2023年01月23日

松明


平野海道を、もどりけるに、弓削のかたより、大いなる明松(たいまつ)をともして来る(平仮名本・因果物語)、

にある、

明松(たいまつ)、

は、普通、

松明、
炬、

などと当て(広辞苑)、

炬火、
松炬(しょうきょ)、

などともいい(大言海)、

ついまつ、
しょうめい(松明)、
たてあかし、
たきあかし、
ともしび、
うちまつ、
続松(ついまつ)、

あるいは、略して、

まつ、

ともいい(仝上・広辞苑・精選版日本国語大辞典)、

松のやにの多い部分や竹・あしなどをたばね、火をつけて照明に用いたもの、

をいう(広辞苑)。「松明(しょうめい)」は、

松明夜當燈(載石屛)、

と、漢語で、

松の木の心の油のあるものをもやすをいふ、

とあり(字源)、

忽然白蝙蝠、來樸松炬明(皮日休、入林屋堂詩)、

と、

松炬(しょうきょ)、

ともいう(仝上)。「たいまつ」で触れたように、

松明(しょうめい)は、通鑑、唐肅宗紀、註「松枯而油存、可燎之為明」という語句アリ、正字通「滇人以松心為炬、號曰松明」、

とある(大言海)。

たいまつ.bmp

(たいまつ 精選版日本国語大辞典より)

「たいまつ」は、

松明(まつほ)にて作れる炬火、

で(仝上)、「炬火」は、

「炬」は、かかげる火の意、

である。「炬火」は、

こか、

とも訓ませ、

たいまつの火、

の意(広辞苑)だが、

薪を束ねて立てて火を点じ、灯火とするもの、

で、

たてあかし、

ともいい、どちらかというと、

かがりび、

に近くなる(精選版日本国語大辞典)。「たてあかし」は、

立明、
炬火、

とあて、

庭上に人々をならべ、かかげ持たせて照明とした松明(たいまつ)、

をいうが、また、

庭上に立てて用いる松明、

とあり(仝上)、これが、

炬火(こか)、

あるいは、

たちあかし、
あるいは、
たてあかし、

で、

炬火(きょか)、

が、

たいまつ、

になるが、「きょか(炬火)」を、

たいまつ、
かがり火、

と並べるもの(広辞苑)もあり、あまり厳密とは思えないが、平安時代には、「たいまつ」は、単に、

まつ、

とも言い、庭上で立てて使う場合は、

たてあかし、
たちあかし、

とも呼んだ(日本語源大辞典)。また、

ついまつ(続松)、

と記した例も多く、両者は同じように使われていたらしい。鎌倉・室町時代になると、

まつび、
まつあかし、
あかしまつ、

などと新しい呼び名も生まれる(仝上)、とある。確かに、和名類聚抄(平安中期)は、「たてあかし」を、

炬火、太天阿加之、束薪灼之、

とし、「たいまつ」は、

松明者、今之續松乎、

と区別している。ついでながら、「続松」(ついまつ)は、

つぎまつ、
つきまつ、

とも訓み(平安末期『色葉字類抄』)、

松を続けて燃やす意の「つ(継)ぎまつ(松)」のイ音便(学研全訳古語辞典)、
つぎまつの音便、續松明(つぎたいまつ)の略と云ふ(大言海)、

などとあるが、どうも本来は、

松明の燃え尽きんむとする時、続ぎ足すべく用意する松明の名ならむ、

とある(江家次第・大言海)。ただ、古来マツはひで(脂の多い根)を裂いて台上で燃やしたり、松脂をこねて蝋燭にして照明にし、平安時代の、続松(ついまつ)も、

松脂蝋燭、

らしい(世界大百科事典)ともある。「たいまつ」は、本来は、

脂(やに)の多い松材、

の意なので、それを、

続松(ついまつ)、
肥松(こえまつ)、

と言ったらしい(日本大百科全書)ので、「たいまつ」の原形に近いものなのかもしれない。

「たいまつ」は、

手に持って照明としたもの、

をいうので、古くは、手に持つ灯火を、

たび、

と呼び、

秉炬、
手火、

と当てた(いまもタイといっている地方がある)。のちに、

炬火、
焚松、
松明、

などと書いてタイマツとよぶようになった(日本大百科全書)とあるのが分かりやすい。和漢三才図会によると、

タケを心にマツ、クヌギ、スギなどを細く割って作り、もとを鉄の帯で巻く、

あり、

約1mで1時間もつ、

とある。

なお、「たいまつ」の語源は、「たいまつ」で触れたように、

焼(た)き松の音便(大言海)、
タキマツ(焚松)の音便(広辞苑・大辞泉・学研全訳古語辞典)、
タキマツ(焼松・焚松・燔松)の(名語記・日本釈名・類聚名物考・箋注和名抄・俗語考・柴門和語類集・日本語原学=林甕臣・大言海)、

と、ほぼ、

焚く松、

の意となるようである。

たいまつ②.jpg

(たいまつ 学研国語大辞典より)

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:54| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする