西の方より、三尊(さんぞん)、その外廿五の菩薩たち、笙、篳篥(ひちりき)、管弦にて、光を放って来迎ありければ(諸国百物語)、
の、
笙、篳篥(ひちりき)、管弦、
は、
笙、篳篥(ひちりき)とも古代の吹奏楽器、管弦は絃楽器、管楽器の総称、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。「管楽器」としては、
竜笛(りゅうてき)、
高麗笛(こまぶえ)、
神楽笛(かぐらぶえ)
等々の、
笛(ふえ)、
の他、
篳篥(ひちりき)、
笙(しょう)、
古代尺八(雅楽尺八)、
などがあり、「絃楽器」としては、
箏(そう・しやう)、
がある(https://www.geidankyo.or.jp/12kaden/entertainments/instrument.html)。
「箏」は、
箏の琴(しやうのこと)、
とよばれる(シヤウは呉音、サウノコトとも)、
十三絃琴、
である(岩波古語辞典)。
「笙(しょう)」は、
笙の笛、
ともいい(シヤウは呉音、サウノフエとも)、
いい(岩波古語辞典)、
その形が翼を立てて休んでいる鳳凰に見立てられ、別名、
鳳笙(ほうしょう)、
とも呼ばれ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%99)、
木製椀型の頭かしらの周縁に、長短17本の竹管を環状に立て、うち2本は無音、他の15本それぞれの管の外側または内側に指孔、管の脚端に金属製の簧(した)がある。頭にある吹口から吹き、または吸って鳴らす、
もので、
単音で奏する本吹の法(催馬楽さいばらや朗詠の伴奏などに用いる)、
と、
6音または5音ずつ同時に鳴らす合竹あいたけの法(唐楽の楽曲に用いる)、
とがある(広辞苑)。「笙」(呉音ショウ、漢音セイ、唐音ソウ)は、
鼓瑟吹笙、吹笙鼓簧(詩経)、
とあるように、
この字も楽器も、奈良時代、雅楽とともに伝わってきたものである(広辞苑)。
(「笙」 広辞苑より)
(笙を吹く源義光を描いた『足柄山月』(月岡芳年「月百姿」) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%99より)
「篳篥(ひちりき)」は、
推古朝末期に中国より伝来、
し(広辞苑)、
大小の篳篥があった、
とされるが、平安中期からは、小篳篥のみ奏され(仝上)、
小は長さ6寸(約18.2センチメートル)の竹管の表に7孔、裏に2孔をあけ、その間に樺かばの皮を巻き、上端に蘆製の舌(蘆舌ろぜつ)を挿入する。舌の中途に籐でつくった帯状の責せめをはめて、音色・音量を調節し、縦にして吹く、
とある(仝上)。雅楽の、
主要旋律楽器、
で、初め唐楽、のち高麗楽および東遊などの日本古来の楽舞や催馬楽・朗詠に至る各種の歌曲の伴奏にも用いられる(仝上)。原名は、
悲篥、
とあり(大言海)、
其聲、悲壮なれば名とすと云ふ、
とある(仝上)。
「した」で触れたことだが、雅楽器の笙(しやう)・篳篥(ひちりき)などの竹管のそれぞれのもとにつけられている廬舌(ろぜつ)、つまりリードと呼ぶ吹き口から息を吐きまた吸って、振動させる、
のを、特に、
簧の字をしたとよむ、笙篳篥に通ずる歟(「塵袋(1264‐88頃)」)、
宇殿の芦名物にて、ひちりきの舌にもちゆ(「謡曲拾葉抄(1741)」)、
などとあるように、
簧、
と当て(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)、和名類聚抄(平安中期)に、
簧、俗云之太、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
簧、シタ、笙舌、
色葉字類抄(1177~81)に、
簧、シタ、中舌也、於管頭、横横施其中也、
とある。
「篳」(漢音ヒツ、呉音ヒツ)は、
会意兼形声。「竹+音符畢(ヒツ びっしりと締めつける、とじる)」
とある(漢字源)。「葦簀(よしず)」の意味で、「篳篥」の、
乾燥した蘆(葦、あし)の管の一方に熱を加えてつぶし(ひしぎ)、責(せめ)と呼ばれる籐を四つに割り、間に切り口を入れて折り合わせて括った輪をはめ込む、
という製法(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AF%B3%E7%AF%A5)を考えるとうなづける。
「篥」(漢音リツ、呉音リチ、慣用リツ)は、
会意兼形声。「竹+音符栗(リツ 肌を刺す栗の毬)」、
とある(漢字源)が、「篳篥」にしか使われていない(仝上・字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95