土に穢れ夕黒なる袖も無き麻布の帷子(かたびら)の、よぼろもとなるを着たり(今昔物語)、
の、
よぼろもとなる、
は、
ふくらはぎまでしかない、
と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。
よぼろ、
は、
膕、
と当て、類聚名義抄(11~12世紀)に、
膕、ヨホロ、
和名類聚抄(平安中期)に、
膕、與保呂、曲脚中也、
とあるように、元々、
よほろ、
後世、
よぼろ、
よおろ、
といい、「膕」を、
ひかがみ、
とも訓ませ、
膝窩(しっか)、
とも、
うつあし、
よほろくぼ(膕窪)、
ともいい(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)、
膝(ヒザ)の裏側のくぼんだ部分、
をいうが、「よぼろ」に、
丁、
とあてると、
上代、広く公用の夫役(ブヤク 労力を徴用する課役)の対象となった、二十一歳から六十歳までの男子、
を指し、
正丁(せいてい)、
成丁、
丁男、
課丁、
役丁、
などもこの意で(大言海)、
信濃國男丁(よぼろ)作城像於水派邑(武烈紀)、
と訓ませ、また、
よほろ、
ということもある。本来は、
膕、
の意で、
脚力を要したことからいう、
とある(仝上)。
いま、人足と言はむが如し、
とある(大言海)。
膕(よほろ)と同語源、
とある(デジタル大辞泉)のは当然である。
よぼろ、
ともいう
よほろ、
は、
弱折(ヨワヲリ)の約轉と云ふ(大言海)、
という語源しか見当たらない。
ひかがみ(膕)の古名、
とある。
(足の部位 デジタル大辞泉より)
ひかがみ(膕)、
は、
「ひきかがみ(隠曲)」の変化した語(精選版日本国語大辞典)、
引屈(ひきかが)みの約(大言海)、
とあり、
ひっかがみ、
とも訛るので、曲げる膝のところを指している。下腿の前面は、
むこうずね、
後面のふくらんだ部分を、
ふくらはぎ、
大腿と下腿の移行するところを、
ひざ、
あるいは、
ひざがしら、
その後面は曲げるとくぼむので、
膝窩(しつか)、
つまり、
ひかがみ、
となる(世界大百科事典)。古名が、
よぼろ、
うつあし、
であるが、
うつあし、
は、やはり、
膕、
と当て、
内脚(ウチアシ)の転、裏脚の意か、
とあり(大言海)、
うつもも、
うちもも(股)、
ひかがみ、
の古言(仝上)、字鏡(平安後期頃)に、
膕、曲脚中也、宇豆阿志、
とある。
膝窩(しつか)、
は、
膝膕窩(しっかくわ)、
膝膕(しっかく)、
ともいう(精選版日本国語大辞典)。また、
よほろの筋、
つまり、よほろにある大きな筋肉を、
膕筋(よほろすじ)、
訛って、
よおろすじ、
よぼろすじ、
ともいう言い方もある(精選版日本国語大辞典)。
「膕」(漢音カク・キャク、呉音コク)は、
ひかがみ、
つまり、
膝の裏のくぼんだところ、
とのみあり(漢字源)、
腘、
𦛢、
𣍻、
䐸、
𩪐、
といった異字体があるが、特に説明する辞書が見当たらない(https://jigen.net/kanji/33173)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95