2023年05月30日

さし縄


旅籠(はたご)に多く人のさし縄(なは)ども取り集めて結び継ぎて、それそれと下しつ。縄の尻もなく下したる程に(今昔物語)、

の、

さし縄、

は、

差縄、
指縄、

と当て、

さしづな(差綱)、
小口縄(こぐちなわ)、

ともいい、

馬をつなぐ縄、

とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。

乗馬の口につけて曳く縄、

とあり(大言海)、古くは、

調布を縒り合わせて用ゐたり、

後世になるは、

麻布二筋を綯ひて作る。太さ、大指のほどなり、

とある(大言海)。

馬鞚、

ともいうとある(仝上)。飾抄(かざりしょう 鎌倉時代)には、

差綱(サシヅナ)、祭使、種々緂(だん)村濃(むらご)、或、打交、……公卿、師差縄(もろさしなわ)、四位以下、片差縄、

とある。師差縄(もろさしなわ)は、

「祇園御霊会也……馬〈黒糟毛、予馬也〉、移〈鋂羈、如公卿也〉、以諸差綱張口(「山槐記」治承三年(1179)六月一四日)、

にある、

諸差綱、

とあるのと同じで、

もろ、

は、

諸、

とあて、「もろ手」の「もろ」で、

ふたつ、
両方の、

の意味である(広辞苑)。

差綱、、
差縄、

は、

馬の頭から轡(くつわ)にかけてつけるもので、手綱に添えて用いる。索馬(ひきうま)には(くちとり)が左右からつかんで引く。軍陣には手綱の補助として四緒手(しおで 鞍の前輪(まえわ)と後輪(しずわ)の左右の四ヶ所につけた、金物の輪を入れたひも)にかける(精選版日本国語大辞典)。付け方に、

諸(もろ)差縄、

と、

片(かた)差縄とがあり、

麻縄、または紺・白・浅葱(あさぎ)の撚紐を用いる、

とある(仝上)。

さし縄 (2).jpg

(さし縄 (平安時代の馬装) 図説日本甲冑武具事典より)

「さし縄」の「さし」は、「さす」で触れたように、「さす」と当てる字は、

止す、
刺す、
挿す、
指す、
注す、
点す、
鎖す、
差す、
捺す、

等々とある

「さす」は、連用形「さし」で、

差し招く、
差し出す、
差し迫る、

と、動詞に冠して、語勢を強めたり語調を整えたりするのに使われるが、その「さし」は、使い分けている「さす」の意味の翳をまとっているように見える。

「さす」は、について、『岩波古語辞典』は、

最も古くは、自然現象において活動力・生命力が直線的に発現し作用する意。ついで空間的・時間的な目標の一点の方向へ、直線的に運動・力・意向がはたらき、目標の内部に直入する意、

とある(岩波古語辞典)。で、

射す・差す、

は、、

自然現象において活動力が一方に向かってはたらく、

として、光が射す、枝が伸びる、雲が立ち上る、色を帯びる等々といった意味を挙げる。また、

指す・差す、

は、

一定の方向に向かって、直線的に運動をする、

として、腕などを伸ばす、まっすぐに向かう、一点を示す、杯を出す、指定する、指摘する等々といった意味を挙げる。ここでの、

さし縄、

の意は、

曳く、

という意味からも、この意の、

さす、

かと思われる。

なお「さし縄」に、「緡縄」とあてる「錢緡」については、「一緡」で触れた。

「縄」 漢字.gif

(「縄」 https://kakijun.jp/page/1580200.htmlより)


「繩」 漢字.gif


「縄」(漢音ショウ、呉音ジョウ)は、

会意。「糸+黽(とかげ)」で、トカゲのように長いなわ、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(糸+蠅の省略形)。「より糸」の象形と「腹のふくらんだ、はえ」の象形で、なわのよりをかけた部分が、ふくらんだ腹のような所から、「なわ」を意味する「縄」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1799.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
笠間良彦『図録日本の甲冑武具事典』(柏書房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:36| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする