2023年05月03日

中結ひ


僧正、工の今日の所作はいかばかりしたると見むと思ひ給ひて、中結ひにして高足駄を履きて杖をつきて(今昔物語)、

にある、

中結(なかゆ)ひ、

は、

腰ところで衣をむすんで、歩行に便にする、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。因みに、「高足駄(たかあしだ)」は、

たかあし、

ともいい、

足駄の歯の高いもの、

をいう(精選版日本国語大辞典)。「足駄」は、

下駄の古称、

で(日本語源大辞典)、

現代では差し歯下駄(げた)の歯の高いものをいうが、古くは下駄の総称、

で、「足駄」は、

足下(あしした)あるいは足板(あしいた)の音便(おんびん)、

とされる(仝上・日本大百科全書)。かつては、

屐(げき)、

をあて、

あしだ、

と訓ませた。平安時代には僧兵や民間の履き物であった。室町時代に一般化した。当初の形は、

長円形の杉材の台に銀杏(いちょう)歯を差し込んだ、

露卯(ろぼう)下駄の高(たか)足駄、

か、

歯の低い平(ひら)足駄、

であった(仝上)。

露卯下駄、

は歯の臍(ほぞ へそ)が台の上に出たものである。江戸末期になると、江戸では差し歯の高い下駄を、

高下駄、
あるいは、
足駄、

歯の低いものと連歯(れんし)下駄を、

下駄、

といい、大坂では足駄の名前は廃れて、差し歯も連歯のものもすべて、

下駄、

というようになった(仝上・日本語源大辞典)とある。

『伴大納言絵詞』にみる足駄.jpg

(『伴大納言絵詞(部分)』(平安時代)にみる足駄 歯の下側が広がる銀杏歯である https://kotobank.jp/word/%E9%AB%98%E8%B6%B3%E9%A7%84-559071より)

さて、

中結ひ、

は、辞書には、

衣服の裾を引き上げるなどして腰帯を結ぶこと。また、その帯(大辞泉)、
中帯を結うこと。衣服を身丈に着るために、腰の中ほどに帯を結んで腰折りにすること。また、その帯(精選版日本国語大辞典)、
動きやすくするために衣を少し引き上げて腰の辺りを帯で結ぶこと、またその帯(岩波古語辞典)、

などとあるが、

古へ、衣着て、腰を結ひたるもの、

とあり(大言海)、即ち、

今の常の帯なり、

とある(仝上)。「帯」は、古くは、

結び垂らしている、

という意で、

たらし、

といい、前または横で結んでいる。平安時代も、「したうづ」で触れたように、外観から帯を見ることはできないが、

袍袴(ほうこ 男性用の表着である袍と,内側の脚衣である(はかま)の組合せ服)、
裙(くん 女性の下衣、「裳(も)」と同じ意味)、

を着用したころから、

革帯(かわのおび)、
綺帯(かんはたのおび)、
紕帯(そえのおび)、
石帯(せきたい)、
裳(も)の腰、

等々によって前合わせを押さえており、今日風の帯は使用していなかった(仝上)。中世、袴の簡略化が行われ、「壺折」で触れたように、女房装束の大袖(おおそで)衣の表着を脱ぎ、下着に着用していた、

小袖(こそで)、

が表着になるのに伴って、小袖の前合わせを幅の狭い帯で押さえるようになり、

帯、

が表面に現れてくる。室町時代には小袖の発達とともに、小袖、帯の姿となる(仝上)。「中結ひ」は、帯が出てくる過渡の時期の呼名ではあるまいか。平安時代、庶民は、

衣服の前合わせを細い紐状の帯を締めて押さえていた、

とあるので、この「紐」を指している可能性がある。

中結ひ、

は、「帯」の意味のメタファで、

のし進上と染抜たるを、八所縫の小風呂敷にして、腹帯もて中結(ナカユヒ)し(滑稽本「狂言田舎操(1811)」)、

と、

包物などの中ほど、または内部を紐などで結び括ること、

の意でも使った(精選版日本国語大辞典)。また、

竹刀(しない)、

で、

竹刀の棟にあたるところに、柄革から先革にかけて弦を張り、切先から約30cmくらいのところを細い革できつく縛る、

のも、

中結(なかゆい)、

というらしい(世界大百科事典)。

なお、「下駄」については、「下駄をはかせる」、「下駄を預ける」で触れたことがある。

「帶」  漢字.gif


「帯」 漢字.gif

(「帯」 https://kakijun.jp/page/1057200.htmlより)

「帯」(タイ)は、

会意。「ひもで物を通した姿+巾(たれ布)」。長い布のおびでもっていろいろな物を腰につけることをあらわす、

とある(漢字源)。別に、

象形。結んだ帯を象る、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B8%B6

象形。かざりをつけたおびからぬのが下がっているさまにかたどる、

とも(角川新字源)、

象形文字です。「おびに飾りのたれ布が重なり、垂れ下がった」象形から「おび・おびる」を意味する「帯」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji634.htmlあり、象形文字とするのが大勢である。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:46| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする