陵ず

ただ貧しげなる牛飼童(うしかひわらは)の奴獨(ひと)りに身を任せて、かく陵ぜられては何の益(やく)のあるべきぞ(今昔物語)、 の、 陵ぜられて、 は、 悩まされて、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 りょうず、 は、 凌ず、 陵ず、 と当て(広辞苑)、 掕ず、 とも当てる(学研全訳古語辞典)。 この君、人しもこそ…

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心にくし

履物どもは皆車に取り入れ、三人、袖も出さずして乗りぬれば、心にくき女車に成りぬ(今昔物語)、 の、 心にくき女車、 は、 ゆかしい女車、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 心にくし、 は、 心憎し、 と当て、 ニクシは親しみ・連帯感・一体感などの気持の流れが阻害される場合の不愉快な気持ちをいう語。ココロニクシは、対象の動きや状…

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返さの日

然る閒、賀茂の祭の返(かへ)さの日、此の三人の兵(つはもの)共云ひあわせて(今昔物語)、 の、 返さの日、 は、 祭の次の日、祭を終わって賀茂の斎院が紫野(賀茂の斎宮の御所があった)へ帰っていく、其を公卿が行列で送るのである、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 かへさ、 は、 歸方、 と当て、 「かへるさ」の略、 とあり…

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矢目

己いひつるやうに、今日より我が許に來らば、此の御社の御矢目負ひなむものぞ(今昔物語)、 の、 矢目負ひなむもの、 は、 神の罰として矢を受けるだろう、 の意で、 矢目、 は、 矢のささった所、 の意(佐藤謙三校注『今昔物語集』)とある。 鎧(よろひ)に立ったるやめを数へたりければ(平家物語)、 と、 矢の当たった所、 …

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さうぞきたる

参る人、返る人、様々行きちがひけるに、えもいはずさうぞくきたる女あひたり(今昔物語)、 さうぞきたる、 は、 装束きたる、 と当て、 名詞装束(さうぞく)」の語末を活用させて動詞化した(彩色(サイシキ)、さいしく。乞食(こつじき)、こつじく)、 さうぞ(装束)く、 の(学研全訳古語辞典・大言海)、 自動詞カ行四段活用(か/き/く/く/け/け)、…

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色々し

重方は本より、色々しき心のありける者なれば、妻も常に云ひねたみけるを(今昔物語)、 の、 色々し、 は、 一本に、すきすぎしき、 とあり、 色めかしき、優優しき、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。「すきずきし」は、 かう、すきずきしきやうなる、後(のち)の聞こえやあらむ(源氏物語)、 と、 いかにも物好きだ、 の意や、 …

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なまめかし

濃き打ちたる上着(うはぎ)に、紅梅、もえぎなど重ね着て、なまめかしく歩びたり(今昔物語)、 の、 なまめかし、 は、 艶めかし、 と当て、 ナマメクの形容詞形、色・様子・形・人柄などのよさ、美しさが、現れ方として不十分のように見えながら、しっとりとよく感じられるさまをいうのが原義、 とあり(岩波古語辞典)、 さりげなくふるまうさまから、奥ゆかし…

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針目

物の色ども、打目(うちめ)、針目(はりめ)、皆いと目やすく調へ立てて奉りけるに(今昔物語)、 の、 打目、 は、 衣を打ってつやを出す、その打ち方、 とあり、 針目、 は、 衣のぬい方、 とある(佐藤謙三校注『今昔物語集』)。 打目、 は、 擣目、 とも当て、 つやを出すために絹布を砧(きぬた)で打った部分の…

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博引傍証

柳田國男『妹の力』を読む。 本書は、 妹の力、 玉依彦の問題、 玉依姫考、 雷神信仰の変遷、 日を招く話、 松王健児の物語、 人柱と松浦佐用媛、 老女化石譚、 念仏水由来、 うつぼ舟の話、 小野於通、 稗田阿礼、 の、12編が収められていて、 巫女、 ないし、 巫術、 に関わる論述である。特に、 「神々の祭に奉仕した者が、…

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調楽

風俗(ふぞく)は調楽(てうがく)の内参(うちまいり)賀茂詣などにこれを用ゐらる(梁塵秘抄口伝集)、 とある、 調楽、 は、 でうがく、 とも訓ませ(学研全訳古語辞典)、 我君促震臨於此処、調楽懸於厥中(「増鏡(1368~76頃)」)、 と、文字通り、 舞楽・音楽を奏する、 意だが、ここでは、 大将の君、丑寅の町にて、まづ、内内に、て…

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うるせし

広言は声色悪しからず、歌ひ過ちせず。節はうるせく似するところあり。心敏く聞き取ることもありて、いかさまにも上手にてこそ(梁塵秘抄口伝集)、 の、 うるせし、 は、 たくみだ、 上手だ、 の意とある(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)。 平安時代から鎌倉時代にかけて用いられた日常語の一つ。高知方言などにのこる、 もの(広辞苑)で、 機敏、 …

