2023年04月21日

得意


本より得意とありける人一両人を伴なひて、道知れる人もなくて惑ひ行きけり(今昔物語)、

の、

得意、

は、

知人、

と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

得意(とくい)、

は、

天子得意、則愷歌(司馬法)、

と、

意の如くなりて満足する、

意の漢語であり、

失意、

の対である(字源)。日本語でも、

大小事宮仕つつ、毎日に何物か必ず一種を進らせければ、現世の得意、此の人に過ぎたる者あるまじ(源平盛衰記)、

と、

意(こころ)を得ること、
望みの満足して、喜び居たること、

の意でも使い、

得意の顔、
得意気、
得意満面、

などともいう(大言海)が、

入道はかの国のとくゐにて、年ころあひかたらひ侍れど(源氏物語)、
此のとくいの人人、四五人許、來集りにけり(宇治拾遺物語)、

と、上記用例のように、

心を知れる友、

の意(大言海)で、

自分の気持を理解する人、
親しい友、
昵懇(じっこん)にする人、
知友、

また、

知り合い、

等々の意で使ったり、

意を得る、

の意(精選版日本国語大辞典)から、

或主殿司若令得意人守護之(「古事談(1212‐15頃)」)、

と、

自信があり、また、十分に慣れていること、
常に馴染、それに熟達していること、

の意で(仝上)、

得意の技、

というように

得手、
オハコ、
十八番、

の意で使う(大言海)。さらに、

心を知れる友、

の意の外延、

あるいは、

馴染、

の意の外延を広げて、

御とくいななり、さらによもかたらひとらじ(枕草子)、

と、

ひいきにすること、また、その人、

意で、

雇主、
花主、

の意で使い、

その延長線上で、

世にわたる種とて、元来(もとより)商のとくい、殊更にあしらい(浮世草子「好色一代男(1682)」)、

と、

いつも取引きする先方、
商家などで、いつもきまって買いに来てくれる客、

の意で(精選版日本国語大辞典)、

得意先、
顧客、
花客

の意でも使う(仝上・大言海)

「得」 漢字.gif

(「得」 https://kakijun.jp/page/1158200.htmlより)


「得」 金文・殷.png

(「得」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BE%97より)


「得」 甲骨文字・殷.png

(「得」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BE%97より)

「得」(トク)は、

会意兼形声。旁の字は、「貝+寸(て)」の会意文字で、手で貝(財貨)を拾得したさま。得は、さらに彳(いく)を加えたもので、いって物を手に入れることを示す。横にそれず、まっすぐ図星に当たる意を含む、

とある(漢字源・https://okjiten.jp/kanji595.html)が、別に、

原字は「貝」+「又」で財貨を手中に得るさまを象り、のち「彳」を加えて「得」の字体となる。「える」を意味する、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BE%97

会意形声。彳と、䙷(トク=㝵。える、うる)とから成る。貴重な宝物を取りに行く、「える」意を表す、

とも(角川新字源)ある。

「意」(イ)は、「新発意(しぼち)」で触れた。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:53| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする