最手(ほて)

最手(ほて)に立ちて、いくばくの程をも経ずして脇にはしりにけり(今昔物語)、 これが男にてあらましかば、合ふ敵なくて最手なむどにてこそあらまし(仝上)、 とある、 最手、 は、主位の相撲、 脇、 は、 次位の相撲、 と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)が、これだとわかりにくい。 最手、 は、 秀手、 とも当て、 …

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もとほし

此の相撲どもの過ぎむとするが、皆水干装束にてもとほしをときて、押入烏帽子どもにてうち群れて過ぐるを(今昔物語)、 にある、 もとほしをときて、 は、 衣のくびのまわり、その紐をといてくつろいだ、 と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。因みに、「押入烏帽子」とは、 えぼしを目深にかぶること、 とある(仝上)。 (烏帽子 デジタル大辞泉よ…

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中結ひ

僧正、工の今日の所作はいかばかりしたると見むと思ひ給ひて、中結ひにして高足駄を履きて杖をつきて(今昔物語)、 にある、 中結(なかゆ)ひ、 は、 腰ところで衣をむすんで、歩行に便にする、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。因みに、「高足駄(たかあしだ)」は、 たかあし、 ともいい、 足駄の歯の高いもの、 をいう(精選版日本国語大辞典)…

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あななひ

ただ独り寺のもとに歩み出て、あななひどもを結びたる中に立ち廻りて見給ひける程に(今昔物語)、 の、 あななひ、 は、動詞、 あななふ、 の名詞形で、 麻柱、 と当て(大言海)、 支柱(すけ)の義、 とあり、 古、工人、支柱に縁(ふちど)りて、高きに登りしに起こると云ふ、麻柱は、庪柱の誤りならむかと云ふ説あり、即ち、枝柱、支柱なり、 …

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かたぬぐ

されば皆紐解き袒(かたぬ)ぎて舞ひ戯(たはむ)るる間夜も漸くふけて皆人いたく酔ひにたり(今昔物語)、 の、 袒ぐ、 は、 肩脱ぐ、 とも当て、 上衣(ウハギ)をなかば脱いで、下衣(シタギ)の肩をあらわす、 意で、さらに転じて、 袒ぎて背(せなか)を見しむ(今昔物語)、 と、 はだ脱ぎになる、 意でも使う(岩波古語辞典)。 …

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かはらか

年四十餘ばかりなる女の、かはらかなる形して、かやうの者の妻と見えたり(今昔物語)、 の、 かはらか、 は、 こざっぱりした、 意とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 かはらか、 は、 爽、 清、 と当て(大言海)、 こざっぱりしてきれいである(岩波古語辞典)、 さわやかである、さっぱりしている(精選版日本国語大辞典)、 さわ…

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ねびまさる

寄りて見れば、見し時よりもねびまさりて、あらぬ者にめでたく見ゆ(今昔物語)、 の、 ねびまさる、 は、 成人して、大人びて、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。因みに、「あらぬ者」は、 其の人とは思えぬほど立派に、 とある(仝上)。 ねびまさる、 は、 ねび勝る、 と当てたり(広辞苑)、 老成勝る、 と当てたり…

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有識

本(もと)より有識(いうしき)なる者にて、賤しき事をばせずして(今昔物語)、 の、 有識、 は、 教養ある者、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。この、 有識(ゆうしき)、 は、漢語であり、 凡學事毋為有識者所笑、而為見仇者所快(漢書・朱浮傳) ものしり、 見識ある人、 の意で(字源)、 有識之士、心獨怪之(後漢書・何皇…

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おほいらつめ

我はそこのおはしつらむ御坊の大娘(おほいらつめ)なり(今昔物語)、 とある、 大娘(おほいらつめ)、 は、 長女、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 おほいらつめ(おおいらつめ)、 は、 大嬢、 とも(岩波古語辞典・大言海)、 大郎女、 とも(精選版日本国語大辞典)当て、次女に当たる、 弟女(おといらつめ)、 あ…

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かれがれ

漸くかれがれになりつつ、前々(さきざき)の様(やう)にも無かりけり(今昔物語)、 の、 かれがれ、 は、 うとうとしくて、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。「うとうとし」は、 疎疎し、 と当て、 心寄せ聞え給へば、もて離れてうとうとしきさまにはもてなし給はざりき(源氏物語)、 と、 親しくない意の「うとい」を強めて言う語、 …

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めざまし

聟にならむと云はせけれども、高助、目ざましがりて文をだに取り入れさせざりけり(今昔物語)、 の、 めざましがる、 は、 興ざめなこととして、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 めざまし、 は、 目覚まし(岩波古語辞典・学研国語大辞典)、 あるいは、 目醒まし(大言海)、 と当て、 シク活用形容詞で、 (しく)…

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先追

賤しくとも前(さき)追はむひとこそ出し入れてみめ(今昔物語)、 の、 前追ひ、 は、 行列を作り、前払いをさせる身分の人、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。「前追」は、 先追、 とも当て、 貴人が外出する際、その行列の先頭に立って、路上の人々をじゃまにならないように声を立てて追い払うこと。また、その人のこと、 で、 あそび…

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放生会(ほうじょうえ)

八月十五日の法會(ほふゑ)を行ひて放生會(はうじやうゑ)と云ふ、これ大菩薩の御誓ひに依る事なり(今昔物語)、 にある、 放生会(はうじやうゑ・ほうじょうえ)、 は、 仏教の不殺生の思想に基づいて、捕らえられた生類を山野や池沼に放ちやる儀式、 をいい(広辞苑)、 殺生戒に基づくもの、 で、奈良時代より行われ(大辞泉)、日本では、養老四年(720)、 …

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あからめ

本の妻の許に返り行きて、本のごと、あからめもせで棲みにける(今昔物語)、 の、 あからめ、 は、 よそめ、 の意で、 わきみ、 つまり、文脈では、 他の女には目もくれず、 の意とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 あから目、 傍目、 傍観、 などと当て(広辞苑・学研国語大辞典・大言海)、類聚名義抄(11~12世紀)には、…

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巾子(こじ)

其の前には冠山(かむりやま)とぞ云ひける。冠の巾子(こじ)に似たりけるとぞ語り傳へたるとや(今昔物語)、 の、 巾子、 は、 冠の後ろに高く突き出ている部分。もとどりを入れて冠を固定する、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 (巾子 デジタル大辞泉より) 巾子(きんし)、 は、漢語であり、 武后を擅(もつぱ)らにし、多く群臣に巾子袍を…

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向腹(むかひばら)

我が子にも劣らず思ひて過ぎけるに、この向腹の乳母、心や惡しかりけむ(今昔物語)、 の、 向腹、 は、 正妻の子、 の意である(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 向腹、 を、 むかばら、 あるいは、転化して、 むかっぱら、 と訓ませると、「向っ腹」で触れたように、 むかっぱらが立つ、 とか、 むかっぱらを立てる、…

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よぼろ

土に穢れ夕黒なる袖も無き麻布の帷子(かたびら)の、よぼろもとなるを着たり(今昔物語)、 の、 よぼろもとなる、 は、 ふくらはぎまでしかない、 と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 よぼろ、 は、 膕、 と当て、類聚名義抄(11~12世紀)に、 膕、ヨホロ、 和名類聚抄(平安中期)に、 膕、與保呂、曲脚中也、 …

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この人かくめでたくをかしくとも、筥(はこ)にし入れらむ物は我等と同じやうにこそあらめ、それをかいすさびなどして見れば(今昔物語)、 の、 筥、 は、 當時大便をはこにしたのでこう言う。「はこす」と動詞にも使った、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 はこ、 は、 筥、 の他、 箱、 函、 匣、 筐、 等々とも当て(広…

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練色

浅黄の打衣(うちぎぬ)に青黑の打狩袴(うちかりばかま)を着て、練色の衣の綿厚からなる三つばかりを着て(今昔物語)、 の、 練色(ねりいろ)、 とは、 うすい黄色、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 白みを帯びた薄い黄色(精選版日本国語大辞典)、 薄黄色を帯びた白色(岩波古語辞典)、 淡黄色(大言海)、 などともある。 (練色 ht…

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まなかぶら

筒尻を以て小男のまなかぶらをいたく突きければ、小男、突かれて泣き立つと見る程に(今昔物語)、 の、 まなかぶら、 は、 目のふち、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 眶、 と当て、和名類聚抄(平安中期)に、 眶、和名万奈加布良(まなかぶら)、目眶也、 とあり、色葉字類抄(平安末期)には、 眶、マカフラ、 とあり、 …

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