2023年01月15日
けつらふ
紅粉翠黛(こうふんすいたい)たる顔にいやまさりて、けつらひ、愁(うれ)へる眼(まなこ)、涙に浮き腫れたり(新御伽婢子)、
にある、
けつらひ、
は、
つくろい、粧い、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。紅粉翠黛は、
美しい顔の色、みどりのまゆずみをほどこした美しい眉、
とある(仝上)。「紅顔翠黛」と同義である。
「けつらひ」は、
けつらふ(う)、
の名詞化であるが、「けつらふ」は、辞書によっては載らなず(大言海・岩波古語辞典)、
けすらふ、
で載る(仝上)。ただ、
けつらふ、
は、
けすらふ、
と同じとある(広辞苑)。「けつらふ」は、
けづらふ、
ともいい(精選版日本国語大辞典)、
けすらふ、
は、
けずらふ、
ともいう(岩波古語辞典)。そして、「けすらふ」は、
擬ふ、
と当てる(大言海・岩波古語辞典)。
これをみると、
たけぶ(咆ぶ)→さけぶ(叫ぶ)、
くたす(腐す)→くさす(貶す)、
ちゃ(茶)→さ(茶)、
などと、
タ行(t)→サ行(s)間の子交(子音交替)
が起こったと見ることができる。たとえば、
「けつらふ」は、
我可然者と云れうとてみなけつらうたぞ(「寛永刊本蒙求抄(1529頃)」)、
と、
つくろった様子や態度をする、
きどる、
の意や、
まづは㒵(かほ)しろしろとけつらひて(「浮世草子・好色旅日記(1687)」)、
と、
つくろう、
めかす、
粧(よそお)う、
化粧する、
意で使う(精選版日本国語大辞典)。「けすらふ」は、
色色に染めたる物をかづきて身をけずらふ(「孝養集(平安後期)」)、
と、
粧ふ、
化粧する、
意で使う。易林節用集(1597)には、
擬、ケスラフ、姣、同、
とある。ただ、語源はわからない。
「擬」(漢音ギ、呉音ゴ)は、
会意兼形声。疑は「子+止(足)+音符矣(人が立ち止まり、振り返る姿)」からなる会意兼形声文字で、子どもに心が引かれて足をとめ、どうしようかと親が思案するさま。擬は「手+音符疑」で、疑の原義をよく保存する。疑は、「ためらう、うたがう」意に傾いた、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(扌(手)+疑)。「5本の指のある手」の象形と「十字路の左半分の象形(のちに省略)と人が頭をあげて思いをこらしてじっと立つ象形と角のある牛の象形と立ち止まる足の象形」(「人が分かれ道にたちどまってのろま牛のようになる」の意味)から、「おしはかる」を意味する「擬」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1783.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95