其の間、簾の内より空薫(そらだき)の香かうばしく匂ひ出でぬ(今昔物語)
とある、
空薫、
は、
空炷、
とも当て(広辞苑)、
香を室に豊富にくゆらせるのをいう、
とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)が、
どこでたくのかわからないように香をたきくゆらすこと(広辞苑)、
どこからともなく匂ってくるように香をたくこと。また、前もって香をたいておくか、あるいは別室で香をたいて匂ってくるようにすること(日本国語大辞典)、
何處よりとも知られぬやうに、香を薫(くゆ)らすこと(客を迎えるなどに)(大言海)、
とあり、だから、
暗薫、
ともいい(仝上)、それをメタファに、
にほひ来る花橘のそらたきはまかふ蛍の火をやとるらん(「夫木集(夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)(1310頃))」)、
匂ひくるそらだきものを尋ぬれば垣根の梅の謀るなりけり(仝上)、
と、
どこから来るともわからないかおり、
の意でも使う(岩波古語辞典・大言海)。また、
そらだきものするやらむと、かうばしき香しけり(宇治拾遺物語)、
と、
来客のある際、香炉を隠しおき、また、別室に火取りを置いて、客室の方を薫くゆらせるためにたいた香、
つまり、
空焼(だ)きの薫物、
を、
空薫物(そらだきもの)、
という。
(聞香炉(ききごうろ) https://www.yamadamatsu.co.jp/enjoys/soradaki.htmlより)
つまり、
空薫、
とは、
間接的な熱を与える事で薫る御香を焚く方法、
をいい、
練香、
香木、
印香、
等々を焚く(https://www.aroma-taku.com/page/18)。これに対して、
掌の香炉から立ち上る幽玄な香りを楽しむ、
のを、
香炉から香りを、嗅ぐのとは異なり、心を傾けて香りを聞く、
という意味で、
聞香(もんこう)、
という(https://www.shoyeido.co.jp/incense/howto.html)。
「薰(薫)」(クン)は、
会意兼形声。「艸+音符熏(クン くゆらす)」で、香草のにおいが、もやもやとたちこめること、
とある(漢字源)。別に、
形声。艸と、音符熏(クン)とから成る。かおりぐさ、ひいて「かおる」「かおり」の意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(艸+熏)。「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「煙の象形と袋の象形と燃え立つ炎の象形」(「香をたく・良い香り」の意味)から、「香気(良い香り)がする草」を意味する「薫」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1572.html)ある。なお、「空」(漢音コウ、呉音クウ)は、「空がらくる」で触れた。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95