2023年01月18日
一跡
我が一跡を掠め取り、身の佇(たたず)み(置き所)もならず、所さへ追ひ失はれし(新御伽婢子)、
の、
一跡、
は、
財産のすべて、
あひかまへて、小分の(少額の)かけにし給ふな。身代一跡と定めらるべし(仝上)、
の、
身代一跡、
は、
全財産、
と、それぞれ注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。
一跡、
の、
跡は、後裔(あと)の義、跡目と云ふ語も、これより出づ、
とある(大言海)ように、
其上大家の一跡、此の時断亡せん事勿体無く候(太平記)、
と、
家筋のつづき、
一系統、
という意味が本来の意で、転じて、
相摸入道の一跡(セキ)をば、内裏の供御料所に置かる(太平記)、
と、
後継ぎに譲る物のすべて、
遺産、
の意となり、転じて、
家一跡は申すに及ばず、女共の身のまはりまで、打ち込(ご)うでござるによって(狂言「子盗人」)、
博奕、傾城狂ひに一跡をほつきあげ(仮名草子「浮世物語(1665頃)」)、
などと、
全財産、
身代、
の意となった(仝上・精選版日本国語大辞典)。その意から、
ねぢぶくさ取出し、一跡(イッセキ)に八九匁あるこまがねの中へ銭壱弐文入れて(浮世草子「傾城色三味線(1701)」)、
と、
全体、
ありったけ、
の意(仝上)となり、視点が讓る側から、譲られる側に転じて、
身が一せきのせりふの裏を食はすしれ者(浄瑠璃「嫗山姥(1712頃)」)、
と、
自分だけが相伝した物、
さらに、
自分の占有、
特有、
独自、
の意に転じていく(仝上)。で、
一跡に、
と使うと、
一跡に一人ある子を、さんざん折檻して(浮世草子「石山寺入相鐘」)、
と、
ありったり、
の意で使う(岩波古語辞典)。
「跡」(漢音セキ、呉音シャク)は、
会意文字。亦は、胸幅の間をおいて、両脇にある下を指す指事文字。腋(エキ)の原字。跡は「足+亦」で、次々と間隔をおいて同じ形のつづく足あと、
とあり(漢字源)、「一跡」の意味に適う当て字になっている。別に、
会意兼形声文字です(足+亦)。「胴体の象形と立ち止まる足の象形」(「足」の意味)と「人の両わきに点を加えた文字」(「わき」の意味だが、ここでは、「積み重ねる、あと」の意味)から、「積み重ねられた足あと」を意味する「跡」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1232.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95