2023年05月21日

構ふ


醫師もこれを聞きて泣きぬ。さて云ひやう、此の事を聞くに、實にあさまし、己構へむと云ひて(今昔物語)、

の、

構ふ、

は、

方法を考える、

と注記がある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

構ふ、

については、

カム(噛)アフ(合)の約、かみあわせる意(岩波古語辞典)、
カは構くの語根、マフは、設け成す意(見まふ、為(しまふ)、立ちまふ)(大言海)、

の二説しか載らないが、

構く、

は、

絡く、

とも当て、

大君の八重の組籬(くみがき)かかめども汝(な)を有ましじみかかぬ組籬(日本書紀)

と、

構え作る、
組み作る、
編み成す、

意である(大言海)。この、

構く、

は、

懸くと同源、

とあり、

懸く、

は、

舁く、
とも、
掻く、
とも、
書く、

とも同源で、「かく(書)」で触れたように、

書く・描く・画くは、全て「掻く(かく)に由来する。かつては、土・木・石などを引っ掻き、痕をつけて記号を記したことから、「かく」が文字や絵などを記す意味となった、

もので(語源由来辞典)、「掻く」は、

爪を立て物の表面に食い込ませてひっかいたり、絃に爪の先をひっかけて弾いたりする意。「懸く」と起源的に同一。動作の類似から、後に「書く」の意に用いる、

とあり(岩波古語辞典)、「懸く」は、

物の端を対象の一点にくっつけ、そこに食い込ませて、その物の重みを委ねる意。「掻く」と起源的に同一。「掻く」との意味上の分岐に伴って、四段活用から下二段活用「懸く」に移った。既に奈良時代に、四段・下二段の併用がある、

とする(仝上)。つまり、漢字がなければ、

書く、
も、
掻く、
も、
懸く、

掛く、
も、
舁く、
も、
構く、

区別なく、「かく」であり、

手指の動作に伴う、

幅広い意味があることになる。

構ふ、

は、そう見ると、上述語源説の、

カム(噛)アフ(合)の約、かみあわせる意(岩波古語辞典)、
カは構くの語根、マフは、設け成す意(大言海)、

を合わせて、

カは構く、アフ(合)、

と、

構く、

を少し強め、単純な、

構く、

の動作を進め、

長き世の語りにしつつ後人の偲ひにせむとたまぼこ(玉桙)の道の邊(へ)近く磐構へ造れる冢(万葉集)、

と、

組み立て作る、
結構、

と(大言海)、「構く」の動作を進捗させた言い方なのではないか。字鏡(平安後期頃)に、

材、用也、加万夫、

とある。それをメタファに、

樏(かじき)はく越の山路の旅すらも雪にしづまぬ身をかまふとか(夫木集)、

と、

身構え、
身支度す、

の意に、さらに、

いかにかまへて、ただ心やすく迎へとりて(源氏物語)、

と、

思慮・工夫・注意・用心などあれこれ組み立て集中する、

と、

心構え、

の意で用い、

このかまふる事を知らずして、その教へに随ひて(今昔物語)、

と、

企てる、
たくらむ、

意でも使う(岩波古語辞典・大言海)。この他動詞が、

心にかまへてする意より、四段自動の生じたるものか、下二段他動のいろふ(彩色)に対して、四段自動のいろふ(艶)、いろふ(綺)のあるがごときか、

という(大言海)、

多く打消しの表現を伴って用いる、

「構ふ」の自動詞形が生じ、

世間は何といふともかまはず、再々見舞うてくれい(狂言・居杭)、
私にかまわないで先に行ってください、

などと、

関わる、
関与する、
かかづらう、
携わる、

意や、

小車にかまふ辺りの木を伐りて(六吟百韻)、
我等が鼻が高いによつて、こなたの下尾垂さげおだれへかまひまして出入りに難儀をしまする(西鶴織留)、
費用がかかってもかまいませんか、

などと、

差し支える、
さしさわる、

意で使い、さらに、転じて、

たづさはりて禁ずる意、

から、

すでに市川の苗字を削られ芝居もかまはるべき程のことなり(風来六部集・飛だ噂の評)、

と、

強く干渉して、一定の場所での居住などを禁止する、
追放する、

意などでも使う(広辞苑・大言海)。

構ひ、

と名詞形だと、江戸時代、

日本半分かまはれにけり(俳諧・物種集)、

と、

一定地域から追放し、立入を禁止する刑、

を指す(広辞苑)。

「構」 漢字.gif


「構」(漢音コウ、呉音ク)は、

会意兼形声。冓(コウ)は、むこうとこちらに同じように木を組んでたてたさま。向こう側のものは逆に書いてある。構は「木+音符冓」で、木をうまく組んで、前後平均するように組み立てること、

とある(漢字源)。別に、

形声。木と、音符冓(コウ)とから成る。木を組み合わせて家屋などをつくる、ひいて「かまえる」意を表す、

とも(角川新字源)、

形声文字です(木+冓)。「大地を覆う木」の象形と「かがり火をたく時に用いるかごを上下に組み合わせた」象形(「組み合わせる」の意味)から、「木を組み合わせる」、「かまえる」を意味する「構」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji789.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:39| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする