2023年04月03日

恪勤


其の時一の人の御許に恪勤(かくごん)になむ候ひける(今昔物語)、

とある、

恪勤(かくごん)、

は、

侍、家人、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

「恪勤」は、

かっきん、
かくご、

などとも訓ませ、「ごん」は、

「勤」の呉音、

で(精選版日本国語大辞典)、

かくご、

は、

カクゴンの転、

で(岩波古語辞典)、

「かくごん」の撥音「ん」の無表記、

とある(大辞林・大辞泉)。

恪勤、

は、漢語で、

カッキン、

と発音、

朝夕恪勤、守以淳徳、奉以忠信(國語)、

とあるように、

つつしみてつとめる、

意であり、本来、

然纔行一二、不能悉行、良由諸司怠慢不存恪勤、遂使名宛員数空廃政事(続日本紀)

と、

任務に忠実なこ、
怠ることなく勤めること、

つまり、

精勤、

の意であり(精選版日本国語大辞典)、

かくごん、
かくご、
かっきん、

などと訓ませた(仝上・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%81%AA%E5%8B%A4)。この、

任務や職務などをまじめに勤めること、

が、

令制では、官人の勤務評定の際、最も重要な項目の一つとされた、

ためか、平安時代、

凡称侍者、親王大臣以下恪勤之名也(職原抄)、

とあるように、

小一条院の御みやたちの御めのとのおとこにて、院の恪勤してさぶらひ給、いとかしこし(大鏡)、

と、

院、親王家、摂関家、大臣家、門跡などに仕えて宿直や雑役を勤仕する侍、

また、

その侍として仕えること、

の意に転じ(精選版日本国語大辞典・世界大百科事典)、

恪勤者(かくごしゃ)、

ともいわれ、

かくごん、

とも、

かくご、

とも訛った(精選版日本国語大辞典・広辞苑・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%81%AA%E5%8B%A4)。さらに、武家でも、鎌倉幕府の職制が公家を模したためこの役も設置され、室町幕府にも受けつがれ、

権門高家の武士共、いつしか、諸庭奉行人と成り、或は軽軒香車の後(しりへ)に走り、或は青侍(せいし)挌勤(カクコ)の前に跪(ひざま)づく(太平記)、

と、

侍所に属して、宿直や行列の先走りなど、幕府内部の雑役に従事した小役、

で、のちに、

御末衆(おすえしゅう)、

と呼ばれ(仝上)、

恪勤侍(かくごのさむらい)、

などともいい(仝上・日本国語大辞典)、

かくごん、
かくご、

と訓ませた(仝上・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%81%AA%E5%8B%A4)。同じ御所に仕える侍の中でも、将軍に近侍して警衛にあたった上級武士は、

番衆、

と呼ばれ、雑役にあたる下級の侍を、

恪勤、

と呼んだ(世界大百科事典)。

「恪」 漢字.gif


「恪」(カク)は、

会意兼形声。各(カク)は「口(かたいもの)+夊(あし)」の会意文字で、足がかたい物につかえて止まること、恪は「心+音符各」で、心がかたくかどばってつかえること、

とあり(漢字源)、「恪勤(カッキン)」の、つつしむ、堅苦しい意である。

「勤」 漢字.gif



「勤」 漢字.gif

(「勤」 https://kakijun.jp/page/1210200.htmlより)

「勤(勤)」(漢音キン、呉音ゴン)は、

会意兼形声。堇(キン)は、「廿(動物の頭)+火+土」の会意文字で、燃やした動物の頭骨のように熱気で乾いた土のこと。水気を出し尽して、こなごなになる意を含む。勤は、それを音符とし力を加えた字で、細かい所まで力を出し尽して余力がないこと。それから、こまめに働く意をあらわす、

とある(漢字源)。別に、

会意形声。「力」+音符「堇」。「堇」は「革」を下から火で炙り乾かす様、「乾」や「艱」と同系。余力がなくなるまで力を出し尽くして働く、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8B%A4

会意兼形声文字です(菫+力)。「腰に玉を帯びた人(腰に帯びた玉の色から黄色の意味)と土地の神を祭る為に柱状に固めた土」の象形(「黄色の粘土」の意味)と「力強い腕」の象形から、力を込めて粘土をねりこむ事を意味し、そこから、「つとめる」を意味する「勤」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji1021.htmlある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:23| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする