何ぞ湯涌すぞと見れば、此の水と見ゆるは味煎(みせん)なりけり(今昔物語)、
とある、
味煎、
は、
甘味料、あまづら(植物)から取った汁をにつめる、
と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
未煎、
蜜煎、
とも当て(大言海)、字鏡(平安後期頃)に、
未煎、ミセン(甘葛)、
とあり、
あまづらせん(甘葛煎)に同じ、
とあり(仝上)、
あてなるもの 薄色に白襲(しらがさね)の汗衫(かざみ)。かりのこ。削り氷にあまづら入れて、新しき鋺(かなまり)に入れたる。水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪の降りかかりたる。いみじう美しき児(ちご)の、いちごなど食ひたる(枕草子)、
と、
あまづら、
とも言った(仝上)。
アマヅラ、
の、
ツラ、
は、
蔓なり、
とある。「つら」は、
連(つら)の義、
で、
今、つる(蔓)と云ふ、
とあり(仝上)、
甘蔓(あまづる)の意、
とある(岩波古語辞典)。
「甘葛煎」は、「甘茶」で触れたように、
アマヅル、
アマヅラ、
という、ブドウ科のつる性の植物から、
春若芽の出る前にそのツルを採って煎じ詰めて用いた(たべもの語源辞典)。
「甘茶」には何種類かあるが、
甘葛煎、
も、
甘茶、
といった(大言海・たべもの語源辞典)。
「味煎」は、中世後期に砂糖の輸入がはじまり、近世になってその国内生産が増大するとともに、位置をゆずって消滅した(世界大百科事典)。
「甘葛」は、
アマチャヅル、
のこととする説があるが、「甘茶」で触れたように、
アマチャヅル、
は、
ウリ科、
の多年草で、これから、
甘茶、
をつくり、
ツルアマチャ、
アマカヅラ、
というが、別物である。
(甘葛 (『甘葛考』(藤原清香) 清香が甘葛の原料と考えた野生ブドウのスケッチ https://outreach.bluebacks.jp/project/home/20)
また、今日、
アマヅル、
という、
男葡萄、
の名のある、
ブドウ科ブドウ属、学名Vitis saccharifera、
は(https://matsue-hana.com/hana/otokobudou.html)、「アマヅラ」とも呼ばれた古くからある「アマヅル」とは別のようだが、
一般的にはブドウ科のツル性植物(ツタ(蔦)など)のことを指しているといわれる。一方で、アマチャヅルのことを指すという説もあり、どの植物かは明かではない、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9E%E3%83%85%E3%83%A9)、どの植物を指すかはっきりしない(仝上)という。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95