年三十餘りばかりの男の、鬚黒く鬢つきよきが、顔少し面長にて、色白くて、形つきづきしく(今昔物語)、
とある、
つきづきし、
は、
付き付きし、
と当て、
いかにもぴったりはまっている感じである、
という意で(岩波古語辞典)
似つかわしい、
ふさわしい、
調和している、
好ましい、
取り合わせがよい、
などといった意味で使われ(広辞苑・日本国語大辞典・岩波古語辞典)、
いと寒きに、火など急ぎおこして炭もて渡るも、いとつきづきし(枕草子)、
少し老いて物の例知りおもなきさまなるもいとつきづきしくめやすし(仝上)、
などと使われており、
何と調和がとれているのかは、省略されていることが多い、
とある(学研全訳古語辞典)。さらに、
なべての世には年経にけるさまをさへつきづきしく言ひなすも(狭衣物語)、
と、
いかにももっともらしい、
という意味でも使われる(大辞林・岩波古語辞典)。類聚名義抄(11~12世紀)に、
擧止、ツキツキシ、
とあり、「擧止」は、
擧止進退、
というように、
立ち居振る舞い、
挙動、
挙措(きょそ)、
の意なので、上記の、
形つきづきしく、
は、
挙措、
のことを言っているようである。類義語は、
につかはし、
だが(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%A4%E3%81%8D%E3%81%A5%E3%81%8D%E3%81%97)、反対は、
つきなし、
であり(仝上・大言海)、
付き無し、
と当て、
時々さぶらふに、かかる御簾(みす)の前、はた、つきなき心地(ここち)し侍(はべ)るを(源氏物語)、
遭ふことの今ははつか(僅か・二十日)になりぬれば夜深からではつきな(月無・付無)かりけり(古今集)、
などと、
取り付くすべがない、
手がかりがない、
すべがない、
の意味で使われるが、
かかるものの散らむも今はつきなき程になりにけり(源氏物語)、
と、
(時・所・年齢などが)似合わしくない、ふさわしくない、
意や、
親君と申すとも、かくつきなきことを仰せ給(たま)ふこと(竹取物語)、
と、
不都合である、無理である、
意で使われる(岩波古語辞典・学研国語大辞典)。
「つきづきし」の、
つく、
は、「つく」で触れたように、
突く、
衝く、
撞く、
搗く、
吐く、
付(附)く、
点く、
憑く、
着く、
就く、
即く、
築く、
等々さまざまに当てる。辞書によって使い分け方は違うが、
付く・附く・着く・就く・即く・憑く、
と
吐く、
と
尽く・竭く、
と
突く・衝く・撞く・築く・搗く・舂く、
と
漬く、
を分けて載せる(広辞苑)。細かな異同はあるが、「尽く」は、
着きの義(言元梯)、
ツはツク(突)の義(国語溯原)、
とあり(日本語源大辞典)、「付く」に関わる。「吐く」は、
突くと同源、
とある(広辞苑)。従って、おおまかに、
「付く・附く・着く・就く・即く」系、
と
「突く・衝く・撞く(・搗く・舂く・築く)」系、
に分けてみることができる。しかも、語源を調べると、「突く・衝く・撞く」系の、「突く」も、
ツク(付・着)と同源、
とあり(日本語源広辞典)、
付く、
に行き着く。そして、
強く、力を加えると、突くとなります。ツクの強さの質的な違いは中国語源によって区別しています、
としている(仝上)。その区別は、
「突」は、 にわかに突き当たる義、衝突・猪突・唐突、
「衝」は、つきあたる、折衝と用いる。また通道なり、
「搗」は、うすつくなり、
「撞」は、突也、撃也、手にて突き当てるなり、
「築」は、きつくと訓む。きねにてつきかたむるなり、
と(字源)ある。となると、すべては、「付く」に行き着く。「付く」の語源は、
「ツク(付着する)」です。離れない状態となる意です。役目や任務を負ういにもなります、
とある(日本語源広辞典)ので、「付く」は「就く」でもある。「付く」は、
粘着するときの音からか(日本語源)、
とある(日本語源大辞典)ので、擬音語ないし、擬態語の可能性がある。そこから、たとえば、
二つの物が離れない状態になる(ぴったり一緒になる、しるしが残る、書き入れる、そまる、沿う、注意を引く)、
他のもののあとに従いつづく(心を寄せる、随従する、かしずく、従い学ぶ)、
あるものが他のところまで及びいたる(到着する、通じる)、
その身にまつわる(身に具わる、我がものとなる、ぴったりする)、
感覚や力などが働きだす(その気になる、力や才能が加わる、燃え始める、効果を生じる、根を下す、のりうつる)、
定まる、決まる(定められ負う、値が定まる、おさまる)、
ある位置に身を置く(即位する、座を占める、任務を負う、こもる)、
(他の語につけて用いる。おおくヅクとなる)その様子になる、なりかかる(病みつく。病いづく)、
と(広辞苑)、その使い分けを整理している。
どうやら、二つのもの(物・者)の関係を言っていた「つく」が、
ピタリとくっついて離れない状態、
から、その両者の、
それにぶつかる状態、
にまで広がる。「つくづくし」の「つく」は、
ピタリとくっついて離れない状態、
をメタファにして、
似つかわしい、
ふさわしい、
意で使っていると思われる。
ツキ(似つく)+ツキ(似つく)+シ、
とある(日本語源広辞典)ので、
似つかわしい、
の語意を強めている、と見ることが出来る。
(「付」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BB%98より)
「付」(フ)は、
会意。「人+寸(手のかたち)」で、手をぴたりと他人の身体につけることを示す、
とある(漢字源)。「附」は、もと、
土をくっつけて固めた土器や小さな丘を意味するが、のち、付と通用するようになる、
ともある(仝上)。別に、
会意。「人」+「寸」(手)、持っている物を人に与える様子。「与える」を意味する漢語{付 /*p(r)os/}を表す字、
とも、
また一説に、背後から人を前に押して倒すさまを象った字。「押す」を意味する漢語{拊 /*ph(r)oʔ/}を表す字。のち仮借して{付}に用いる、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BB%98)。また、
会意。人と、又(ゆう 手に持つ。寸はその変形)とから成り、手で物を持って人にあたえる意を表す、
とも(角川新字源)、
会意文字です(人+寸)。「横から見た人」の象形と「右手の手首に親指をあて脈をはかる」象形(「手」の意味)から人に手で物を「つける」を意味する「付」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji571.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95