2023年04月18日
むつまじ
形、有様より始めて、心ばへをかしければ、女御これをむつまじき者にしてあはれに思ひたれば(今昔物語)、
の
むつまじ、
は、
睦まじ、
と当て、古くは、
むつまし、
と清音、動詞、
むつむ(睦)の形容詞化、
とあり(精選版日本国語大辞典)、
血縁あるもの、夫婦の関係にあるものの間に、馴れ合い、甘える感情がある意、広くは身内のように感じている人々や使用人に対する親しみの気持にも多く使う。類義語シタシは、本来必ずしも血縁などの無い人の間に、親密な関係、近しい気分のある意。室町時代からムツマジと濁音にも言う、
とある(岩波古語辞典)。だから、
兄弟(はらから)などのやうにむつましき程なるも無くて、いとさうざうしくなむ(源氏物語)、
と、
血縁の関係にあって気持ちがよく通じる、
意や、それを喩えとして、
我、国異(あたしくに)と雖も、心、断金(ムツマシキ)に在り(日本書紀)、
と、
間柄、気持のつながり、交わりなどが、隔てなく親密である、親しい、
意や、
人より先に参り給ひしかば、むつましくあはれなる方の御思ひは、殊に物語し給ふめれど(源氏物語)、
と、
夫婦関係にあって、馴れ甘え打ち解けた感情である、
意や、
春宮の御方は、実の母君よりも、この御方をばむつましきものに頼み聞え給へり(源氏物語)、
と、
血縁同様の親愛の情を感じる、
意で使い(仝上)、それを敷衍して、
是に陳蔡方(さま)に衛に睦(むつま)し(春秋経伝集)、
と、
仲がよい、
意でも使う(仝上)。
動詞「むつむ」は、
むつび、
と同じで、
むつ+接尾語ぶ、
とあり(精選版日本国語大辞典)、
血縁あるもの、夫婦の関係にあるものとして、馴れ親しむ振舞いをする意、広くは身内のものとしての態度で振舞う意、
とある(岩波古語辞典)。
接尾語「ぶ」は、
荒ぶ、
うつくしぶ、
宮ぶ、
都ぶ、
神(かむ)ぶ、
のように、
名詞または形容詞の語幹について上二段活用の動詞を作り、そのようなふるまいをする、または、そういう様子であることをはっきり示す意をあらわす、
とある(岩波古語辞典)。で、名詞「むつ(睦)」は、
ここに親(むつ)神ろぎ神神ろみの命(みこと)の宣はく(祝詞)、
と(仝上)、
親、
ともあて、
血縁関係・夫婦関係にある者同士が、馴れ親しみ合っている状態、
を意味し(仝上)、
むつぶ、
むつまし、
のほか、
むつごと(睦言)、
むつたま(親魂)、
すめむつ(皇睦)、
など、名詞に熟して用いられる(精選版日本国語大辞典)。なお、
此の師子の縁覚の聖の木の下に居たる時を見て、日日に来て喜びむつれて、経を誦み(「観智院本三宝絵(984)」)、
と、睦(むつ)の動詞化、
むつ(睦)る、
もある。
また、動詞「むつむ」の名詞形、
とし玉をいたう又々申うけ〈蝉吟〉
師弟のむつみ長く久しき〈芭蕉〉(俳諧・芭蕉桃青翁御正伝記(1841)貞徳翁十三回忌追善俳諧)、
と、
むつみ(睦)、
という使い方もあり(仝上)、
また「むつまし」に関連して、
むつまじがる
むつまじげ
むつまじさ
むつましむ
むつまやかに、
といった言い方もある(仝上・大言海)。
「睦」(漢音ボク、呉音モク)は、
会意兼形声。坴(リク→ボク)は土がもりもりと集まったさま。陸の原字。睦はそれを音符とし、目を加えた字で、多くの者が仲良く集まること、
とある(漢字源・角川新字源)。別に、
形声文字です(目+坴)。「人の目」の象形と「高い土盛りをした場所」の象形(「高い土盛りをした場所」の意味を表すが、ここでは、「穆(ボク)」に通じ(「穆」と同じ意味を持つようになって)、「やわらぐ」の意味)から、目が穏やかの意味を表し、そこから、「親しくする」、「むつまじい」を意味する「睦」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2053.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95