2023年04月07日

ひきめ


頼光、辭(いな)び申し煩ひて、御弓を取りて、ひきめをつがへて亦申すやう、力の候はばこそ仕り候はめ、かく遠き物は、ひきめは重く候ふ。征矢してこそ射候へ(今昔物語)、

とある(「征矢」は触れた)、

ひきめ、

は、

蟇目、
引目、
曳目、
響矢、

と当て(広辞苑・日本大百科全書)、

射放つと音響が生ずるよう、矢の先端付近の鏃の根元に位置するように鏑が取り付けられた矢、

である、

鏑矢(かぶらや)、

の一種で、

蟇目鏑(ひきめかぶら)、

ともいい、「鏑矢」は、

戦場における合図として合戦開始等の通知、

などに用いられ、

鏑(かぶら)、
蟇目(ひきめ)、
神頭(じんとう)、

があるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8F%91%E7%9F%A2とされるが、「鏑」と「蟇目」は、

大きさによって違いがあり、大きいものをヒキメといい小さいものをカブラという、

と故実にあるように、もともと同類のものであったようである(日本大百科全書)。因みに、

神頭(じんとう)、

というのが、鏑矢と間違われるが、

矢頭、

とも書き、鏑とは別物で、外見が鏑と似ているちため混同されがちである。古くから存在し、鏑に良く似ているが、中身が刳り貫かれておらず、また大きさも鏑より小さく、

鏃の代わりに矢に取り付け、射あてるものを傷を付けないよう、もしくは射砕く目的で使用される、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8F%91%E7%9F%A2

蟇目は、

朴(ほお)・桐などで作った、紡錘形の先端をそいだ形の木製の大形の鏑(かぶら)、また、それをつけた矢、

をいい(広辞苑・大辞林)、

鏑矢の鏃に似て長く、凡そ、四寸許り、圍(かこ)み五寸、五孔、或いは六孔、

とある(大言海)が、

正式な造りは四つ穴で、これを、

四目(しめ)、

と呼ぶhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8F%91%E7%9F%A2とある。

鏃(やじり)をつけず、犬追物(いぬおうもの)・笠懸(かさがけ)などで射る物に傷をつけない、

ために用い、これを矢の先端に取り付けた矢を放つと、

穴に空気が流入する事で笛のように音が鳴り、鋭い音を発する(仝上)。この音が、

邪を払い場を清める、

とされているので、妖魔を降伏(ごうぶく)するとし、

降魔(ごうま)の法、

に用いられ(仝上)、古代より、

宿直(とのい)蟇目、
屋越(やごし)蟇目、
誕生蟇目
犬射蟇目(いぬいひきめ)、
笠懸蟇目、
産所蟇目(さんじょひきめ)、

などの式法が整備されてきて(日本大百科全書)、今日でも、

蟇目の儀、

は弓道の最高のものとして行われている(日本大百科全書)とある。

犬射蟇目、

は特に長大につくり、

笠懸蟇目、

は、目の上にひしぎ目を入れて用いた。また、破邪のための、

産所蟇目、

は白木のまま用いるのを例とした(日本国語大辞典)。

御産の蟇目射るには、白き大口直垂にて射べし、白べりの畳一畳出すべし、それにむかばきをかけて射べし、……射る数は、女子には、一手射べし、男には三かいな可射(今川大雙紙)、

というように、

弓術の道に、蟇目の矢を射ることと、弦打ちする(鳴弦(メイゲン)と云ふ)こととにて、共に其發聲にて邪気を退くと云ふ。産屋などにて行ふ、

とある(大言海)。因みに、「鳴弦」は、

弦打(つるうち)、

ともいい、

弓矢の威徳による破邪の法、

で、後世になるとわざわざ高い音を響かせる引目(蟇目)という鏑矢(かぶらや)を用いて射る法も生じた。平安時代においては、生誕儀礼としての湯殿始(ゆどのはじめ)の、

読書(とくしよ)鳴弦の儀、

という、

宮中で皇子誕生後七日の間、御湯殿の儀式の際に湯殿の外で漢籍の前途奉祝の文を読み、弓の弦を引き鳴らす儀式、

として行われたのをはじめ、出産時、夜中の警護、不吉な場合、病気のおりなどに行われ、また天皇の日常の入浴に際しても行われた(世界大百科事典)とある。

「蟇目」の語源には、

「響き目」の義(貞丈雑記・古今要覧稿・和訓栞・大言海・広辞苑・大辞林)、
その形がヒキガエルの目に似ているから(名語記・本朝軍器考・類聚名物考)、
その孔が蟇の目に似ているから(大辞林・大言海)、

とあるが、この矢の特徴から見れば、

響き目の略、

とする(日本語源大辞典)のが妥当なのではないか。

蟇目.jpg

(蟇目 広辞苑より)


アズマヒキガエル.jpg


諸所の神社で行われる鏑矢(かぶらや)を射て邪を除く神事を、

蟇目の神事(しんじ)、

といい、蟇目を射て妖魔を退散させる役目の番衆を、

蟇目の当番、

妖魔を降伏させるために、弓に蟇目の矢をつがえて射る作法を、

蟇目の法(ほう)、

といい、貴人の出産や病気のときに、妖魔を退散させ邪気を払うために蟇目を射る役の人を、

蟇目役、

などといった(日本国語大辞典)。

小笠原流 蟇目の儀・大的式.jpg

(新春除魔神事「小笠原流 蟇目の儀・大的式」(大宮八幡宮) https://www.ohmiya-hachimangu.or.jp/596より)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:06| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする