つきづきし

年三十餘りばかりの男の、鬚黒く鬢つきよきが、顔少し面長にて、色白くて、形つきづきしく(今昔物語)、 とある、 つきづきし、 は、 付き付きし、 と当て、 いかにもぴったりはまっている感じである、 という意で(岩波古語辞典) 似つかわしい、 ふさわしい、 調和している、 好ましい、 取り合わせがよい、 などといった意味で使われ(広辞…

続きを読む

をこ絵

それは皆をこ絵の気色なし。此の阿闍梨(義清)の書きたるは、筆はかなく立てたるやうなれども、ただ一筆に書きたるに、心地えもいはず見ゆるは、をかしき事限りなし(今昔物語)、 の、 をこ絵、 は、 漫画、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 痴絵、 烏滸絵、 等々とも当て、 滑稽な絵、 戯画、 おどけえ、 ざれ絵、 などとあり(広辞…

続きを読む

帞袼(まかう)

装束をもかたゆがめ、下腰にせさせて、袴は踏み含(くく)ませて、帞袼(まかう)も猿楽のやうなるを(今昔物語)、 の、 帞袼(まかう)、 とあるは、 まつかう、頭のはちまき、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 (「まっこう」(「冠帽図会」) デジタル大辞泉より) まつかう(まっこう)、 は、普通、 末額、 抹額、 などと当て…

続きを読む

移し鞍

左の競馬(くらべうま)の装束のいみじきを着て、えならぬ馬にいみじは平文(ひやうもん)の移しを置きて、それに乗せて(今昔物語)、 の、 移し、 は、 移し鞍、 平文、 は、 塗り方の名、金銀貝等で模様を作り、漆の地に平らに塗りこめる、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 「鞍」で触れたように、「鞍」は、 狭義には鞍橋(くらぼね)、…

続きを読む

内舎人(うどねり)

今は昔、内舎人(うどねり)より大蔵の丞(じょう)になりて、後には冠(かうぶり)給はりて大蔵の大夫とて(今昔物語)、 の、 内舎人、 は、 律令制で、中務(なかつかさ)省に属する文官、 で、 帯刀し、宮中の宿直、天皇身辺の警護・雑事、行幸時に供奉(ぐぶ)して前後左右を警護する職、 にあたる(広辞苑・大辞林)、 天皇近侍の官、 であり、 …

続きを読む

膳夫(かしはで)

其の男を呼びて問はむと尋ぬる程に、膳夫(かしはで)のあるが、これを聞きて云ふやう(今昔物語)、 の、 膳夫、 は、 膳、 とも当て、 宮中で、天皇の食膳や、饗応の食事のことをつかさどる人、 つまり、 料理人、 の意で(岩波古語辞典・広辞苑)、 膳部(かしはで・かしはでべ)、 と書くと、大和政権の品部(しなべ)で、律令制では宮内…

続きを読む

大夫

今は昔、大蔵の丞より冠(かうぶり)給はりて、藤原清廉云ふものありき。大蔵の大夫(たいふ)となむ云ひし(今昔物語)、 の、 大蔵の大夫、 は、 大蔵官の三等官(六位相当)で、その労を以て五位を給わった。大夫は五位の称、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 冠(かうぶり)給はる、 は、 冠(かうぶり)賜る、 とも当て、 位階を授けら…

続きを読む

地火爐(ぢびろ)

九月の下旬ばかりの程のことなれば、地火爐(ぢびろ)に火たきなどして、物食はむとするに(今昔物語)、 の、 地火爐、 は、 ちくわろ、 ぢほろ、 いろり、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)が、 地火爐(地火炉)、 の訓みは、 じ(ぢ)ひろ、 じ(ぢ)ほろ、 ちひろ、 ちか(くわ)ろ(地下炉)、 などとする諸説あり、明証を得ない…

続きを読む

属(さかん)

然るに、其の職(しき)の属(さくわん)にて、紀茂経と云ふ者ありける(今昔物語)、 の、 属(さかん)、 は、律令制において、各省の下で事務を行う、 四等官(しとうかん)、 つまり、 長官(かみ)、 次官(すけ)、 判官(じょう)、 主典(さかん)、 の第四位である、 主典のうち、 職・寮・坊(春宮坊)、 の官職名であり、具体的…

続きを読む

半挿

白き犬のぎやうとなきて立てり。早う犬の半挿(はんざふ)を頭にさし入れたりけるを、半挿を蹴抜きたるままに見れば(今昔物語)、 の、 半挿、 は、 湯水の容器、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 半挿、 は、 はんさふ(はんそう)、 とも、 はんざふ(はんぞう)、 とも訓ませ、 湯や水を注ぐ容器。柄の中の穴を湯・水が通…

続きを読む

ゆばり

然る間、犬の常に出で来て築垣(つひがき)を越えつつゆばりをしければ(今昔物語)、 の、 ゆばり、 は、 しと、小便、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。「しと」も、 蚤虱馬の尿(しと)する枕もと(芭蕉)、 と、 尿、 と当て、 小便、 の意であるが、これは、 垂れ出す意(大言海)、 シタル(水垂)、 シツの転、下…

続きを読む

受難としての自由

J・Pサルトル(松浪 信三郎訳)『存在と無』を読む。 若い頃に読んだとき、サクサクと読めた、という印象がある。その時のラインの跡をみると、一定程度は理解していたのかとは思うのだが、老年になって読み返してみると、本当にサクサクと読めたのか、と疑問にはなる。 しかし、改めて、良くも悪くも、本書は、 饒舌、 だと思う。それを、 懇切、 ととるか、 …

続きを読む

傀儡子

さは此の人はもと傀儡子(くぐつ)にてありけりとは知りける。その後は館の人も國の人も、傀儡子目代(くぐつもくだい)となむ付けて笑ひける(今昔物語)、 の、 傀儡子、 は、 傀儡師、 とも当て、 くぐつ、 くぐつし、 かいらいし、 くぐつまわし、 などとも訓ませ、 傀儡、 とも当て、 大江匡房『傀儡子記』(平安末期)によると、浮浪…

続きを読む

札付

機嫌のよい仲を引さいたりする札付(ふだつ)きのおしゃべりあまにて(浮世風呂)、 の、 札付き、 は、 世に一定の悪評あること、 また、 世に知られたるわるもの、 の意である(大言海)。 札付、 は、文字通り、 ものに、札のついていること、 の意味である(広辞苑)。「札」は、 神社の御札や値札などと使うように文字や絵が書いてある紙…

続きを読む

すずろはし

これを聞くに、我が心地にも、いみじくすずろはしくおもしろくおぼえけるに(今昔物語)、 の、 すずろはし、 は、 うきうきとして、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 漫はし、 とも(岩波古語辞典・広辞苑)、 漫然、 とも(大言海)当て、動詞、 すずろう(漫)の形容詞化、 で(日本国語大辞典)、 心、すずろなる、 …

続きを読む

攀縁

かく云はれて少し攀縁おこりければ、只今、天には大将を犯す星なむ現じたると答へければ(今昔物語)、 の、 攀縁、 は、 こだわり、いかり、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 攀縁、 は、古くは、色葉字類抄(1177~81)の「へ」の部に、 攀縁 不吉詞、 室町時代の文明年間以降に成立した『文明本節用集』に、 攀縁 ヘンヱン 不吉…

続きを読む

あがふ

中将、さらば、明後日ばかり、此の青経(あをつね)呼びたる事はあがはむ(今昔物語)、 青経の君呼びたる過(とが)あがふべしとて、殿上人皆参らぬ人なく皆参りたり(仝上)、 と、 あがふ、 とあるのは、 贖ふ、 購ふ、 と当て、 あがなうの古形、 で、 平安時代以後、漢文訓読語として用いた、 とあり(日本国語大辞典)、 財物を代償とし…

続きを読む

殿上人

御前(円融院)近く上達部(かむだちめ)の座あり。其の次に殿上人(てんじょうびと)の座あり(今昔物語)、 の、 上達部、 は、 かんだちべ、 ともいい、 摂政、関白、太政大臣、左大臣、右大臣、内大臣、大納言、中納言、参議、及び三位以上の人の総称、 で、 参議は四位であるがこれに準ぜられた、 とある(精選版日本国語大辞典)。 公卿、 …

続きを読む

鐙頭(あぶみがしら)

頭の鐙頭(あぶみがしら)なりければ、纓(えい)は背に付かずして離れてなむふられける(今昔物語)、 の、 鐙頭(あぶみがしら)、 は、 後頭部の突き出たでこあたま、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。なお「纓(えい)」は、「帞袼(まかう)」で触れたが、 冠の後ろに垂れた細長い布、 で(佐藤謙三校注『今昔物語集』)、 古くは、髻(もとどり)を入…

続きを読む

六根五内

一乗の峯には住み給へども、六根五内の□位を習ひ給はざれば、舌の所に耳を用ゐる間、身の病となり給ふなりけり(今昔物語)、 とある、 六根五内、 の、 六根、 は、 目、耳、鼻、舌、身、意、 五内、 は、 肝、心、脾、肺、腎、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 以是功徳、荘厳六根、皆令清浄(法華経)、 六根清徹、無諸悩患(…

続きを読む