西方にあり、八功徳水(はちくどくすい)といふ(新御伽婢子)、
の、
八功徳水、
は、
はっくどくすい、
とも訓ませるが、
極楽浄土にある七宝の池、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。阿弥陀経に、
また舎利弗、極楽国土には七宝(しっぽう)の池あり。八功徳水(はっくどくすい)そのなかに充満(じゅうまん)せり。池の底にはもつぱら金(こがね)の沙(いさご)をもつて地(じ)に布(し)けり。四辺の階道(かいどう)は、金(こん)・銀(ごん)・瑠璃(るり)・玻璃(はり)合成(ごうじょう)せり。上に楼閣(ろうかく)あり。また金・銀・瑠璃・玻璃・硨磲(しゃこ)・赤珠(しゃくしゅ)・碼碯(めのう)をもつて、これを厳飾(ごんじき)す。池のなかの蓮華は、大きさ車輪のごとし。青色(しょうしき)には青光(しょうこう)、黄色(おうしき)には黄光(おうこう)、赤色(しゃくしき)には赤光(しゃっこう)、白色(びゃくしき)には白光(びゃっこう)ありて、微妙(みみょう)香潔(こうけつ)なり、
とあるのを指し(http://www.smj.or.jp/posts/houwa907.html)、
その(七宝の池)中に充満せり。その水清く涼しくて味(あぢはひ)甘露の如し(孝養集)、
とある、「七宝の池」は、
宝池をよめるはちす咲くたからの池にうく舟のまづ面影に浮びぬるかな(「草庵集(1359頃)」)、
と、
宝(たから)の池、
ともいい、
極楽浄土にある七宝で飾られた池で、そこには八功徳の水がたたえられている、
とある(精選版日本国語大辞典)。
「八功徳水」は、
八つの功徳を持つといわれる霊水、
をいうが、
八池水、
八定水、
八昧水、
八支徳水、
ともいい(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%85%AB%E5%8A%9F%E5%BE%B3%E6%B0%B4)、親鸞が、
七宝(しっぽう)の宝池(ほうち)いさぎよく 八功徳水(はっくどくすい)みちみてり 無漏(むろ)の依果(えか)不思議なり 功徳蔵(くどくぞう)を帰命(きみょう)せよ(浄土和讃)
と称えており、無量儒経には、
八功徳水、湛然盈満、清浄、香潔、味如甘露、
とあるが、その「八つの功徳」については、たとえば、
清、冷、軽、美、香、飲む時に適う、飲み已(をは)って患(うれへ)なし、臭からず、
の八種とあり(岩波古語辞典)、書言字考節用集(1717)には、
清浄、清冷、甘美、軽輭、美、香、飲無厭、潤沢、安和、飲時除飢渇一切患、飲已長養四大、
とあるが、「八つの功徳」は、経典によって異なり、倶舎論(くしゃろん)は、
須弥山をとりまく七内海に満ちる水、
として、
七中皆具八功徳水。一甘。二冷。三軟。四輕。五清淨。六不臭。七飮時不損喉。八飮已不傷腹、
と、
甘・冷・軟・軽・清浄・不臭・飲時不損喉(のどを損しない)・飲已不傷腹(腹を痛めない)、
の八徳とし(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%85%AB%E5%8A%9F%E5%BE%B3%E6%B0%B4)、
『称讃浄土経』(『仏説阿弥陀経』の異訳)は、
何等名爲八功徳水。一者澄淨、二者淸冷、三者甘美、 四者輕輭、五者潤澤、六者安和、七者飮時除飢渇等无量過患、 八者飮已定能長養諸根四大、增益種種殊勝善根、
と、
澄浄(ちょうじょう 澄み切っていて、底まで明らかに見える)・清冷(しょうりょう 清くて冷たい)・甘美(かんみ 甘くて美味しい)・軽軟(きょうなん 軽くて軟(やわ)らかい)・潤沢(じゅんたく 色艶があって、よく潤す)・安和(あんわ 身にも心にも心地が良い)・飲む時飢渇(きかつ)等の無量の過患(かげん)を除く(飲むと飢えや病気をいや)・飲み已(おわ)りて定(さだ)んで能(よ)く諸根(しょこん)四大(しだい)を長養(ちょうよう)し種々の殊勝の善根を増益(ぞうやく)す(飲むと心身を健やかに育てる)、
とする(http://shinshu-hondana.net/knowledge/show.php?file_name=hakkudokusui)。
(八功徳池図(東本願寺) https://www.higashihonganji-gansyosya.jp/より)
『観経疏』(善導 ぜんどう)には、
此水即有八種之德。一者淸淨潤澤、即是色入攝。二者不臭、即是香入攝。三者輕。四者冷。五者輭、即是觸入攝。六者美、是味入攝。七者飮時調適。八者飮已無患、是法入攝。此八德之義已在『彌陀義』中廣説竟。
と、
清浄(しょうじょう)・潤沢(にんたく 清浄で光っている)・臭(くさ)からず・軽(かろ)し・冷(すず)し・軟やわらか・(やわらかい)・美(うま)し・(甘美かんびである)飲む時調適(じょうちゃくす 飲んでいるときに心地がよい)・飲みをはりて患(うれひ)なし、
とある(http://www.smj.or.jp/posts/houwa907.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95