2023年05月25日

放免


鉾(ほこ)を取りたる放免(はうめん)の、蔵の戸の許に近く立ちたるを、蔵の戸のはざまより、盗人、此の放免を招き寄す(今昔物語)、

の、

放免、

は、

はうべん、

ともいい(「べん」は「免」の漢音)、

平安・鎌倉時代、検非違使庁の下で犯人捜査などに従事した下部(しもべ)、刑期終了後に放免された罪人をこれに使用した、

のでいう(岩波古語辞典)。

犯罪に通じており、追捕に便利だからおかれた、

らしく(広辞苑)、

法便、

とも当てる(仝上)。

放免.bmp

(放免 精選版日本国語大辞典より)

獄の邊に住む放免(はうめん)どもあまた相議して、強盗にて□が家に入らむと思ひけるに

とあるのは、

元来が囚人だったのでやはり悪人がいたのであろう、

とあり(佐藤謙三校注『今昔物語集』)、摂関期の右大臣藤原実資(ふじわらのさねすけ)の日記『小右記(しょうゆうき)』長和(ちょうわ)三年(1014)4月21日条に、

狼藉(ろうぜき)を行い、看督長(かどのおさ)らとともに京中を横行し市女笠(いちめがさ)を切るなどの行為があった、

とあり、権中納言源師時(1077~1136)の日記『長秋記(ちょうしゅうき)』大治(だいじ)四年(1129)12月6日条にも、

追捕の間に放免が東大寺聖宝僧正五師子(ごしし)の如意(にょい)を盗取した、

とある(日本大百科全書)。

放免(はうめん)、

は、

無罪放免(唐書)、

というように、

放ち許す、

意の漢語で、わが国でも、

無論公私、皆従放免(「続日本紀」養老四(720)年)、
あやまりなきよしをゆうぜられ、放免にあづからば(平家物語)、

と、

ゆるすこと、
あるいは、
義務を免除し、あるいは処罰することをやめ、あるいは怒りを解くこと、

の意や、

其為人凶悪衆庶共知者。不須放免(「延喜式(927)」)、

と、

身体の拘束を解き、行動の自由を回復させること、

の意でも使うが、検非違使庁(けびいしちよう)が、

釈放された罪人、

を、雑用等々に用いたことから固有名詞としても使われた。

放免絵図.jpg

(放免 中央に、髭面で巨大な棒を持ち、藍染の上着と錦繍の袴で正装した放免が2人描かれている(法然上人絵伝) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%85%8Dより)

その職務内容は、

野盗・山賊等の追跡・逮捕、獄囚に対する拷訊、
流罪人の配所への護送、死体の処理、

等々で、厳密には、

走り使い、

を職務とする、

走下部(はしりしもべ)、

と、

罪人の罪をゆるして、その代償に犯罪人の探索や密告収集活動に従事させた、

放免、

に分けられる(世界大百科事典)。彼らの容姿は、

当時は一般的でなかった口髭、顎鬚を伸ばし、特殊な祭礼や一部の女子にしか許されていなかった「綾羅(りょうら)錦繍(きんしゅう)」、「摺衣(すりごろも 文様を彫り込んだ木版の上に布を置き、これに山藍の葉を摺り付けて作る技法の衣)」と呼ばれる模様の付いた衣服を身につけた、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%85%8D、この模様については、

贓物(盗んで得た財物の意)出来するところの物を染め摺り文を成した衣袴、

で、また、

七曲がりの自然木の鉾、

を持つ、

とある(仝上)。彼らは、賀茂の祭に従う時、

「綾羅(りょうら)」(あやぎぬとうすぎぬ)、「錦繍(きんしゅう)」(刺繍をした着物)を着、上に花など、種々の飾り物を着る習ひあり、これを風流(ふりゅう)と云ふ、後の邌物(ねりもの)の如し、これを放免のつけ物など云ふ、

とあり(大言海)、その華美な服装は、

新制で過差(過度に華美なこと)禁断の対象になったりしたが、院政期の説話集『江談抄』によれば、その、

放免の華美な服装は贓物(ぞうぶつ 盗品)を着用したものであった、

という(仝上・日本大百科全書)。「放免のつけ物」は、

放免の付物、

と当て、

建治(けんじ)・弘安(こうあん)の比(ころ)は、祭の日の放免(ほうべん)の付物(つけもの)に、異様(ことよう)なる紺の布五六反にて馬をつくりて、尾髪(おかみ)には灯火(とうしみ)をして、蜘蛛のい描きたる水干につけて、歌の心など言ひわたりしこと、常に見及び侍りしなども、興ありてしたる心地にてこそ侍りしか、

とある(枕草子)ように、

賀茂祭の日、着用する水干につけた、花鳥などの作りもの、

をいう(広辞苑)。

邌物(ねりもの)、

は、

練物、

とも当て、

祭礼の時などにねり行く踊屋台・仮装行列または山車だしの類、その他種々の飾り物の称、

であり(大言海・広辞苑)、「風流」で触れた。

「放」 漢字.gif


「放」(ホウ)は、

会意兼形声。方は、両側に柄の伸びたすきを描いた象形文字。放は「攴(動詞の記号)+音符方」で、両側に伸ばすこと。緊張やそくばくを解いて、上下左右に自由に伸ばすこと、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(方+攵(攴))。「柄のある農具:すき」の象形(「左右に広がる」の意味)と竹や木の枝を手にする象形(「強制する、わける」の意味)から左右に「広げる」、「はなす」を意味する「放」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji539.html

「免」 漢字.gif

(「免」 https://kakijun.jp/page/0817200.htmlより)

「免」(漢音ベン、呉音メン)は、

会意文字。免の原字ば、女性がももを開いてしゃがみ、狭い産道からやっと胎児が抜け出るさまを示す。上は人の形、中は両もも、下の儿印は、体内から出る羊水、分娩の娩の原字で、やっと抜け出る、逃れ出る意を含む、

とある(漢字源)。異説として、

冠を被った姿を象った様子(『冕』の原字)、

とするものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%85%8Dがある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:33| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする