2023年07月22日

葉腕(くぼて)・葉手(ひらて)


吉田野に神祭る、天魔(てま)は八幡(やはた)に葉椀(くぼて)さし、葉手(ひらて)とか、賀茂の御手洗(みたらし)に精進して、空には風こそさいさか程は取れ(梁塵秘抄)、

の、

葉椀(くぼて)、
葉手(ひらて)、

は、

柏(かしわ)の葉を使った容器で、

葉椀.bmp

(窪手 精選版日本国語大辞典より)

葉椀(くぼて)、

は、

窪手、

とも当て、

クボ、

は、

窪、
凹、

と当て(岩波古語辞典)、

其の窪きをいい(大言海)

神前に供える物を入れる器。カシワの葉を幾枚も合わせ竹の針でさし綴って、凹んだ盤(さら)のように作ったもの、

をいい(広辞苑)、

神山のかしはのくぼてさしながらおひなをるみなさかへともがな(相模集)、

と、

柏の窪手(かしわのくぼて)、

という言い方もする(精選版日本国語大辞典)。

葉手.bmp

(葉手 精選版日本国語大辞典より)

葉手(ひらて)、

は、

枚手、
葉盤、

とも当て、

ひらすき(枚次)、

ともいい、

ヒラはヒラ(平)と同根、

で(岩波古語辞典)、

大嘗会(だいじょうえ)などの時、菜菓などを盛って神に供えた器。数枚の柏の葉を並べ、竹のひごなどでさしとじて円く平たく作ったもの

をいい(精選版日本国語大辞典)、後世ではその形の土器かわらけをいい、木製・陶製もある。

」で触れたように、「かしわ」には、樹木の葉の意味の他に、

食物や酒を盛った木の葉、また、食器、

の意がある。

多くカシワの葉を使ったからいう、

とあり(広辞苑)、

大御酒のかしはを握(と)らしめて、

と古事記にある。「カシワ」を容器とするものに、

くぼて(葉碗・窪手)、
ひらで(葉盤・枚手)、

があり、和名類聚抄(平安中期)に、

葉手、平良天、葉椀、九保天、

とある。ために、

葉、此れをば箇始婆(かしは)といふ(仁徳紀)、

とあり、仁徳紀に、

葉、此れをば箇始婆(かしは)といふ、

とある。で、「葉」を、

かしわ、

とも訓ます(岩波古語辞典)。

膳夫(かしわで)」で触れたことだが、

膳夫(かしはで)、

は、

カシハの葉を食器に使ったことによる。テは手・人の意(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・大辞林・日本語源広辞典)、
カシハは炊葉、テはシロ(料)の意で、ト(事・物)の転呼、カシハの料という意(日本古語大辞典=松岡静雄)、
カシハデ(葉人)の義(大言海)、

とあり、

カシハ、

は、

カシワ(柏・槲)、

の意である。「柏餅」触れたように、

たべものを盛る葉には、

ツバキ・サクラ・カキ・タチバナ・ササ、

などがあるが、代表的なのが、

カシワ、

であった(たべもの語源辞典)ので、「柏餅」の、

カシワの葉に糯米(昔は糯米を飯としていた)を入れて蒸したのは、古代のたべものの姿を現している、

ともいえる(仝上)。

こうみると、

くぼて、
ひらで、
かしわで、

の、

テ、

は、

くぼへ(凹瓮)、
ひらへ(平瓮)、

とする説(言元梯)もあるが、

瓮(オウ)、

は、和名類聚抄(平安中期)に、

甕、毛太井(もたひ)、

とあり、

甕(オウ)は瓮と同義(漢字源)とあり、

水や酒を入れる器、

なので、少しずれそうだ。

手、

と当てている通り、

テは手で捧げるところから(東雅)、
テは取り持つところから(日本語源=賀茂百樹)、

とあるように、

テ(手)、

自体、

トリ(取・執)の約轉(古事記伝・和訓集説・菊池俗語考・大言海・日本語源=賀茂百樹)、

と、動作からきているようなので、

テは手・人の意(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・大辞林・日本語源広辞典)、

というのが妥当な気がする。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:28| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする