2023年01月16日

是生滅法


既に半夜(はんや まよなか、子(ね)の刻から丑(うし)の刻まで)の鐘、是生滅法(ぜしょうめつほう)の響きを告げ、世間静かなるに(新御伽婢子)、

とある、

是生滅法、

は、

万物はすべて変転し生滅する、不変のものは一つとしてないという、涅槃経の四句偈のひとつ、

と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。普通、

是生滅法、

は、

ぜしょうめっぽう、

と訓ませ、

諸行無常(しょぎょうむじょう)、
是生滅法(ぜしょうめっぽう)、
生滅滅已(しょうめつめつい)、
寂滅為楽(じゃくめついらく)、

の四句偈(げ)の一つで(諸行は無常なり 是れ生滅の法なり 生滅を滅し已(お)わりて 寂滅を楽となす)、涅槃経の、「雪山童子」の説話で、

釈尊は過去世に雪山で修行していたので雪山童子(せっせんどうじ 雪山大士)と呼ばれるが、雪山に住していたとき帝釈天が羅刹(ラークシャサ)の形をして現れてこの偈の前半を説いたとき、さらに後半を教えてもらうために身を捨てた、

という伝説があるので(自分の身命を施す菩薩行の代表例として引用されることが多い)、

雪山偈(せっせんげ)、

と呼び(「雪山」はヒマラヤを指すとされる)、

諸行無常偈、
無常偈、

ともいいhttp://www.joukyouji.com/houwa0604.htm、偈の全体の意味は、三法印(仏教の根本にある三つの概念)の、

諸行無常(あらゆる物事(現象)は変化している。変化しない、固定的な物事は存在しない)、
諸法無我(あらゆる存在(ダルマ 法)の中には我(アートマン)は無い)、
涅槃寂静(煩悩の炎の吹き消されたさとりの境地(ニルヴァーナ 涅槃)は心が安らかに落ちついた(至福の)状態である)、

に近いとされ、法然は、

かりそめの色のゆかりの恋にだにあふには身をも惜しみやはする、

と詠い、俗説に、

いろはにほへとちりぬるを(色は匂えど散りぬるを)、
わかよたれそつねならむ(我が世誰ぞ常ならむ)、
うゐのおくやまけふこえて(有為の奥山今日越えて)、
あさきゆめみしゑひもせす(浅き夢見じ酔ひもせず)、

の、

いろはうた、

がこれを訳したものと言われ(仝上)、「無上偈」は、

諸行无常、是生滅法と云ふ音(こゑ)風のかに聞こゆ(「観智院本三宝絵(984)」)、
とか、
初夜の鐘を撞く時は諸行無常と響くなり、後夜の鐘を撞く時は是生滅法と響くなり(光悦本謡曲「三井寺(1464頃)」)、
とか、
初夜の鐘を撞く時は諸行無常と響くなり、後夜の鐘を撞く時は是生滅法と響くなり、晨朝(しんちょう)の響きは生滅滅已、入相(いりあい)は寂滅為楽と響くなり(長唄「娘道成寺」)、

等々と使われる(仝上・精選版日本国語大辞典)、

因みに、「偈」(げ サンスクリット語ガーターgāthāの音写の省略形)は、漢語では、

頌(じゅ)、
あるいは、
讃(さん)、

とも翻訳される、

仏典のなかで、仏の教えや仏・菩薩の徳をたたえるのに韻文の形式で述べたもの、

をいい、

偈陀(げだ)、
伽陀(かだ)、

とも音写し、意訳して、

偈頌(げじゅ)、

ともいい、対して散文部分を、

長行、

という(精選版日本国語大辞典・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%88)とある。古来インド人は詩を好み、仏典においても、詩句でもって思想・感情を表現したものがすこぶる多い。漢語では、これを三言四言あるいは五言などの四句よりなる詩句で訳出される。たとえば、七仏通戒偈(しちぶつつうかいげ)で、

諸悪莫作(しょあくまくさ)、
諸善(しょぜん 衆善)奉行(ぶぎょう)、
自浄其意(じじょうごい)、
是諸仏教(ぜしょぶっきょう)、

とか、法身偈(ほっしんげ)で、

諸法従縁生(しょほうじゅうえんしょう)、
如来説是因(にょらいせつぜいん)、
是法従縁滅(ぜほうじゅうえんめつ)、
是大沙門説(ぜだいしゃもんせつ)、

と共に、「雪山偈」も仏教の根本思想を簡潔に表現したもの(日本大百科全書)とされる。四句から成るものが多いため、単に、

四句、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。

「偈」 漢字.gif

(「偈」 https://kakijun.jp/page/ge11200.htmlより)

「偈」(漢音ケイ・ケツ、呉音ゲ・ゲチ)は、

会意兼形声。「人+音符曷(カツ 声をからしてどなる)」、

とある(漢字源)。

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:06| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする