2023年05月18日


この人かくめでたくをかしくとも、筥(はこ)にし入れらむ物は我等と同じやうにこそあらめ、それをかいすさびなどして見れば(今昔物語)、

の、

筥、

は、

當時大便をはこにしたのでこう言う。「はこす」と動詞にも使った、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

はこ、

は、

筥、

の他、

箱、
函、
匣、
筐、

等々とも当て(広辞苑)、

大事なもの、人には見せてはならないものを入れて収めておく、蓋のあるいれもの。古くは、箱の中に魂を封じ込めたり、人を幸せにする力をしまったりできると考えられた、

とあり(岩波古語辞典)、対比できるのは、

籠(こ)もよみ籠(こ)持ち掘串(ふくし)もよみ掘串(ぶくし)持ちこの丘に菜摘(なつ)ます児(こ)家聞かな名告(なの)らさね(万葉集)、

の、

籠(こ)、

つまり、

竹などで作ったもの入れ、

かご(籠)、

である(仝上)。ただ、「はこ」に当てた漢字「箱」自体竹製を意味するなど、「はこ」と「こ」の区別ははっきりしない。

筥、

は、

この箱を開(ひら)きて見てばもとのごと家はあらむと玉(たま)櫛笥(くしげ)少(すこ)し開くに(万葉集)、

と、

物を納めておく入れ物、

の意だが、上述のように、

この人かくめでたくをかしくとも、筥(はこ)にし入れらむ物は我等と同じやうにこそあらめ(今昔物語)、

と、

厠で大便を受けた容器、

をいい、つまり、

おまる、

の意で、平安時代、トイレである、

樋殿(ひどの)、

に、排せつ物を入れる容器である大便用の、

しのはこ(清筥・尿筥)、

小便用の、

おおつぼ(虎子・大壺)、

を置いていた(谷直樹『便所のはなし』)とされ、さらに転じて、

また、あるいは、はこすべからずと書きたれば(宇治拾遺物語)、

と、

大便、

の意となっていく(広辞苑・岩波古語辞典・日本国語大辞典)。その故に、便器の意の「はこ」に、

糞器、

と当てるもの(大言海)もある。

「はこ」は、和名類聚抄(平安中期)に、

箱、匧、筥、筐、波古、

とあり、語源説には、

蓋籠(フタコ)の約(大言海・日本釈名・雅言考・和訓栞)、
朝鮮語pakonit(筐)と同源(岩波古語辞典)、
笹で作ったので、ハ(葉)コ(籠)(関秘録)、
ハケ(方笥)の義(言元梯)、
物を入れてハコブものだから(和句解)、
貼り籠の約(国語の語根とその分類=大島正健)、

と諸説あるが、

蓋籠(フタコ)がどうしてハコになったか、音韻変化に無理がある、

とする(日本語源広辞典)説もあり、

葉は薄くて平たいものですし、平たい籠をハコと呼んだ、

のだし(仝上)、

蓋がなくても、ハコと呼んでいたのは現在も同じ、

とする(仝上)のは確かに説得力があるが、多くは竹などで編んだものなのに、「はこ」と「こ」を区別していたのには意味があるはずで、音韻変化の難はあるにしても、

蓋籠(フタコ)の約、

とする説には、意味がある気がする。

「はこ」に当てる漢字には、

箱、
函、
筥、
匣、
匣、
筐、

があるが、

箱、

には、

かたみ(筐・篋)、

あるいは、

かたま(堅閒 編みて目が密なる意)、

つまり、

かご、

の意がある。和名類聚抄(平安中期)に、

苓篝、賀太美(かたみ)、小籠也、

とある(字源・大言海・岩波古語辞典)。

函、

には、

匣、

の意があり、

櫃(ひつ)、

の意がある(字源・漢字源)。

筥、

は、

かたみ、

で、

円形の筐、

とあり、円なるを、

筥、

方なるを、

筐、

という(字源)とある。だから、

筥筐(きょうきょ)、

で、

方形のかごと圓きかご、

の意となる(仝上)。

篋、

は、

長方形の箱、

で、

主に書物などを入れる箱、

をいう(仝上・漢字源)。

匣、

は、

箱、筥、匱、

と同義だが、大きいものを、

箱、

小さいものを、

匣、

といい(字源)、

ふたがついて、ぴったりかぶさるもの、

をいう(漢字源)。

筐、

は、上述のように、

かたみ、

で、

方なるかご、

をいう(字源)。

「凾」 漢字.gif



「函」 漢字.gif



「函」 甲骨文字・殷.png

(「函」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%87%BDより)

「函(凾)」(漢音カン、呉音ゴン)は、

象形。矢を箱の中に入れた姿を描いたもの、

とある(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%87%BD)が、

象形。矢を入れておく入れ物にかたどる。ひいて「いれる」、また、「はこ」の意に用いる、

とも(角川新字源)、

象形文字です。「矢袋に矢が入れてある」象形から、「箱」、「ふばこ(文書を入れる小箱)」を意味する「函」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2247.html

「筥」 漢字.gif


「筥」(漢音キョ、呉音コ)は、

会意。「竹+呂(つらなる)」、

とある(漢字源)。

米などを入れるのに使う丸い竹製のかご、

である(仝上)。類聚名義抄(11~12世紀)には、

筥 ハコ、筥 アラハコ/沓筥 クツバコ、

とある。

「箱」 漢字.gif

(「箱」 https://kakijun.jp/page/1574200.htmlより)

