女も遠くしたひ又の日をかねことし、あかで別るる横雲の空など、名残り惜しみ(新御伽婢子)、
の、
かねこと、
は、
約束、
と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
かねこと、
は、
兼ね言、
兼言、
予言、
などと当て(広辞苑・岩波古語辞典)、
ゆゆしきかねことなれど、尼君その程までながらへ給はむ(源氏物語)、
と、
前もって先を見越して言う言葉、予言、
の意で、その意味の外延として、
必ずこれをいひつけにもなど宣はせし御かねことどもいと忘れがたくて(栄花物語)、
と、
前もって言い置いた言葉、
豫(かね)て言ひ置ける言(ことば、)、
豫約の詞、
つまり、
約束、
の意でも使う(岩波古語辞典・大言海)。また、
昔せし我がかね事の悲しきは如何契りしなごりなるらん(「後撰和歌集(951~53)」)、
と、
かねごと、
とも訓ませる(大言海・精選版日本国語大辞典)。
兼ぬ、
は、
口語で、
兼ねる、
で、
現在のあり方を基点として、時間的・空間的に、一定の将来または一定の区域にわたる意、
とあり、
御子(みこ)の継(つ)ぎ継ぎ天(あめ)の下知らしまさむと八百万(やおよろず)千年(ちとせ)をかねて定めけむ奈良の都はかぎろひの春にしなれば(万葉集)、
と、
現在の時点で、今からすでに将来のことまで予定する、
見込む、
という意で使う(岩波古語辞典)。で、その延長線上で、
あらたまの年月(としつき)かねてぬばたまの夢(いめ)にし見えむ君が姿は(万葉集)、
と、
時間的に今から長期にわたる、
意で使い、それを空間的に使うと、
一町かねて辺りに人もかけられず(大鏡)、
と、
現在点を中心に一定の区域にわたる、
と、空間的か外延の広がりに使い、それを抽象化すれば、
一身に数芸をかねたれば(保元物語)、
と、
併せ持つ、
意となり、
大臣の大将をかねたりき(平治物語)、
と、
兼職、
の意となる(仝上)。それを心理的に援用すれば、
また人のこころをもかねむ給へかし(源平盛衰記)、
と、
(あちこちに)気を使う、
気をつかって人の気持ちをおしはかる、
意で使う。これの応用が、他の動詞の連用形に接続し複合動詞として用い、
納得しかねる、
何とも言いかねる、
と、
~しようとして、できない、~することがむずかしい、
意や、「~しかねない」などの形で、
悪口も言い出しかねない、
などと、
~するかもしれない。~しそうだ、
の意で使う(デジタル大辞泉)。
(「兼」 金文・春秋時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%85%BCより)
「兼」(ケン)は、
会意文字。「二本の禾(いね)+手」で、一書に併せ持つさまを示す、
とある(漢字源)。別に、
会意。秝(れき 二本のいね)と、又(ゆう 手)とから成り、二本のいねを手でつかむ、あわせもつ意を表す、
とも(角川新字源)、
会意文字です。「並んで植えられている稲の象形と手の象形」から、並んだ稲をあわせて手でつかむさまを表し、そこから、「かねる」を意味する「兼」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1327.html)。趣旨は同じである。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95