詠む歌には、髄脳(ずいなう)・打聞(うちぎき)などいひて多くありげなり。今様には、いまださること無ければ、俊頼(としより)が髄脳を学びて、これを撰ぶところなり(梁塵秘抄口伝集)、
とある、
髄脳、
は、
和歌の髄脳、いと所せく(たくさんあり)、病(歌病)、さるべき心多かりしかば(源氏物語)、
とあるように、
奥義や秘説・心得を書いた書物、
とあり(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)、
髄も脳も身体の極めて大切な部分なので、
そういうらしい(岩波古語辞典)。
打聞、
は、
人といひかはしたる歌の聞こえて、打聞などに書き入れらるる(枕草子)、
と、
耳に触れたことを書き留めたもの、
とある(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)。
特に、撰集を編むために広く歌を書き集めること、
ともある(岩波古語辞典)。
聞書(ききがき)、
である(大言海)。源俊頼の歌学書、
俊頼髄脳(天永二年(1111〕~永久元年(1113)成立)、
は、現存写本の標題が、
俊頼口伝集(くでんしゅう)、
俊頼無名抄(むみょうしょう)、
俊秘(しゅんぴ)抄、
等々で、
当初から明確な書名はなかった、
とみられ(https://japanknowledge.com/introduction/keyword.html?i=754)、もと、
五巻、
と推測されているが、残存するのは、
巻一断簡、
巻十、
だけである(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)。
(「俊頼髄脳」(源俊頼) 国会図書館コレクション)
本書は、
藤原勲子(後の鳥羽院皇后・高陽院(かやのいん)泰子=改名)献呈した歌学書、
であり、
作歌のための実用書として具体的心得を説くことを主体とするもの、
であったため、その構成も記述の関連に従っており、一貫したものではなく、内容はほぼ、
序に始まり和歌の種類、歌病、歌人の範囲、和歌の効用、実作の種々相、歌題と詠み方、秀歌などの例、和歌の技法、歌語とその表現の実態という順で記述する、
とあり(https://japanknowledge.com/introduction/keyword.html?i=754)、そのうち最後の歌語を基底に置いての、その意味と表現の実態説明が全体の約三分の二を占め、歌語・表現の種々な具体的記述と詠まれた和歌の発想の基となる説話・伝承なども詳しく記述する(仝上)、とある。
「髓(髄)」(漢音呉音スイ、慣用ズイ)は、
会意兼形声。遀(スイ)は、外側の形に柔らかく従うこと。隨はそれを音符として、骨を加えた字。骨の外わくに従う柔らかいゼラチン状のなかみ、
とある(漢字源)。別に、
形声。骨と、音符遀(スイ)とから成る。骨の中心部、ひいて、物事の中心の意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(骨+迶)。「肉を削り取り、頭部をそなえた人の骨の象形と切った肉の象形」(「骨」の意味)と「段のついた土山の象形と左手の象形と工具の象形×2」(「くずれる」の意味)から、動物の骨の中心にあるやわらかなもの「ずい」を意味する「髄」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1696.html)ある。
「腦(脳)」(漢音ドウ、呉音ノウ)は、
会意兼形声。𡿺は、頭に毛の生えた姿。上部の巛印は頭髪であり、下部は、思の字にも含まれて居る形であって、頭骨におどりの筋の入っている姿である。腦はそれを音符とし、肉を加えた字で、柔らかい意味を含む。脳みその柔らかい特質に着目した命名であろう、
とある(漢字源)が、ちょっと意味不明である。別に、
形声。「肉」+音符「𡿺 /*NU/」。{腦 /*nuuʔ/}を表す字。音符の「𡿺」は、「夒」の特殊な形の略体、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%85%A6)、
会意形声。肉と、𡿺(ダウ あたま)とから成る。のうみその意を表す、
とも(角川新字源)、
会意文字です。「まだ上部が開いている乳児の頭蓋骨」の象形と「髪」の象形と「年老いた女性」の象形(「比」に通じ、「並ぶ、つく」の意味)から、髪と頭蓋骨が付いている「のうみそ」を意味する「脳」という漢字が成り立ちました。(「年老いた女性」の象形は、のちに、「切った肉」の象形に変形しました)、
とも(https://okjiten.jp/kanji50.html)ある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』(講談社学術文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95