2023年07月19日
水馴木(みなれぎ)
水馴木(みなれぎ)の水馴(みなれ)磯馴(そなれ)て別れなば、戀しからんずらむものをや睦(むつ)れ馴(なら)ひて(梁塵秘抄)、
の、
水馴木、
は、
水に浸ってなれた木、
水に浸って十分に水分を含んだ木、
をいい(精選版日本国語大辞典)、
熊野河くだす早瀬のみなれざほ(お)さすがみなれぬ波のかよひ路(ぢ)(新古今和歌集)、
と、
水馴棹(みなれざお)、
というと、
水に馴れた棹、
の意で、
みざお(水棹)、
ともいい、
舟の棹、
を指す(岩波古語辞典)。
水馴(みなれ)、
は、
水に浸ることに馴れる、
意で、
よそにのみ聞かましものを音羽川渡るとなしにみなれそめけん(古今集)、
と、
見慣れ、
身慣れ、
とかけていうことが多い(仝上)とある。
磯馴(そなれ)、
は、
動詞「そなる(磯馴)」の連用形の名詞、
であり(精選版日本国語大辞典)、
潮風のために木が地面に低くなびいて、傾き生えること、
をいい、
そな(磯馴)る、
の「そ」は、
いそ(磯)」の変化したもの、
で、
み吉野のきさやまかげに立てる松いく秋風にそなれ来ぬらん(曾丹集)、
と、
下二段活用の自動詞、
で、
海岸の木の枝や幹が強い潮風のために地面に傾いて生えのびる、
意で、
いそな(磯馴)れる、
というと、
下一段活用の自動詞、
で、
礒なれし松も見らるるねはんかな(白雄句集)、
と、
強い潮風のために樹木が地面になびいて生え延びる、
意である(精選版日本国語大辞典)。
そな(磯馴)る、
は、
見慣れ磯馴れて別るる程は(源氏物語)、
と、
見慣れ磯馴れ、
の形で、
長年馴れ親しむ、
意だが、
「見慣れ」に「水馴れ」を掛け、単に語調を合わせるために「磯馴れ」と続けたにすぎない、
とある(岩波古語辞典)。
海岸などに傾き生えている木、
を、
磯馴(そな)れ木、
といい、
海岸などに傾き生えている松、
を、
磯馴(そな)れ松、
という(仝上)。
水馴る、
と、
磯馴る、
とを合わせた、
水馴磯馴る(みなれそな)る、
というと、
「見馴れ」に「水馴れ」をいいかけて、「水」の縁で「磯馴れ」と続けた表現、
で、
ただ、あだにうち見る人の、あさはかなるかたらひだに、みなれそなれて別るる程はただならざめるを(源氏物語)、
と、
みなれ(見慣)る、
意である(精選版日本国語大辞典)。
「馴」(漢音シュン、呉音ジュン)は、
会意兼形声。「馬+音符川」で、川が一定のすじ道に従ってながれるように、馬が従いなれること、
とある(漢字源)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95