「箱」(漢音ソウ、呉音ショウ)は、

会意兼形声。「竹+音符相(両側に向かい合う)」。もと、一輪車の左右にペアをなしてつけた竹製の荷籠、

とある(漢字源)。別に、

形声文字です(竹+相)。「竹」の象形と「大地を覆う木の象形と目の象形」(「木の姿を見る」の意味だが、ここでは、「倉」に通じ(同じ読みを持つ「倉」と同じ意味を持つようになって)、「しまう」の意味)から竹の「はこ」を
意味する「箱」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji425.html

「篋」 漢字.gif


「篋」(キョウ)は、

会意兼形声。「匧」(キョウ)は、この枠内にさし入れてふさぐ意、篋はそれを音符とし、丈を添えた字、

とあり(漢字源)、竹冠がついていて、

竹製のはこ、

とみられる(仝上)。

「匣」 漢字.gif


「匣」(漢音コウ、呉音ギョウ、慣用ゴウ)は、

会意兼形声。甲(コウ)は、ぴったりと蓋、または覆いのかぶさる意を含む。からだにかぶせるよろいを甲といい、水路にかぶせて流れを塞ぐ水門を閘(コウ)という。匣は、「匚(かごい)+音符甲」で、ふたをかぶせるはこ、

とある(漢字源)。

「筐」  漢字.gif



「筺」 漢字.gif


「筐」(漢音キョウ、呉音コウ)は、

会意兼形声。「竹+音符匡(キョウ 中を空にした四角い枠)」、

とあり、四角いものを筐(キョウ)といい、丸いものは、筥(キョ)という(漢字源)。

以上の他、「はこ」に当てる漢字には、

匱、
匪、
匭、
匳、
匵、
櫃、
笥、
筲、
篚、
簏、
簞、

等々がある。

「匱」  漢字.gif


匱(キ)、

は、

大いなるはこ、

とあり(字源)、

匣、

と同義である(字源)。

「匪」 漢字.gif


匪(ヒ)、

は、

かたみ、

で、

方形の竹かご、

で、

篚、

と同じとある(仝上)。

「篚」 漢字.gif


篚、

は、

かたみ、

だが、

圓形の竹器(たけかご)、

とある(仝上)。

「匭」 漢字.gif


匭(キ)、

は、

匣、

と同じとある。

小さい箱、

の意である(仝上)。

「匳」 漢字.gif


匳(レン)、

は、

会意兼形声。僉は、いろいろな物を集める意を含む。匳はむ「匚(わく)+音符僉(ケン・レン)」で、手元の品を集めてしまいこむ小箱、

とあり(漢字源)、

かがみばこ、
くしげ(鏡匣)、

ともある(字源)。

「匵」  漢字.gif


匵(トク)、

は、

ひつ(匱)と同じ、

とある(字源)。

大いなるはこ(匣)、

の意となる(仝上)。

「櫃」 漢字.gif


「櫃」(漢音キ、呉音ギ)は、

会意兼形声。「木+音符匱(キ はこ くぼんだ容器)」、

とあり(漢字源)、

物をしまっておくための大きな箱や戸棚、

の意である(仝上)。

「笥」 漢字.gif


「笥」(シ)は、

会意兼形声。「竹+音符司(すきまがせまい、中の物をのぞく)」。身と蓋の隙間が狭い、竹で編んだはこ、

とある(漢字源)。

飯または衣服などを入れる四角な箱。あしや竹を編んでつくり、蓋がすき間なく被さるようになっている、

とある(仝上)。

圓を、

簞、

といい、

方を、

笥、

という(字源)。

「簞」  漢字.gif


「簞」(タン)は、

会意兼形声。「竹+音符單(タン 平らで薄い)」。薄い割竹で編んだ容器、

とあり(漢字源)、別に、

形声文字です(竹+單)。「竹」の象形(「竹」の意味)と「先端が両またになっているはじき弓」の象形(「ひとつ」の意味だが、ここでは、「坦(タン)」に通じ(同じ読みを持つ「坦」と同じ意味を持つようになって)、「ひらたい」の意味)から「ひらたい竹製の小箱」を意味する「箪」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2644.html

かたみ、

であるが、

小筐、

と当て、

飯びつ、

とある(字源)。

簞、
笥、

共に飯に関わり、

簞笥(たんし)、

は、

飯などを入れる容器、

になるが、我が国では、

タンス、

と訓ませ、

ひきだしを備えた収納家具、

の意で使うが、上述のように、

簞は円形、
笥は方形、

の、ともに食物や衣類を入れる容器を意味した。

「筲」 漢字.gif


筲(ショウ、ソウ)、

は、

めしびつ、

の意だが、

一斗二升の飯米を入れる容器、

とある(字源)。

「篚」 漢字.gif


篚(ヒ)、

は、やはり、

かたみ、

円形の竹器、

とある(字源)。

「簏」 漢字.gif


簏(ロク)、

は、

篚と同じ、

とあり、

竹にて編んだ丈の高い箱、

で、

書物、衣類などを入れる、

とある(字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:50| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする