得意

本より得意とありける人一両人を伴なひて、道知れる人もなくて惑ひ行きけり(今昔物語)、 の、 得意、 は、 知人、 と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 得意(とくい)、 は、 天子得意、則愷歌(司馬法)、 と、 意の如くなりて満足する、 意の漢語であり、 失意、 の対である(字源)。日本語でも、 大小…

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識神

此の法師の供なる二人の童は、識神(しきじん)の仕へて來たるなり(今昔物語)、 の、 識神(しきじん)、 は、 式神、 とも当て、 陰陽師の使う精霊のような神、 とあり、 しきがみ、 とも訓ませ(佐藤謙三校注『今昔物語集』)、 職神、 とも当て(広辞苑)、 式の神、 とも(岩波古語辞典)、 式鬼(しき)、 式…

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あながち

父(賀茂)忠行が出でけるに、あながちに戀ひければ、其の兒を車に乗せて具してゐて行きにける(今昔物語)、 其の女の泣きつる聲は、内の心に違ひたりと聞きしかば、あながちに尋ねよとは仰せられしなり(仝上)、 にある、 あながちに、 の、 あながち、 は、 強ち、 と当て、 アナは自己、カチは勝ちか、自分の内部の衝動を止め得ず、やむにやまれぬさま、相…

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くみいれ

堂の天井(くみいれ)の上にかき上りて、川人は呪を誦(ず)し、大納言は三密を唱へてゐたり(今昔物語)、 とある、 くみいれ、 は、 組入天井、 の略で(デジタル大辞泉・岩波古語辞典)、 格子形に組んだ天井。6~8cm角くらいの木材を10~20cm間隔に組むもので、古代の寺院に多く用いられたろ、 とある(https://www.architectjite…

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貝をつくる

足摺りをして、いみじげなる顔に貝を作りて泣きければ(今昔物語)、 の、 貝を作る、 は、 口をへの字にする、べそをかく、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 口を貝の形にする意(岩波古語辞典)、 泣き出す時の口つきが、ハマグリの形に似ているところから(精選版日本国語大辞典)、 とあり、 口をへの字に曲げて、泣きだす、 意で、 …

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巻数木(かんじゅぎ)

さて几帳の綻びより巻数木(かんじゅぎ)のやうに削りたる白くをかしげなるが二尺ばかりなるをさし出でて(今昔物語)、 の、 巻数木、 は、 寺から願主へ饗応した経文の巻数を知らせる文書(巻数)を付けて送る木の枝、 かんじゅぼく、 とも訓む(佐藤謙三校注『今昔物語集』)とある。木の枝は、 梅の若枝、 榊の枝、 などを用いた(精選版日本国語大辞典)。…

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空薫(そらだき)

其の間、簾の内より空薫(そらだき)の香かうばしく匂ひ出でぬ(今昔物語) とある、 空薫、 は、 空炷、 とも当て(広辞苑)、 香を室に豊富にくゆらせるのをいう、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)が、 どこでたくのかわからないように香をたきくゆらすこと(広辞苑)、 どこからともなく匂ってくるように香をたくこと。また、前もって香をたいておくか…

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押立門(おしたてもん)

土御門(つちみかど)と道祖(さへ)の大路との辺(ほとり)に、檜墻(ひがき)して押立門(おしたてもん)なる家有り(今昔物語)、 の、 押立門、 は、 二本の柱だけを立てて、扉を左右につけた手軽な門、 とある(広辞苑)。写真が見当たらないが、似たものに、 冠木門、 というのがある。「冠木門」は、 門や鳥居などで、左右の柱の上部を貫く横木、 つ…

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三遅

然るに、既に三地畢(は)てて、押し合ひて乗り組みてうち追ふ(今昔物語)、 にある、 三地、 は、 三遅、 の意で、 罰杯の意から転じて、酒、または酒宴の意、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 三遅(さんち)、 は、 酒宴に遅刻すること、 の意(広辞苑)だが、 酒が十巡した後に遅れて来席すること、 を、 …

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いとほし

今よりかかる事なせそ。いとほしければ逃すぞ(今昔物語)、 の、 いとほし、 には、意味の幅があり、 翁(おきな)をいとほしく、かなしと思(おぼ)しつることも失せぬ(竹取物語)、 と、 気の毒だ、 かわいそうだ、 の意と、 宮はいといとほしと思(おぼ)す中にも、男君の御かなしさはすぐれ給(たま)ふにやあらん(源氏物語)、 と、 かわ…

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