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熒惑星(けいこくせい)

これは、熒惑星(けいこくせい)の、この歌を賞でて化しておはしけるとなん、聖徳太子の伝に見えたり。今様と申す事の起こり(梁塵秘抄口伝集)、 の、 熒惑星、 は、 火星の別名、 とある(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)。 熒惑星、 は、漢語である。「熒惑」は、 兵乱の兆しを示す星の名、 つまり、 火星、 である。 熒惑出則…

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江戸稼業案内

岡村直樹『時代小説がもっとわかる! 江戸「仕事人」案内』を読む。 本書では、 46種の稼業(仕事)を、 遊芸・娯楽(花魁・女衒・貸本屋・歌舞伎役者・相撲取り・大道芸人・船宿・幇間・遊芸師匠・落語家・) 職人・技人(絵馬師・鏡磨き師・経師屋・大工・彫師・刀工・廻り髪結い) 生活・諸事(岡っ引・水茶屋・駕籠屋・瓦版屋・木戸番・切り絵図屋・女掏摸・公事屋・差配人・付き…

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髄脳

詠む歌には、髄脳(ずいなう)・打聞(うちぎき)などいひて多くありげなり。今様には、いまださること無ければ、俊頼(としより)が髄脳を学びて、これを撰ぶところなり(梁塵秘抄口伝集)、 とある、 髄脳、 は、 和歌の髄脳、いと所せく(たくさんあり)、病(歌病)、さるべき心多かりしかば(源氏物語)、 とあるように、 奥義や秘説・心得を書いた書物、 とあり(馬…

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瀉瓶(しゃびょう)

一筋を徹さむために、みな、この様に違ひたるをば習ひ直して、残ることなく瀉瓶(しやびやう)し終はりにき(梁塵秘抄口伝集) の、 瀉瓶(しゃびょう)、 は(「びょう」は「瓶」の呉音)、 写瓶、 とも当て(広辞苑)、 仏教語で、瓶の水を他の瓶に一滴残らずそそぎ移すように、師から弟子に仏法の奥義をことごとく伝授すること、 とある(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝…

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九品往生

やがて聞きしより始めて、朝(あした)には懺法(せんぼふ)を誦みて六根を懺悔し、夕(ゆふべ)には阿弥陀経を誦みて西方の九品往生(くほんわうじやう)を祈ること、五十日勤め祈りき(梁塵秘抄口伝集)、 とある、 懺法、 は、 せんぽう、 とも訓み、 経を読誦して、罪過を懺悔(さんげ)する儀式作法。罪障を懺悔するために、特別に行なう法要、 をいい、古くは、 …

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下枝(しづえ)

沖つ風吹きにけらしな住吉の、松の下枝(しづえ)をあらふ白波(梁塵秘抄)、 の、 下枝、 は、 下の方の枝、 下の枝、 したえだ、 の意で、 しずえだ、 とも訓む(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。対語は、 花橘は本都延(ホツエ)は鳥ゐ枯らし志豆延(シヅエ)は人とり枯らし三つ栗の中つえのほつもり赤らをとめを(古事記)、 と、 上枝(…

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懈(たゆ)し

寐たる人打驚かす鼓かな、如何に打つ手の懈(たゆ)かるらん、可憐(いとをし)や(梁塵秘抄)、 の、 懈(たゆ)かる、 は、 (く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ と活用する、 く活用の形容詞、 たゆし、 で、 弛し、 懈し、 とあてる(岩波古語辞典・学研国語大辞典)。 垂るに通ず、 とあり(大言海)、 …

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水馴木(みなれぎ)

水馴木(みなれぎ)の水馴(みなれ)磯馴(そなれ)て別れなば、戀しからんずらむものをや睦(むつ)れ馴(なら)ひて(梁塵秘抄)、 の、 水馴木、 は、 水に浸ってなれた木、 水に浸って十分に水分を含んだ木、 をいい(精選版日本国語大辞典)、 熊野河くだす早瀬のみなれざほ(お)さすがみなれぬ波のかよひ路(ぢ)(新古今和歌集)、 と、 水馴棹(みなれ…

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柞(ははそ)

冬來(く)とも柞(ははそ)の紅葉(もみじ)な散りそよ、散りそよ勿(な)散りそ色變(か)へで見ん(梁塵秘抄)、 の、 柞、 は、 ははそのき(柞木)、 ともいい、 ミズナラなどのナラ類およびクヌギの総称(精選版日本国語大辞典)、 ブラ科の落葉喬木、ナラ(岩波古語辞典)、 古くは近似種のクヌギ・ミズナラなどを含めて呼んだ。誤ってカシワをいうこともある(デジ…

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