存生(ぞんじょう)のとき、かの腰元と、つねづね双六(すごろく)を好きて、うたれしが(諸国百物語)、
とある、
双六、
は、
盤双六、
を指し、
当時の双六は、貴人の遊びで、双六盤に二人が向い合い、相互に筒に入れた二個の采(さい)を振り出し、出た采の目によって、自分の駒を相手の陣営に進める遊び、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)が、古い形の、
バックギャモン(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%A2%E3%83%B3)、
の一種で、
盤上に白黒一五個ずつの駒(コマ)を置き、筒から振り出した二つの采(サイ)の目の数によって駒を進め、早く敵陣にはいった方を勝ちとする、
とある(大辞林)。「双六盤」は、
中間に横に1条の間地を設け、縦に左右各12の長方形の地を設けたもの。厚さ4寸、縦8寸、横1尺2寸を一つの規準とするほか、大きさは一定しない、
とある。采筒は、
長さ10センチメートル、
で、二個の采の目には慣用の呼称があり、同じであった場合、
重一(でっち)、
重二(じゅうに)、
朱三(しゅさん)、
朱四(しゅし)、
重五(でっく)、
畳六(じょうろく)、
等々と呼ぶ(日本国語大辞典)とある。日本には、
武烈(ぶれつ)天皇時代(6世紀初め)に朝鮮半島を経由して渡来した、
とも、
遣唐使吉備真備(きびのまきび)が天平七年(735)に唐土からもたらした、
とも言われ、『日本書紀』持統紀に、
三年(689)十二月丙辰、禁断雙六(すごろくをきんだんす)、
と禁令が発せられており、すでに賭博の具として流行していたことされる(日本大百科全書)。
平安時代は、
上手が黒、
江戸時代は、
上手が白とされた(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%99%E3%81%94%E3%82%8D%E3%81%8F)とある。中古以来、賭博(トバク)として行われることが多かったが、文化文政時代には衰微していた(仝上)。
なお、「とばく」、「ばくち」については前に触れた。
(双六盤 広辞苑より)
(盤すごろく 大辞林より)
すごろく、
には、由来の異なる、
盤双六、
と、
絵双六、
とがあり、「盤双六」は、
エジプトまたはインドに起こり、中国から奈良時代以前に伝わった、
が(大辞林)、「絵双六」は、盤双六の影響を受けて発達した遊戯で、
紙面を多数に区切って絵を描いたものを用い、数人が順にさいを振って、出た目の数だけ区切りを進み、早く最後の区切り(上がり)に達した者を勝ちとする遊び、
で、
回り双六、
と、
飛び双六、
とがある(大辞泉)が、
かなり早い段階で(賭博の道具でもあった)盤双六とは別箇の発展を遂げていった、
とされ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%99%E3%81%94%E3%82%8D%E3%81%8F)、最古のものとされる浄土双六は、
絵の代わりに仏教の用語や教訓が書かれており、室町時代後期(15世紀後半)には、
浄土双六、
が遊ばれていたとされる。江戸時代の元禄年間には、
道中双六、
野郎双六(芝居双六)、
等々絵入りの双六が遊ばれるようになり、後期になると勧善懲悪や立身出世などのテーマ性を持ったものや浮世絵師による豪華な双六も出現した(仝上)が、近代以降は特に正月の子供の遊びとなる(広辞苑)。
(『新版御府内流行名物案内双六』(歌川芳艶) 江戸の名店や食べ物など、当時の名物をちりばめた絵双六 日本大百科全書より)
(『しんせん工夫双六』(浅草、御殿山、王子など、江戸の名所を題材とした円形の絵双六) 日本大百科全書より)
「すごろく」の語源は、
すぐろくの転(岩波古語辞典)、
とあり、
中世以前はスグロクの語形が一般的であったが、のちにスゴロクに転じた、
とある(日本語源大辞典)。
「すぐ」は「双」の古い字音(sung)を写したもの、
とある(日本国語大辞典・岩波古語辞典)が、
唐音ならむ(大言海)、
朝鮮語のサグロクから転訛したもの(日本大百科全書)、
ともある。漢語では、
雙六(そうりく)、
と呼び、
雙陸に同じ、
とある(字源)。
天竺に出て、婆羅塞戯と名づく、支那に入り、初、六箸を投じ、白棊(ゴ)、黒棊、各、六を行(ヤ)る、故に、名とす。又、二つの盤に、六の目の雙び出たるを勝とするより、名ありとも云ふ、
とある(大言海)。『涅槃経(ねはんぎょう)』には、
波羅塞戯(ばらそくぎ)、
とあり(日本大百科全書)、これを嚆矢とするとする説である。
「双(雙)」(ソウ)は、
会意。雙は、「隹(とり)+隹+又(ユウ 手)」で、二羽ひとつがいの鳥を手で持つことを指す。双は、又(て)を二つ書いた略字、
とある(漢字源)。別に、
隹一つが一羽の鳥を手に持つのに対して、二羽の鳥を手で持つことから、一つがいの鳥の意。転じて、対になるものの意に用いる、
とある(角川新字源)。
会意文字です(隹+隹+又)。「2羽の尾の短いずんぐりした小鳥」の象形と「右手」の象形から、2羽の鳥を手にする事を意味し、そこから、「ふたつ」、「ペア(2つで1組のもの)」を意味する「双」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1713.html)。
「六」は、「六道四生」で触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95