2023年01月26日

火定(かじょう)


汝、早く此の娑婆を立ちさりて、火定(かじょう)に入るべし。その時来迎して、西方へ救ひとらん(諸国百物語)、

とある、

火定(かじょう)、

は、

火中禅定、

ともいい、

自ら焼身して、弥陀の世界にはいること、

と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。

火化、

ともいう(広辞苑)。

「西方」とは、いうまでもなく、

西方浄土、

の意である(仝上)。「禅定」で触れたように、

本来、

禅に同じ、

とある(岩波古語辞典)。「禅」は、

梵語dhyānaの音写、

とされ、その音訳、

禅那の略、

で(大言海)、

静慮、定・禅定などと訳す、

とある(岩波古語辞典)。つまり、「禅定」には、

禅と定、

の意味が重なっているらしく、

「禅」と「定」の合成語、

とあり(精選版日本国語大辞典)、「禅定」は、

dhyānaの訳語であるが、また、dhyāna を音訳した「禅那」を略した「禅」を「定」と合成したもので、「定」はもとsamādhi の訳語で、心を一つの対象に注いで、心の散乱をしずめるのが「定」、その上で、対象を正しくはっきりとらえて考えるのが「禅」、

とある(仝上)。「定」と訳すSamādhiは、「三昧」で触れたように、「三昧」とも訳されたりする。「禅定」は、

心を一点に集中し、雑念を退け、絶対の境地に達するための瞑想、また、その心の状態、

をいい(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、

禅定に入る、

という言い方をする(仝上)が、

如来。無礙力無畏禅定解脱三昧諸法皆深成就故。云広大甚深無量(法華義疏)、

と、

散乱する心を統一し、煩悩の境界を離れて、静かに真理を考えること、

である(岩波古語辞典)。

入定(にゅうじょう)三昧、

ともいう(大言海)。「入定」は、

禅定(ぜんじょう)の境地にはいること、

をいう。

これは、大乗仏教の修行法である、

六波羅蜜の第五、

また、

三学(さんがく 戒・定・慧)の一つ、

である(精選版日本国語大辞典)とされ、仏道修行の、

三学、
六波羅蜜、

の一つとされる。「三学(さんがく)」は、

仏道修行者が修すべき三つの基本的な道、

つまり、

戒学(戒学は戒律を護持すること)、
定学(精神を集中して心を散乱させないこと)、
慧学(煩悩を離れ真実を知る智慧を獲得するように努めること)、

をいう。この戒、定、慧の三学は互いに補い合って修すべきものであるとし、

戒あれば慧あり、慧あれば戒あり、

などという(仝上・ブリタニカ国際大百科事典)。この三学が、大乗仏教では、基本的実践道である六波羅蜜に発展する。

火の中に身を投げ入れて死ぬこと、

とある、

火定、

に対して、

仏道修行者がみずから穴を掘り、土中に埋もれながら入定(にゅうじょう)すること、

を、

土定(どじょう)、

といい、

極楽往生を信じ、みずから海や川に身を投じて死ぬこと、

を、

水定(すいじょう)、

という(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。

入定(にゅうじょう)、

は、上述したように、

禅定(ぜんじょう)の境地にはいること、

つまり、

心を統一集中させて、無我の境地にはいること、

だが、その意味を敷衍して、

大師の御入定の様を覗き見奉らせ給へば(「栄花物語(1028~92頃)」)、

と、

高僧の死、

をもいう(仝上)。

入定、

の対が、

禅定(ぜんじょう)から、もとの平常の状態にもどること、

で、

出定(しゅつじょう)、

という(仝上)。

「火」 漢字.gif

(「火」 https://kakijun.jp/page/0468200.htmlより)


「火」 甲骨文字・殷.png

(「火」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%81%ABより)

「火」(漢音呉音カ、唐音コ)は、

象形、火が燃えるさまを描いたもの、

で(漢字源)、転じて「燃える」、「焼く」こと。更に転じて「火災」のこと(角川新字源)とある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:51| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする