如来の庭(誓願時阿弥陀堂の前の庭)にて、とし四十ばかりなる女を、牛頭馬頭(ごずめず)の鬼、火の車より引き下ろして、いろいろ呵責して、又、車に乗せ(諸国百物語)、
の、
牛頭馬頭、
は、
地獄に居る牛頭、馬頭の鬼、
とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。因みに、「火の車」は「火車(かしゃ)」で触れたように、
火が燃えている車。生前に悪事をした亡者を乗せて地獄に運ぶ、
という。
(牛頭馬頭 精選版日本国語大辞典より)
(牛頭馬頭 広辞苑より)
「牛頭馬頭」の、
ごづめづ、
は、
何れも、字音の呉音なり、
とある(大言海・岩波古語辞典)。
「牛頭馬頭」は、『大智度論(だいちどろん)』『大仏頂首楞厳経(大仏頂如来密因修証了義諸菩薩万行首楞厳経 だいぶっちょうしゅりょうごんきょう)』、『十王経(じゅうおうぎょう)』などが出典で、牛頭は、
梵語gośīrṣa(ゴーシールシャ)、
馬頭は、
梵語aśvaśīrṣa(アシュヴァシールシャ)、
の漢訳語。
牛頭鬼馬頭鬼(ごずきめずき)、
牛頭獄卒馬頭羅刹(ごずごくそつめずらせつ)、
とも表記され、
中国では、
牛頭馬面、
ともいい(仝上・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%9B%E9%A0%AD%E9%A6%AC%E9%A0%AD)、
牛頭馬頭等諸獄卒、手執器杖、駆令入山間(「往生要集(984~5)」)、
と、
手に鉄叉を持って罪人を突いたり焼いたりする地獄にいるとされる、最下級の獄卒(ごくそつ 冥卒 地獄で罪人を責めさいなむ鬼)、
で(世界大百科事典)、
頭が牛や馬の形で、からだは人間の形をしている、
ことからいうが、また、
地獄に落ちて、牛あるいは馬の頭の形をしている罪人、
をいうとするもの(阿毘曇論)もある(仝上)。「牛頭」と「馬頭」は、
衆合地獄、
と呼ばれる場所にいるとされる(https://biz.trans-suite.jp/19131)。仏教では、地獄には八相になる八大(八熱)地獄があり、その周りにはさらに16の小さな地獄があるとし、その十六小地獄のひとつに、
衆合地獄、
があり、その地獄には、
殺生や盗み、邪淫(じゃいん)の罪を犯した者だけが落ちる、
という。その衆合地獄で、
「牛頭」は手に棒を持ち、「馬頭」は「叉」(さ)と呼ばれる武器の一種を持って罪人を山へと追い立てます。するとその山と山の距離が縮まっていき、最後には山同士がくっつき、罪人たちは山に挟まれて骨が砕かれ血の海となる、
とある(仝上)。「八熱地獄」の「衆合地獄」については「衆合叫喚」で触れた。なお、
牛頭馬頭、
は、それをメタファに、
地獄の獄卒のように情け容赦のない人のこと、
を指す四字熟語になっている(学研 四字熟語辞典)。
ただ、「鬼」は、
鬼と言ふ語は、仏教の羅卒と混同して、牛頭ゴヅ・馬頭メヅの様に想像せられてしまうた(折口信夫「鬼の話」)、
とあるように、「鬼」で触れたことだが、本来、
隠の古い字音onに母音iを添えた語。ボニ(盆)・ラニ(蘭)の類、
で、(岩波古語辞典)、
隠(おに)で、姿が見えない、
意(広辞苑)となり、和名類聚抄(平安中期)に、
鬼、和名於爾(おに)、或説云、穏字、音於爾訛也、鬼物隠而不欲顕形、故俗呼曰隠也、人死魂神也、
とあり、それを受けて、
和名抄二十一「四声字苑云、鬼(キ)、於爾、或説云、穏(オヌノ)字、音於爾(オニノ)訛也、鬼物隠而不欲顕形、故俗呼曰隠也、人死魂神也」トアリ、是レ支那ニテ、鬼(キ)ト云フモノノ釋ニテ、人ノ幽霊(和名抄ニ「鬼火 於邇比」トアル、是レナリ)即チ、古語ニ、みたま、又ハ、ものト云フモノナリ、然ルニ又、易経、下経、睽卦ニ、「戴鬼一車」疏「鬼魅盈車、怪異之甚也」、史記、五帝紀ニ、「魑魅」註「人面、獣身、四足、好感人」、論衡、訂鬼編ニ、「鬼者、老物之精者」ナドアルヨリ、恐ルベキモノノ意ニ移シタルナラム。おにハ、中古ニ出来シ語トオボシ。神代記ナドニ、鬼(オニ)ト訓ジタルハ、追記ナリ、
とあり(大言海)、
恐ろしい形をした怪物。オニということばが文献にあらわれるのは平安時代に入ってからで、奈良時代の万葉集では、「鬼」の字をモノと読ませている。モノは直接いうことを避けなければならない超自然的な存在であるのに対して、オニは本来形を見せないものであったが、後に異類異形の恐ろしい怪物として想像された。それには、仏教・陰陽道における獄卒鬼・邪鬼の像が強く影響していると思われる、
とある(岩波古語辞典)。漢字「鬼」の字は、
大きなまるい頭をして足元の定かでない亡霊を描いた象形文字、
で、中国語では、
おぼろげなかたちをしてこの世に現れる亡霊、
つまりは、
亡霊、
を指す。『漢字源』には、
中国では、魂がからだを離れてさまようと考え、三国・六朝以降は泰山の地に鬼の世界(冥界)があると信じられた、
とあり(漢字源)、やはり、仏教の影響で、餓鬼のイメージになっていった、と見られる。
(牛頭馬頭(春日権現霊験記) 大辞泉より)
仏教の思想に基づく地獄の獄卒は、六朝以後の中国の小説類にも散見され、日本でも地獄の登場する説話や、地獄の様子を描いた『六道輪廻図』、『六道道』、『十王図』、『地獄草紙』などの絵画にその姿が描かれ、馴染みのイメージが形成されていった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%9B%E9%A0%AD%E9%A6%AC%E9%A0%AD)ようである。
なお、剣道用語に、
牛頭馬頭(ごづめづ)、
があり、
牛の頭は大きく馬の頭は小さい、
意で、牛頭馬頭とは、
大技小技のこと、
で、剣道では、
大技だけでもいけないし、小技ばかりに偏しても駄目である。大技小技を織りまぜてやれという教え、
とある(剣道用語辞典)。意図はわかるが、本来の意味とはかけ離れていてこじつけに見える。
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