、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)が、本文は続いて、
其の光り物は大木の精にて、即ち木生火(もくしょうか 五行相生説では木は火を生ずる)の理なり。さて昼も顕はれず、わきへも見えざる事は、火は暗きを得て色をまし、明らかなるにあひて光を失ふ。常の事なり。就中(なかんずく)、木の下の暗き所にあらはれ見ゆるなるべし。(中略)其の火のうちにて陰火(いんか)、陽火(ようや)のわかちあり、陽火は物を焼けども、陰火は物を焼くことなし。(中略)此のつるべおとしとかやも、陰火なり、
と解釈している(百物語評判)。
(西岡の釣瓶おろし(『百物語評判』) 高田衛編・校注『江戸怪談集』より)
「つるべ」とは、
釣瓶、
と当て、言うまでもなく、
縄や竿の先につけて井戸の水をくみ上げる桶、
をいい、
つるべおけ、
ともいう(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。後には、
滑車の先に桶を結び桶の重さを利用して水を汲み上げる、
スタイルとなるが、
豊玉姫の侍者玉の瓶(ツルヘ)を以て水を汲む(神代紀)、
とあるように古くから使われている。
(釣瓶(桶) 広辞苑より)
(つるべ 精選版日本国語大辞典より)
瓶を使う井戸を、
釣瓶井戸、
といい、縄を付け滑車にかけて使う釣瓶を、
縄釣瓶、
といい、
二岐釣瓶 縄の両端に付けて上部の滑車で交互に上げ下げする釣瓶、
竿釣瓶 竹竿の片方に水かごを付けて上げ下げする釣瓶、
はね釣瓶 竹竿の片方に重石を付けて上げ下げする釣瓶、
投げ釣瓶 縄の一端に付け一方の端を持って水中に投げ込む釣瓶、
といった種類がある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%A3%E7%93%B6)らしい。
「つるべ」の語源は、
吊瓶(つるへ)の義(大言海)、
ツル(蔓)へ(瓶)の意(岩波古語辞典)、
とされ、
連るぶ、
とし、
続けざま、
という意とする(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%A3%E7%93%B6)ものもあるが、それは滑車を使うようになってのことではないか。
釣瓶落とし・釣瓶下し、
あるいは、
釣瓶おろし、
という言い回しは、釣瓶を井戸へ落とす感覚でわかるが、
釣瓶打ち・連るべ打ち、
というのは、滑車のそれで、手でくみ上げている感覚とは程遠い気がする。和名類聚抄(平安中期)には、
罐、楊氏漢語抄云、都留閇、汲水器也、
とある。
「つるべおろし」は、
釣瓶下ろし、
と当てるが、
釣瓶落とし(つるべおとし)、
ともいい、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』では、
釣瓶火(つるべび)、
としている(鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』)が、これは、上記『百物語評判』で、
西岡の釣瓶おろし、
として、
京都西院の火の玉の妖怪が描かれたもの、
が原典としている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%A3%E7%93%B6%E7%81%AB)とある。
(「釣瓶火」(鳥山石燕『画図百鬼夜行』) 鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』より)
木の精霊が青白い火の玉となってぶらさがったもの、
とする見方があるようである(仝上)が、
通行人が通ると木の上から降りてきて、食べてしまうという妖怪、
または、
大きな釣瓶を落として通行人を掬い、食べてしまう、
とも言われている(https://mouryou.ifdef.jp/100wa-mi/tsurube-otoshi.htm)。
参考文献;
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95