味煎

何ぞ湯涌すぞと見れば、此の水と見ゆるは味煎(みせん)なりけり(今昔物語)、 とある、 味煎、 は、 甘味料、あまづら(植物)から取った汁をにつめる、 と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 未煎、 蜜煎、 とも当て(大言海)、字鏡(平安後期頃)に、 未煎、ミセン(甘葛)、 とあり、 あまづらせん(甘葛煎)に同じ、 とあ…

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経営(けいめい)

坊主の僧、思ひかけずと云ひて、経営(けいめい)す。然れども湯ありげもなし(今昔物語)、 俎(まないた)五六ばかり竝べて様々の魚鳥を造り、経営す(仝上)、 とある、 経営、 は、 何かと設備する、接待する、 意とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。「経営」は、普通、 けいえい、 と訓み、今日、 会社を経営する、 経営が行き詰まる、 など…

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恪勤

其の時一の人の御許に恪勤(かくごん)になむ候ひける(今昔物語)、 とある、 恪勤(かくごん)、 は、 侍、家人、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 「恪勤」は、 かっきん、 かくご、 などとも訓ませ、「ごん」は、 「勤」の呉音、 で(精選版日本国語大辞典)、 かくご、 は、 カクゴンの転、 で(岩波古…

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通天の犀

それを取りて開きて見れば、通天(つうてん)の犀(さい)の角のえもいはでめでたき帯あり(今昔物語)、 にある、 通天の犀、 は、 通天のさいの角のかざりのある帯、 とあり(佐藤謙三校注『今昔物語集』)、 延喜式(治部省)によると通天のさいはその角に光があって天に通じ、雞が見て驚くという、 とある(仝上)。 是は明月に当て光を含める犀の角か、不然海…

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をこづる

怖ろしく思ゆれば、妻にをこづり問へども、物云はばやとは思ひたる気色ながら云ふともなし(今昔物語)、 の、 をこづる、 は、 だまして誘うのを言う、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 をこづる、 は、 誘る、 と当て、通常、類聚名義抄(11~12世紀)に、 誘、ヲコツル、コシラフ、サソフ、アザムク、カドフ、 とあり、色葉字…

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雑色

己は甲斐殿の雑色(ざふしき)某丸と申す者に候ふ。殿のおはしけるを知り給へずして(今昔物語)、 の、 雑色、 は、 ざっしょく、 と訓むと、 種々まじった色、また、さまざまな色、 をいい、 ざっしき、 と訓ますと、 さまざまの種類、 の意で、 ぞうしき、 とも訓んだが、 雑色田(ざっしきでん)、 というと…

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ひきめ

頼光、辭(いな)び申し煩ひて、御弓を取りて、ひきめをつがへて亦申すやう、力の候はばこそ仕り候はめ、かく遠き物は、ひきめは重く候ふ。征矢してこそ射候へ(今昔物語)、 とある(「征矢」は触れた)、 ひきめ、 は、 蟇目、 引目、 曳目、 響矢、 と当て(広辞苑・日本大百科全書)、 射放つと音響が生ずるよう、矢の先端付近の鏃の根元に位置するように鏑が取り付…

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おほけなし

暗くなる程に、此の太郎介が宿したる所に行きて、おほけなく伺ひけるに(今昔物語)、 の、 おほけなし、 は、 大胆にも、 と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 「おほけなし」は、 あながちに有るまじくおおほけなき心ちなどはさらに物し給はず(源氏物語)、 おほけなく憂(う)き世の民におほふかなわが立つ杣(そま)にすみぞめの袖(そで)(千載集)、…

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股寄(ももよせ)

(源)宛(あたる)、馬より落つるやうにして矢に違えば、太刀の股寄(ももよせ)に當りぬ(今昔物語)、 にある、 股寄、 は、 太刀のさやの峰のほうにかぶせた金具、 とあり(佐藤謙三校注『今昔物語集』)、 「あまおほひ」とも言う、 とある(仝上)。 (太刀の各部位 図説日本甲冑武具事典より) 「股寄」は、後に、 雨覆(あまおおい)、 …

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除目の大間

公(おほやけ)の御政をよきも悪しきもよく知りて、除目(じもく)あらむずる時には、先づ國のあまた開きたるを(今昔物語)、 の、 除目(じもく)、 とは、普通、 「除」は官に任命する、「目」は目録にしるす(日本国語大辞典)、 官に除し、目録に記す意(大言海)、 「除」は旧官を除去して新官につくの意。「目」は目録に記すこと(旺文社日本史事典)、 除は旧官を除いて新官に…

