2023年05月31日

綾藺笠(あやゐがさ)


顔少し面長にて、色白くて、形つきづきしく、綾藺笠(あやゐがさ)をも着せながらあるに(今昔物語)、

の、

綾藺笠、

とは、

藺草(いぐさ)を綾の組織にならって編み、裏に絹をはった笠。中央に突出部がある。武士の狩装束で、遠行または流鏑馬やぶさめ用、

とあり(広辞苑・日本国語大辞典)、

あやがさ、
藺笠、

ともいう(仝上・大言海)。「狩衣」については「水干」で触れた。

綾藺笠.jpg

(綾藺笠 広辞苑より)


綾藺笠2.bmp

(綾藺笠 大辞林より)

中央の突出部は、

巾子形(こじがた)、

といい、髻(もとどり)を入れる。その根元のところから、藍革(あいかわ)と赤革の風帯を数条垂らして飾りとする(日本国語大辞典・大言海)。「巾子」については触れた。

綾藺笠、

の名は、

笠の裏に綾(経糸(たていと)に緯糸(よこいと)を斜めにかけて模様を折り出した絹)を貼る、

故の名で(大言海)、

この時代武士は、綾藺笠を、女子は大型の浅い菅の、

市女(いちめ)笠、

を広く着用した。また女子では、日よけ雨よけを兼ねた垂衣(たれぎぬ)や、外出用で顔を隠す、

被衣(かづき)、

なども行われた(世界大百科事典)。「市女笠(いちめがさ)」は「つぼ折」で触れた。

綾藺笠.bmp

(綾藺笠 精選版日本国語大辞典より)


流鏑馬の射手の狩装束.jpg

(流鏑馬の射手の狩装束 (『流鏑馬絵巻』 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%81%E9%8F%91%E9%A6%ACより)

流鏑馬」については触れた。

「綾」 漢字.gif

(「綾」 https://kakijun.jp/page/1490200.htmlより)


「綾」(漢音呉音リョウ、唐音リン)は、

会意兼形声。夌(リョウ)は「陸(山地)の略体+夂(人間の足)」の会意文字で、足に筋肉の筋をたてて、力んで山を登ること。筋目を閉てる意を含む。綾はそれを音符とし、糸を加えた字で、筋目の立った織り方をした絹、

とある(漢字源)。別に、

形声文字です(糸+夌)。「より糸」の象形と「片足を上げた人の象形と下向きの足の象形」(「高い地を越える」の意味だが、ここでは、「凌(りょう)」に通じ(同じ読みを持つ「凌」と同じ意味を持つようになって)、「盛り上がった氷」の意味)から、織物に盛り上がった「氷のような模様が織り込まれた物(あや)」を意味する「綾」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1125.html

「藺」 漢字.gif

(「藺」 https://kakijun.jp/page/E561200.htmlより)


「藺」 簡牘(かんどく)文字.png

(「藺」 簡牘(かんどく)文字(「簡」は竹の札、「牘」は木の札に書いた)・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%97%BAより)

「藺」(リン)は、

形声。下部の字が恩を表す、

戸しか載らない(漢字源)。藺草(いぐさ)の意であるが、藺蓆(リンセキ)は、むしろの意である。

「笠」 漢字.gif



「笠」 説文解字・漢.png

(「笠」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%AC%A0より)

「笠」(リュウ)は、

会意兼形声。「竹+音符立(高さを揃えて立てる)」。平衡を保って頭上にたてかけるかさ、

とある(漢字源)が、別に、

会意兼形声文字です(竹+立)。「竹」の象形(「竹」の意味)と「一線の上に立つ人」の象形(「立つ」の意味)から、柄がなくて安定していて、置けばそのまま立つ「かさ(頭にかぶり、雨や日光をさける物)」を意味する「笠」という漢字が成り立ちました、

とあるhttps://okjiten.jp/kanji2220.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:46| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする