いらだかの数珠

僧、これを見て、「ぜひ真の姿を顕さずば、いでいて目に物みせん」とて、いらだかの数珠にて叩き給へば(諸国百物語)、 とある、 いらだかの数珠、 は、 玉が角ばっている数珠、木製、揉むと高い音を発する、修験僧の持つ物、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 (いらだかの数珠 精選版日本国語大辞典より) いらだかの数珠、 は、 いらたかの…

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けうがる

武家に宮仕へさする上は、かねて覚悟の事なれども、かやうにけうがる責め様あるべき(諸国百物語)、 とある、 けうがる、 は、 残忍で面白半分な、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 「けうがる」は、 希有がる、 とあてる、 けうがる、 かと思うが、この「けう」は、 希有、 と当て、 千歳希有(漢書・王莽傳…

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卒都婆の杖

夜道旅道には、迷ひの物(さまよう霊や変化)に逢はぬためとて、卒都婆の杖をつねづね拵へ持ちけるが(諸国百物語)、 にある、 卒都婆の杖、 は、 卒都婆は、墓の後ろに供養のため、経文を書いて立てる長い板、「一見卒都婆、永離三悪通」(謡曲「卒都婆小町」)。卒都婆の杖は、とくにあつらえて、そのような経文を書き入れた六角棒、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。…

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サイクリック宇宙論

高水裕一『時間は逆戻りするのか―宇宙から量子まで、可能性のすべて』を読む。 本書では、 時間を逆に進む世界はあるのか、 そもそも時間とは何か、 について考えをめぐらせていくのが目的(はじめに)とある。そして、 時間が過去から未来に進むのはあたりまえ、 とする常識をうたがっとほしい、とある(仝上)。しかし、そのために、現代の宇宙物理学を総覧し、復習させられる…

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法華経五の巻

右の手に水晶の珠数をつまぐり、左の手に法花経の五の巻を持ち、すでに広庭に出でられければ(諸国百物語)、 にある 法花経五の巻、 は、 法華経巻五は、「提婆達多品(だいばだったぼん)」。竜王の娘が、その徳行のゆえに菩提をとげる話が載り、女人成仏を説く条として古来有名、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 「五の巻」は、 第五の巻(だいごのま…

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正行(しょうぎょう)

歌をよみ、詩をつくり、経論(きょうろん 仏の説いた経、それを祖述した論)、正行(しょうぎょう)まで、残らず読みわきまへ、慈悲の心ざし深かりし娘也(諸国百物語)、 にある、 正行、 は、 弥陀への読誦、観察、礼拝、称名、賛嘆の五つの行為を「正行」というが、本文はこれを経典の一つに誤解している、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。ただ、校注者が言っている…

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鎧通し

二尺七寸の正宗の刀に、一尺九寸の吉光の脇指を指しそへ、九寸五分の鎧通しを懐にさし(諸国百物語)、 の、 鎧通し、 は、 短刀、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)が、確かに、 短刀の一種、 ではあるが、 鎧通し、 は、 戦場で組み打ちの際、鎧を通して相手を刺すために用いた分厚くて鋭利な短剣、 で、 反りがほとん…

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みそみそ

数の蛇ども、集(たか)りかかって噛み殺し、みそみそとして、山のかたへ皆帰りて、別の事もなかりしと也(諸国百物語)、 の、 みそみそとして、 は、 落胆して、すごすごと、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 (味噌 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%BF%E3%81%9Dより) 「みそみそ」は、 …

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集(たか)る

船人もみな、子たかりてののしる(土佐日記)、 数の蛇ども、集(たか)りかかって噛み殺し、みそみそとして、山のかたへ皆帰りて、別の事もなかりしと也(諸国百物語)、 などの、 集(たか)る、 は、 集まる、 意で、「古事記(712)」にも、 蛆(うじ)多加礼(タカレ)ころろきて、 と使われているが、 羶によて蟻がたかる(「古活字本荘子抄(1620…

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四天王

仏神三方、天神地祇、上は梵天帝釈、四大(しだい)の天王、日月星宿も御照覧候へ(諸国百物語)、 の、 仏神三方、天神地祇、上は梵天帝釈、四大の天王……、 は、 起請文、 などの、 誓いをとなえるための、神道、仏教の神々の名を上げる慣用語、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。この嚆矢は、鎌倉時代の御成敗式目の末尾にある北条泰時(やすとき)らの連署起…

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羅刹女(らせつにょ)

