2023年07月12日

熒惑星(けいこくせい)


これは、熒惑星(けいこくせい)の、この歌を賞でて化しておはしけるとなん、聖徳太子の伝に見えたり。今様と申す事の起こり(梁塵秘抄口伝集)、

の、

熒惑星、

は、

火星の別名、

とある(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)。

熒惑星、

は、漢語である。「熒惑」は、

兵乱の兆しを示す星の名、

つまり、

火星、

である。

熒惑出則有兵、入則兵散(史記・天官書)、

とある。別に、

火の神の名、

ともされ、

赤帝の神にて南方に位す、

とある(字源)。また、

目将熒之(荘子・人閒世篇)、

の註に、

使人眼眩也、

とあり、「惑」は、

惑、戸國切(正韻)、
迷也(廣韻)、
疑也(増韻)、

等々とあり、「或」は、

亦通作或、孟子、無或乎王之不智(字典)、

とある。「惑」は、

妄張詐誘、以熒惑其将(六韜)、
熒惑トハ、火星ノ名、其光熒(かがや)クを以て、人ヲ疑惑セシムベシ(直解)、

と、

人心を炫惑する、

意でも使う(仝上)。

火星.jpg


火星、

の名は、

五行説に基づく呼び名であり、学問上(天文史料)では熒惑(ケイコク)といった、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%81%AB%E6%98%9F

熒惑、

は、江戸時代に、

なつひぼし、

と訓じられ、

夏日星、

という和名もある(仝上)。

宋景公有疾、司馬子常曰、熒惑守心、宋之分野也、君當之、若祭之、可移于相(史記・宋世家)、

と、

熒惑守心(熒惑心を守る)、

という言葉があり、

火星がさそり座のアンタレス(Antares さそり座α星A 黄道の近くに位置している)付近にとどまること(地球から観測する場合、火星は順行から逆行に切り替える数日間、天球上の同じ場所に止まるように見える)、

をいい(仝上)、具体的には、

心宿(アンタレスあたり)で順行・逆行を繰り返してうろうろする現象、

をいいhttps://www.kcg.ac.jp/kcg/sakka/oldchina/tenpen/keiwaku.htm

熒惑守心、

は、

戦乱が起こる、不吉の前兆とされた、

とある(仝上)。「心」とは、

アンタレスが所属する星官(中国の星座)心宿(しんしゅく)のこと、

をいい(仝上)、星官(星座)の心は、

さそり座のσ、α(アンタレス)、τの3つの星によって構成される、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%83%E5%AE%BF。「心宿」は、和名、

中子星(なかごぼし)、

という(仝上)。

「熒」 漢字.gif


「熒」 金文・西周.png

(「熒」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%86%92より)

「熒」(漢音ケイ、呉音ギョウ、慣用エイ)は、

原字の「𤇾()」は2つの交差するトーチを象る象形。東周時代に下に「火」が追加された。『説文解字』では、「焱」+「冂(家屋)」の会意文字とされているが、誤った分析である、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%86%92。和語では、

ひかり、

と訓ずる(仝上)。

ともしび、
ひかりかがやく、
めがくらむ、

といったいの場合、

ケイ、

と訓み、

螢と通ず、

とある(字源)。

疑い惑う、

という意の場合、

エイ、

と訓む(仝上)。

「惑」 漢字.gif

(「惑」 https://kakijun.jp/page/1280200.htmlより)

「惑」(漢音コク、呉音ワク)は、

会意兼形声。或は「囗印の上下に一線を引いた形(狭いわくで囲んだ区域)+戈」の会意文字で、一定の区域を武器で守ることを示す。惑は「心+音符或」で、心が狭い枠に囲まれること、

とある(漢字源)。別に、

形声。心と、音符或(コク、ワク)とから成る。心に思い迷う意を表す、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です(或+心)。「矛(ほこ)の象形と村の象形と境界線の象形」(「武装した地域」の意味だが、ここでは、「さかんに現れる」事を表す擬態語)と「心臓」の象形から、さまざまな考えがさかんにあらわれる事を意味し、そこから、「まどう」を意味する「惑」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1167.html

「或」 漢字.gif



「或」 甲骨文字・殷.png

(「或」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%88%96より)


「或」 金文・西周.png

(「或」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%88%96より)

「或」(漢音コク、呉音ワク)は、

会意。「戈(ほこ)+囗印の地区」から成る。また囗印を四方から線で区切って囲んだ形を含む。ある領域を区切り、それを武器で守ることを示し、往き國の原字である。ただし、一般には有に当て、ある者、ある場合などの意に用いる。或の原義は、のちに域の字で表すようになった、

とある(漢字源)。「或日」「或人」の「ある」、或師焉、或不焉、と「あるいは」の意だが、上述のように、無或乎王之普智也(王ノ不智ニ或(まど)フコトナカレ)と、「惑う」意もある。他も、

会意。戈と、囗(い 集落)と、一(境界)とから成る。境を設けた地域を武器で守る意を表す。ひいて、「くに」の意に用いる。「國(コク 国)」の原字。借りて「ある」「あるいは」の意に用いる(角川新字源)、

会意文字です(口+戈+一)。「村の象形と矛(ほこ)の象形と境界線の象形」から、「武装した地域・区切られた地域」の意味を表しました。(域・國(国)の原字)。借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「あるいは」を意味する「或」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2456.html

等々同種の説があるが、この解釈は、

『説文解字』で「戈」+「一」+「囗」と分析され、武器で土地や領土を守るさまと説明されているほか、「戈」ではなく「弋」を含むと分析する説もある。甲骨文字や金文の形を見ればわかるように、これらは誤った分析である、

としhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%88%96

象形。円形の刃を持つ鉞を象る。のち仮借して「ある」「あるいは」を意味する漢語{或 /*wəək/}に用いる、

とある(仝上)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:15| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする