2023年01月13日
時めく
家、時めきて田園多く、子供五人持てり(新御伽婢子)、
の、
時めきて、
は、
繫栄していて、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
「時めく」は、
今を時めく、
といった使い方をするが、
「めく」は接尾語、
で、「ときめく」で触れたように、
名詞・形容詞語幹・副詞について四段活用の動詞をつくる(岩波古語辞典)、
体言・副詞などについて、五段活用の動詞をつくる。特にそう見える、そういう感じがはっきりする(広辞苑)、
名詞・形容詞・形容動詞の語幹や擬声語・擬態語などに付いて「~のようになる」「~らしくなる」「~という音を出す」などの意の動詞を作る接尾辞(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%82%81%E3%81%8F)、
名詞や副詞、形容詞や形容動詞の語幹に付いて、…のような状態になる、…らしいなどの意を表す。「夏めく」「なまめく」「ことさらめく」「時めく」「ちらめく」「ひしめく」「ざわめく」(大辞林)、
等々とある。で、「時めく」は、
東宮の学士になされなどして、ときめく事二つなし(宇津保物語)、
と、
よい時機にあって声望を得、優遇される(岩波古語辞典)、
よい時に遭(あ)って全盛をほこる、よい時機にめぐりあって世間にもてはやされる(精選版日本国語大辞典)、
といった意味で使い、その派生で、
みささぎや、なにやときくに、ときめきたまへる人々、いかにと思ひやりきこゆるに、あはれなり(「蜻蛉日記(974頃)」)、
いつれの御時にか、女御更衣あまたさふらひ給けるなかに、いとやむことなききはにはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり(源氏物語)、
と、
主人・夫などから、特別に目をかけられる、
寵愛(ちょうあい)をうけて、はぶりがよくなる、
意や、
春宮に立たせ給ひなんと、世の人時明(トキメキ)あへりしに(太平記)、
と、
にぎやかにうわさする、
意でも使う(精選版日本国語大辞典)。「もてはやす」という語感であろうか。
この「時めく」と、
胸がときめく、
という、
一夜のことや言はむと、心ときめきしつれど(枕草子)、
と、
喜びや期待などで胸がどきどきする、
意で使う「ときめく」との関係については、「ときめく」で触れたように、「時めく」の、
語源は、「時+めく(そういう様子になる)」です。「良い時期に巡り合い、栄える」意味です。現代語では、喜びや期待などで、胸がどきどきする意です。トキメキは、その名詞形です、
と(日本語源広辞典)、
時めく→ときめく、
とする説がある。これでいくと、状態表現としての「栄えている」という、客体表現から、主体の感情表現に転じたということになる。しかし、どの辞書(広辞苑・大辞林・大辞泉・日本国語大辞典・岩波古語辞典)も、
時めく、
と
ときめく、
とは、別項を立てて区別している。
むしろ、「ときめく」は、どこか擬音語ないし擬態語の気配があるが、擬音語、
どきどき、
について、
「どきどき」は「はらはら」「わくわく」と合わせて使うことも多い。…また、「どきどき」からできた語に期待や喜びなどで心がおどる意の「ときめく」がある、
とある(擬音語・擬態語辞典)。「どきどき」は、
激しい運動や病気で心臓が鼓動する音、
あるいは
心臓の鼓動が聞こえるほど気持ちが高ぶる、
の意味で、心臓の「ドキドキ」の擬音語である。
とすると、「ときめき」は、
どき(どき)めき→ときめき、
と、転訛したことになる。さらに、
どきめき→時めき、
と転訛したということもありえる。他に、
動悸+めく、
とする説が、
「ときめき」は、「ときめく(動詞)」の名詞です。「ときめく」は、喜び・期待などで胸がドキドキすることで、「動悸」に「めく」がついた「動悸めく」がなまったものじゃないでしょうか。「○○めく」とは、○○のように見える、○○の兆しが見える、という意味。(春めく・おとぎ話めく・きらめく・さんざめく、など)、
や(http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1115078051)、さらに、
「ときめくっていうのは、「何かに心が揺り動かされて喜びとか期待を感じてドキドキする様子」の事を指して使われる表現だね。これと同じように語尾に「めく」がくっついている言葉っていうのは「◯◯みたいに見える」というような意味で使われる事が多いんだよね。「ときめく」の場合は、「とき」というのが「動悸」からきているという説があるんだよね。つまり「ドキドキしているように見える」という意味から「動悸めく」という言葉が生まれて、そこから派生して「ときめく」という表現になったと考えられるね、
等々がある(http://www.lance2.net/gogen/z581.html)。つまり、「ときめく」は、
動悸めく→ときめく、
の転訛とする。こう見ると、接尾語「めく」を中心に考えると、
時+めく、
動悸+めく、
と、「ときめく」と「時めく」が二系統でできたとする考え方もあるが、いまひとつ、元々擬音語のドキドキからきた、
どきどき+めく(あるいは、どき+めく)、
が、主体の、
いまの興奮状態を指し示す、
状態表現から、
その状態を外からの視線で見て、
もて囃されている、
と、客体表現に転じた、と見ることもできる。『語感の辞典』には、「ときめき」について、こうある。
心臓がドキドキする意から。宝くじに当たったことを知った瞬間の喜びより、それによる素晴らしい未来を想像して昂奮する方に中心がある、
ここにある語感は、いまの主体表現としての、
興奮した状態、
を、未来の主体表現、あるいは、未来の状態表現、
そういう状態にいる自分、
という含意がある。そこからは、外部の、他者の状態表現に転じやすくはないだろうか。
「時」(漢音シ、呉音ジ)は、「時」で触れたように、
会意兼形声。之(シ 止)は足の形を描いた象形文字。寺は「寸(手)+音符之(あし)」の会意文字で、手足をはたらかせて仕事をすること。時は「日+音符寺」で、日がしんこうすること。之(いく)と同系で、足が直進することを之といい、ときが直進することを時という、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(止+日)。「立ち止まる足の象形と出発線を示す横一線」(出発線から今にも一歩踏み出して「ゆく」の意味)と「太陽」の象形(「日」の意味)から「すすみゆく日、とき」を意味する漢字が成り立ちました。のちに、「止」は「寺」に変化して、「時」という漢字が成り立ちました(「寺」は「之」に通じ、「ゆく」の意味を表します)、
ともある(https://okjiten.jp/kanji145.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
中村明『日本語語感の辞典』(岩波書店)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95