風俗(ふぞく)は調楽(てうがく)の内参(うちまいり)賀茂詣などにこれを用ゐらる(梁塵秘抄口伝集)、
とある、
調楽、
は、
でうがく、
とも訓ませ(学研全訳古語辞典)、
我君促震臨於此処、調楽懸於厥中(「増鏡(1368~76頃)」)、
と、文字通り、
舞楽・音楽を奏する、
意だが、ここでは、
大将の君、丑寅の町にて、まづ、内内に、てうかくのやうに、明暮、遊びならし給ひければ(源氏物語)、
と、
楽舞の公式演奏に先立ってあらかじめ練習すること、
で、特に、平安時代以後、
今日石清水臨時祭調楽始、件祭平安可被遂之由(「小右記」天元五年(982)二月二五日)、
と、
賀茂社および石清水八幡宮などの臨時祭で行なう楽舞の予行練習、
をいい、祭儀当日に近い規模の、
試楽、
に対して、それ以前に数回にわたってくりかえされる、
予行練習、
を指してよぶとある(精選版日本国語大辞典)。
調楽、
は、公事・宴席で行う、
舞楽の下稽古、
の意(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)だが、特に、
まいて、臨時の祭の調楽などはいみじうをかし(枕草子)、
とあるように、
三月中午の日の石清水、十一月下酉の日の賀茂神社の臨時祭の試楽を指す。祭日の二日前に清涼殿の前庭で天皇臨席のもとに行われ、宮廷行事として重きが置かれた、
とある(仝上)。
内参り、
も、当然、
宮中に 参ること、
だが、ここではも
石清水・賀茂両神社の臨時祭の試楽において、関白をはじめ公卿・楽人・舞人などが参内する行事、
をいう(仝上)。
賀茂詣、
は、
四月の中の酉の日または下の酉の日(現在五月十五日)に行われる賀茂御祖神社(下賀茂神社)と賀茂別雷神社(上賀茂神社)の例祭である賀茂祭の前日に、摂政や関白が賀茂神社に参拝する行事、
をいう(仝上)。なお、
風俗、
は、
風俗歌(ふぞくうた)、
の意で、
平安時代から行われた歌謡の一つ、
で(広辞苑)、
地方の国々に伝承されていた歌が、宮廷や貴族社会に取り入れられ、宴遊などに歌われた、
ものである(デジタル大辞泉)。
国風(くにぶり)、
国風歌、
ともいう(仝上)。
元正天皇の養老元年(717)四月二十五日、天皇に大隅・薩摩の両国の風俗歌舞が奏された( 続日本紀)、
のを初出として、その後、東国歌謡を主流として宮廷の儀式に奏され雅楽化されて宮廷宴遊歌謡となった、
とある(馬場・前掲書)。
(「周」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%91%A8より)
「調」(漢音チョウ、呉音ジョウ)は、
会意兼形声。周の原字は、田の全体に点々と作物の植えられたさまを示す会意文字。調は「言元+音符周」で、全体にまんべんなく行き渡らせること、
とある(漢字源)。別に、
形声。言と、音符周(シウ→テウ)とから成る。「ととのう」意を表す。転じて、物をとりあげる意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(言+周)。「取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「(つつしんで)言う」の意味)と「方形の箱に彫刻が一面に施された象形」(「ゆきわたる」の意味)から、言葉に神経が「ゆきとどく」、「ととのう」を意味する「調」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji447.html)。ちなみに、「周」は、
会意文字。「田の中にいっぱいに米のある形+口印」で、欠け目なく全部に行き渡る意を含む。「稠密(チュウミツ)」稠の原字。また口印はくちではなく、四角い領域を示し、まんべんなく行き渡ることから周囲の意となる、
とある(漢字源)。別に、
上部は周族(姫氏)の象徴である盾の象形であり、下部は神器を意味する会意で、周朝の威光から「あまねく」の意を生じ、「めぐる」の意味は仮借(白川静)、
とするもの(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%91%A8)、
会意。口と、用(もちいる)とから成り、ことばを用いてうまく話すことから、こまやかの意を表す、
とするもの(角川新字源)、
指事文字です。「方形の箱などの器物に彫刻が一面に施された」象形から、「あまねく・ゆきわたる」を意味する「周」という漢字が成り立ちました、
とするもの(https://okjiten.jp/kanji676.html)もある。
なお、「樂(楽)」(ガク、ラク)については、「田楽」で触れた。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』(講談社学術文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95