本より得意とありける人一両人を伴なひて、道知れる人もなくて惑ひ行きけり(今昔物語)、
の、
得意、
は、
知人、
と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
得意(とくい)、
は、
天子得意、則愷歌(司馬法)、
と、
意の如くなりて満足する、
意の漢語であり、
失意、
の対である(字源)。日本語でも、
大小事宮仕つつ、毎日に何物か必ず一種を進らせければ、現世の得意、此の人に過ぎたる者あるまじ(源平盛衰記)、
と、
意(こころ)を得ること、
望みの満足して、喜び居たること、
の意でも使い、
得意の顔、
得意気、
得意満面、
などともいう(大言海)が、
入道はかの国のとくゐにて、年ころあひかたらひ侍れど(源氏物語)、
此のとくいの人人、四五人許、來集りにけり(宇治拾遺物語)、
と、上記用例のように、
心を知れる友、
の意(大言海)で、
自分の気持を理解する人、
親しい友、
昵懇(じっこん)にする人、
知友、
また、
知り合い、
等々の意で使ったり、
意を得る、
の意(精選版日本国語大辞典)から、
或主殿司若令得意人守護之(「古事談(1212‐15頃)」)、
と、
自信があり、また、十分に慣れていること、
常に馴染、それに熟達していること、
の意で(仝上)、
得意の技、
というように
得手、
オハコ、
十八番、
の意で使う(大言海)。さらに、
心を知れる友、
の意の外延、
あるいは、
馴染、
の意の外延を広げて、
御とくいななり、さらによもかたらひとらじ(枕草子)、
と、
ひいきにすること、また、その人、
意で、
雇主、
花主、
の意で使い、
その延長線上で、
世にわたる種とて、元来(もとより)商のとくい、殊更にあしらい(浮世草子「好色一代男(1682)」)、
と、
いつも取引きする先方、
商家などで、いつもきまって買いに来てくれる客、
の意で(精選版日本国語大辞典)、
得意先、
顧客、
花客、
の意でも使う(仝上・大言海)
(「得」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BE%97より)
(「得」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BE%97より)
「得」(トク)は、
会意兼形声。旁の字は、「貝+寸(て)」の会意文字で、手で貝(財貨)を拾得したさま。得は、さらに彳(いく)を加えたもので、いって物を手に入れることを示す。横にそれず、まっすぐ図星に当たる意を含む、
とある(漢字源・https://okjiten.jp/kanji595.html)が、別に、
原字は「貝」+「又」で財貨を手中に得るさまを象り、のち「彳」を加えて「得」の字体となる。「える」を意味する、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BE%97)、
会意形声。彳と、䙷(トク=㝵。える、うる)とから成る。貴重な宝物を取りに行く、「える」意を表す、
とも(角川新字源)ある。
「意」(イ)は、「新発意(しぼち)」で触れた。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95