宮(きゅう)商(しょう)角(かく)徴(ち)羽(う)の五音(ごいん)にもこえ十二調子にもはづれ、音楽、糸竹(しちく 「糸」は琴、琵琶などの弦楽器、「竹」は笙(しょう)、笛などの管楽器の総称)にものらぬとぞ(新御伽婢子)、
の、
五音、
は、
日本、中国で称した五音階、
で、
五声(ごせい)、
ともいう(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。また、
十二調子(じゅうにちょうし)、
は、
雅楽に用いられた十二の音、一オクターブ間を一律(約半音)の差で十二に分けたもの、
と注記がある(仝上)。「十二調子」は、
十二律の俗称、
とある(広辞苑)。
(十二律比較 広辞苑より)
五音、
は、日本・中国の音楽で、低音から、
宮(きゅう)・商(しょう)・角(かく)・徴(ち)・羽(う)、
の5音を言い、また、その構成する音階をも指す(広辞苑)。五音(ごいん)に、
変徴(へんち 徴の低半音)・変宮(へんきゅう 宮の低半音)、
を加えた7音を、
七音(しちいん)、
または、
七声(しちせい)、
といい(仝上)、西洋音楽の階名で、宮をドとすると、商はレ、角はミ、徴はソ、羽はラ、変宮はシ、変徴はファ#に相当し、
宮・商・角・変徴・徴・羽・変宮はファ・ソ・ラ・シ・ド・レ・ミに相当、
し
西洋の教会旋法のリディアの7音に対応する、
とあり(広辞苑・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E5%A3%B0)、
日本の雅楽や声明(しょうみょう)も使用する、
とする(仝上)。なお、「五声」は、
三分損益法(さんぶんそんえきほう)、
に基づいている(仝上)とある。『史記』に、
律數 九九八十一以為宮 三分去一 五十四以為徵 三分益一 七十二以為商 三分去一 四十八以為羽 三分益一 六十四以為角、
とあるが、これは、
完全5度の音程は振動比2:3で振動管の長さは2/3となる。すなわち、律管の3分の1を削除すると5度上の音ができ、加えると5度下の音ができる。前者を三分損一(去一)法、後者を三分益一法と称し、両者を交互に用いるのが三分損益法である、
とあり(日本大百科全書)、
5度上の音を次々に求めるピタゴラス定律法と同じ原理、
で、日本では、
損一の法を順八、益一の法を逆六、
といい、別名、
順八逆六の法、
と称する(仝上)とある。つまり、古代ギリシャでも古代中国でも音楽は盛んだったが、二つの異なる文化が、
周波数比が2:3である二つの音はよく調和する、
という全く同じ現象に到達していたのである(https://www.phonim.com/post/what-is-temperament)。現代では周波数が2:3であるような音は、
完全5度、
と呼ばれている(仝上)。
日本へは奈良時代にこの中国の五声が移入されたが、平安時代になると日本式の五声が生まれ、中国の五声の第五度(徴)を宮に読み替えた音階で、西洋音階のド・レ・ファ・ソ・ラに相当する。中国の五声を、
呂(りょ)、
日本式の五声を、
律(りつ)、
とよぶのが習わしとなった(仝上)。
因みに、音階中の各音の音程関係を規程する基準を、
音律、
というが、中国、日本の音律は、
十二律、
である。
「十二律」は、『前漢志』や『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』には、
4000年前黄帝の代に、伶倫(れいりん)が命を受け昆崙山(こんろんざん)の竹でつくった、
とあるが、中国では、
黄鐘(こうしょう)を基音、
として、
黄鐘(こうしょう)を三分損一して林鐘(りんしょう)、次に益一して太簇(たいそく)、
と、以下同様にして得て、
黄鐘(こうしょう)、大呂(たいりょ)、太簇(たいそく)、夾鐘(きょうしょう)、姑洗(こせん)、仲呂(ちゅうりょ)、蕤賓(すいひん)、林鐘(りんしょう)、夷則(いそく)、南呂(なんりょ)、無射(ぶえき)、応鐘(おうしょう)、
となる。前漢の京房(けいぼう)はこれを反復して、
六十律、
南朝宋の銭楽之(せんらくし)は、
三百六十律、
を求めた(仝上)という。日本では天平七年(735)吉備真備が『楽書要録』で伝えたのち、平安時代後期より雅楽調名に基づいて、
壱越(いちこつ)、断金(たんぎん)、平調(ひょうじょう)、勝絶(しょうせつ)、下無(しもむ)、双調(そうじょう)、鳧鐘(ふしょう)、黄鐘(おうしき)、鸞鏡(らんけい)、盤渉(ばんしき)、神仙(しんせん)、上無(かみむ)、
の名称が決められた(仝上)。ただ、中国では、
標準音の絶対音高が時代によって異なるので、律名をそのまま絶対的な音名ということはできない、
ようだが、日本独自の、
十二律、
十二調子、
は、
壱越 (いちこつ)がほぼ洋楽のニ音に相当し、以下、順に半音ずつ高くなっていくので、律名は音名といってもさしつかえない、
とある(ブリタニカ国際大百科事典)。しかし、
雅楽や声明、
を除けば、この12の律名はあまり用いられず、普通は、もっと実用的な、
一本(地歌・箏曲・長唄・豊後系浄瑠璃などでは黄鐘〈おうしき〉イ音、義太夫節では壱越ニ音)、
二本(変ロ音または嬰ニ音)、
三本(ロ音またはホ音)、
という名称が使われている(仝上)とある。
西洋音楽の音律理論は古代ギリシアのピタゴラス音律に始まり、求め方は十二律と同じだが、12番目の音は厳密には基準音より、わずかに高く、その差を、
ピタゴラスのコンマ、
といい、この、
長3度、長6度の不協和問題、
となり、これを解決するために、3倍と2倍のみを使って作った音律である、
ピタゴラス律、
に対し、基準の音から簡単な整数倍で作る、
純正律、
純正律が考案されていくことになる(仝上)。
(十二律 日本大百科全書より)
(十二調子 精選版日本国語大辞典)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95