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昔話の通時性と共時性

柳田國男『口承文芸史・昔話と文学(柳田国男全集8)』を読む。 本書は、 口承文芸史考、 昔話と文学、 昔話覚書、 が収められている。この三篇は、 昔話研究への入門、あるいは最も基本的なテキスト、 と目されている(解説・野村純一)らしい。 口承文芸史考、 では、文字に書かれた「文芸」に対する文芸としての、 口承文芸、 を説き、自…

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和琴(わごん)

匡衡を呼びて、女房とも和琴(わごん)を差し出して(今昔物語)、 にある、 和琴、 は、 日本の弦楽器、 で、 形は筝(こと)に似て、本の方が狭く、六絃、右手に爪(琴軋(ことさき 長さ7センチほどの鼈甲製の撥)を持って掻き鳴らし、左手は指先ではじく、 とあり(岩波古語辞典・大辞林)、色葉字類抄(平安末期)には、 倭琴、ワコン、 とある。 …

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覓(ま)ぐ

速須佐之男命(はやすさのをのみこと)、宮つくるべき所を出雲の国にまぎ給ひき(古事記)、 やしま國、妻麻岐(まぎ)かねて、遠遠し、越の國に(仝上)、 とある、 覓ぐ、 は、 求ぐ、 とも当て、 追いもとめる、 さがしもとめる、 意である(広辞苑)。 まぐ、 の語源については、 目(マ)の活用、香(か)ぐ、輪ぐと同趣(大言海)、 …

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左券

今のうちに一通り堺目を立てて、他日の左券とするのである(柳田國男『口承文芸史考』)、 にある、 左券、 は、 左契、 に同義で、 左験、 ともいう(字源)。 契(ケイ)も、券(ケン)も、割符なり、 とある(大言海)が、 昔、木の札に約束事を書き、手の印形を押した。それを二つに割って、甲乙がその片方はずつを保存し、照らし合わせて証拠と…

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みぎ・ひだり

「馬手・弓手」で触れたように、「左手」は、 弓を持つ方の手、 で、 弓手(ゆんで)、 「右手」は、 手綱を持つ手、 で 馬(め)手、 と言う(大言海)。漢語「右」(漢音ユウ、呉音ウ)は、 戦国時代には右を尊んだことから、 拝為上卿、位在廉頗之右(拝シテ上卿ト為シ、位廉頗ノ右ニ在リ)(史記)、 と、「右」は、 上位、 …

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樵(こ)る

斧取りて丹生の檜山の木こり来て筏に作り真楫(まかじ)貫き礒漕ぎ廻つつ島伝ひ見れども飽かずみ吉野の瀧もとどろに落つる白波(万葉集)、 の、 こる、 は、 樵る、 伐る、 と当て、類聚名義抄(11~12世紀)に、 伐、キル・コル、 とあり、 枝を切ること、 また、 株を残して立木を切る、 意とある(岩波古語辞典)。 樵る、 …

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けうとし

守、聞きていはく、汝はけうとく人にもあらざりける者のこころかな(今昔物語)、 の、 けうとし、 は、 気疎し、 と当て、 このさるまじき御中の違ひにたれば、ここをもけうとくおぼすにやあらむ(蜻蛉日記)、 と、 気に入らず離れていたい、また、気持が離れてしまっている、疎遠だ、 と(広辞苑)、 感じからして疎遠だ、の意が原意、 と…

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むつまじ

形、有様より始めて、心ばへをかしければ、女御これをむつまじき者にしてあはれに思ひたれば(今昔物語)、 の むつまじ、 は、 睦まじ、 と当て、古くは、 むつまし、 と清音、動詞、 むつむ(睦)の形容詞化、 とあり(精選版日本国語大辞典)、 血縁あるもの、夫婦の関係にあるものの間に、馴れ合い、甘える感情がある意、広くは身内のように感じ…

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たつき

食物より始めて馬鍬、辛鋤(からすき)、鎌、鍬、斧、たつきなど云ふ物に至るまで、家の具を船に取り入れて(今昔物語)、 にある、 たつき、 は、 大きい刃の広い斧、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。因みに、「辛鋤」は、 牛にかけて耕すのに使う、 とあり(仝上)、「犂牛(りぎゅう)」で触れた、 唐鋤、 と当てる、 柄が曲がっていて刃…

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牽牛子(けにごし)

牽牛子(けにごし)の花を見ると云ふ心を、中将かくなむ、あさがほをなにはかなしと思ひけむ人をも花はさこそみるらめ、と(今昔物語)、 にある、 牽牛子(けにごし)、 は、 アサガオの異称、 で(広辞苑)、 アサガオの中国名を、ケニは牽の字音(ken)の後に母音iを添えて、日本風にした形、ゴは牛の呉音、 とあり(岩波古語辞典)、 けんごし、 と…

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