坊主の僧、思ひかけずと云ひて、経営(けいめい)す。然れども湯ありげもなし(今昔物語)、
俎(まないた)五六ばかり竝べて様々の魚鳥を造り、経営す(仝上)、
とある、
経営、
は、
何かと設備する、接待する、
意とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。「経営」は、普通、
けいえい、
と訓み、今日、
会社を経営する、
経営が行き詰まる、
などと
継続的・計画的に事業を遂行すること、
特に、
会社・商業など経済的活動を運営すること、また、そのための組織、
の意で使う(広辞苑)が、「経営(けいえい)」は漢語で、
家屋をはかりいとなむ、
意で、
経始霊臺、經之營之(詩経・大雅)、
と使う、
経始(けいし)、
と同義で、
家屋を建て始める、
意で、
經、
は、
地を測量する、
意とあり(字源)、
經は、縄張なり、營は、其向背を正すなり、
ともある(大言海)。「縄張」は、
縄を張って境界を定める、
つまり、
建築の敷地に縄を張って建物の位置を定める、
意であり、
経始(ケイシ)、
と同義となる(大辞林)。
その意味で、原義は、上記の、
経始霊臺、經之營之、庶民攻之、不日成之(詩経・大雅)、
と、
営むこと、
造り構ふること、
基を定めて物事を取立つること、
の意になる(大言海)。そこから転じて、
欲経営天下、混一諸侯(戦国策)、
と、
事を計(はから)ふこと、
の意で使う(大言海)。日本でも、
仏殿・法堂……不日の経営事成て、奇麗の粧ひ交へたり(太平記)、
と、
なわを張り、土台をすえて建物をつくること、
の意や、それをメタファに、
御即位の大礼は、四海の経営にて(太平記)、
物事のおおもとを定めて事業を行なうこと、
特に、
政治、公的な儀式について、その運営を計画し実行すること、
の意や、
多日の経営をむなしうして片時の灰燼となりはてぬ(平家物語)、
と、
力を尽くして物事を営むこと、
さらには、上記の、
房主(ぼうず)の僧、思ひ懸けずと云ひて経営す、
と、
あれこれと世話や準備をすること、
忙しく奔走すること、
の意や、
傅(めのと)達経営して養ひ君もてなすとて(とはずがたり)、
と、
行事の準備・人の接待などのために奔走すること、
事をなしとげるために考え、実行すること、
の意で使う(広辞苑・日本国語大辞典)。「奔走する」意からの派生か、
弓場殿方人々走経営、……有火(御堂関白記)、
と、
意外な事などに出会って急ぎあわてること、
の意で使うが、「接待などのために奔走する」意と、「急ぎあわてる」意で使うとき、
けいめい、
と訓ませる(精選版日本国語大辞典)とある。さらに、「あれこれ工夫し考える」意の派生からか、
面白く経営したる詩也(中華若木詩抄)、
と
工夫して詩文などを作ること、
の意や、「考えめぐる」意の派生か、
諸国経営(ケイエイ)して(医者談義)、
と、
めぐりあるく、
意で使ったりする(仝上)。
この意味の流れからは、今日の、
継続的・計画的に事業を遂行すること、特に、会社・商業など経済的活動を運営すること、
の意は、「経営」の意の外延にあるといえる。
(「經(経)」 https://kakijun.jp/page/E353200.htmlより)
「經(経)」(漢音ケイ、呉音キョウ、唐音キン)は、
会意兼形声。巠(ケイ)は、上の枠から下の台へ縦糸をまっすぐに張り通したさまを描いた象形文字。經は、それを音符とし、糸篇を添えて、たていとの意を明示した字、
とある(漢字源)が、
形声。もと「巠」が「經」を表す字であったが、糸偏を加えた、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B6%93#%E5%AD%97%E6%BA%90)、
形声。織機のたて糸、ひいて、すじみち、おさめる意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(糸+圣(坙))。「より糸」の象形と「はた織りの縦糸」の象形から「たていと」、「たて」を意味する「経」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji745.html)ある。
「營(営)」(漢音エイ、呉音ヨウ)は、
会意兼形声。營の上部は、炎が周囲をとりまくこと。營はそれを音符とし、宮(連なった建物)を加えた字で、周囲をたいまつで取巻いた陣屋のこと、
とある(漢字源)。別に、
形声。意符宮(宮殿。呂は省略形)と、音符熒(ケイ→エイ 𤇾は省略形)とから成る。周囲に土を盛り上げた住居の意を表す。転じて「いとなむ」意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(熒の省略形+宮)。「燃え立つ炎」の象形(「夜の陣中にめぐらすかがり火」の意味)と「建物の中の部屋が連なった」象形(「部屋の多い家屋」の意味)から、周囲にかがり火をめぐらせた「屋敷」を意味する
「営」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji829.html)ある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95