われは羅刹女(らせつにょ)と申す、鬼のゆかりにて候ふが、男には女の姿をなし、女には男の姿をなして、ひとをたぶらかし来たれと教えて(諸国百物語)、 の、 羅刹女、 は、 ひとをたぶらかして血肉を食うという鬼女、非常に美しい容貌をもつ、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 羅刹私(らせつし)、 羅刹斯(らせつし)、 ともいい(精選版日本国語…

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奪衣婆(だつえば)

奪衣婆、 は、「三つ瀬の川」で触れたように、偽経「十王経」が、 葬頭河曲(さうづがはのほとり)、……有大樹、名衣領樹、影住二鬼、一名脱衣婆、二名懸衣翁(十王経)、 と説く、 川岸には衣領樹(えりょうじゅ)という大木があり、脱衣婆(だつえば)がいて亡者の着衣をはぎ、それを懸衣翁(けんえおう)が大木にかける。生前の罪の軽重によって枝の垂れ方が違うので、それを見て、緩急三つ…

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加持

何とてさやうに加持し給ふぞ。とてもかなはぬ事也。はやはや止め給へ(諸国百物語)、 の、 加持、 は、 加持祈祷、 の意で、 祭壇に護摩の火をたき、陀羅尼を唱え、印を結び、心を三昧にむける、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 (「加持祈祷」 高田衛編・校注『江戸怪談集』(岩波文庫)より) 「加持(かぢ・かじ)」は、 梵語…

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検校

奥嶋検校といふ人、そのむかし六十余まで、官一つもせざりし故、方々、稼ぎに歩くとて(諸国百物語)、 過分に金銀をまうけ、七十三にて、検校になり、十老の内までへ上り、九十まで生きられて(仝上)、 とある、 検校、 は、 座頭官位の最高職、 で、 十老、 は、 検校の中の長老職、全国座頭の惣頭職、 と注記がある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)…

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邪見

つねづね、女房に邪見にあたりて、食物も喰はせず(諸国百物語)、 の、 邪見、 は、 邪慳、 とも当て、 冷酷無慈悲、残忍なこと、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 邪険、 とも当てる(精選版日本国語大辞典)が、由来的には、仏語、 五見・十惑の一つ、 の、 因果の道理を無視する妄見、 をいい、 愍念邪見…

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弁才天

その子、母を弁才天にいはひ(斎)しより、その後はしづまりたると也(諸国百物語)、 の、 弁才天、 は、 弁財天女、 で、 民間では、水神、音楽神であるとともに、嫉妬する女神としての信仰があった、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 (弁財天 大辞林より) 「弁(辯)才」は、 梵語Sarasvat(薩囉薩伐底・薩羅婆縛底 サラサ…

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紙燭

神前の灯明にて、紙燭をして、二階へあがりてみれば(諸国百物語)、 の、 紙燭、 は、 紙を撚(よ)って、それに火をつけて闇中のあかしにすること、 とある(高田衛編・校注『江戸怪談集』)。 紙燭、 は、 脂燭、 とも当て、 ししょく、 とも訓ますが、 シソク、 は、 (シショクの)ショクの直音化、 である…

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芝草(しそう)

この(聖武天皇の)善行によって、空飛ぶ虫も芝草をくわえて寺の屋根をふき、地を走る蟻も砂金を積み上げて塔を建てた(日本霊異記)、 の、 芝草、 は、 しそう、 と訓み、 さいわいだけ、 の意で、 王者慈仁の時に生ずる、 と注記がある(景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』)。 (万年茸 https://zatugaku-gimo…

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自度僧

むかし、山城国にひとりの自度僧がいた。名前はわからない(霊異記)、 石川の沙弥(さみ)は自度僧で本姓もあきらかではない(仝上)、 の、 自度僧、 は、 公の許可を受けないで、勝手に僧形となった人のこと、当時は僧尼は官の感得を受けている、 とあり(景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』)、 私度僧、 ともいう(仝上)とある。 剃髪・出家して仏…

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風流

大和國宇太の郡漆部(ぬりべ)の里に風流な女がいた。漆部造麿(みやつこまろ)の妻であった(霊異記)、 の、 風流、 は、ここでは、 世俗の名利に無関心で、いつも身を浄らかに持つ清浄高邁な行為をさしている、 とある(景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』)。 風流(ふうりゅう)は、古くは、 ふりゅう、 とも訓んだ(大辞林)が、「風流」は、漢語で、…

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