南(なん)宮の御前(おまへ)に朝日さし、兒(ちご)の御前に夕日さし、松原如来の御前には、官位(つかさ)昇進(まさり)の重波(しきなみ)ぞ立つ(梁塵秘抄)、
の、
重波、
は、
頻浪、
とも当て、
次から次へとしきりに打ちよせる波、
をいい、字鏡(平安後期頃)に、
波浪相重、志支奈美、
とあるが、転じて、
頻並、
敷並、
とあてる、
しきなみにつどひたる車なれば、出づべきかたもなし(枕草子)、
と、
絶え間なく続くさま、
たてつづけ、
という意で使い(広辞苑)、
しきなみなり(頻並みなり)、
は、
あとからあとから続いている、
意で(学研全訳古語辞典)、
頻浪(しきなみ)を打つ、
というと、
和泉・河内の早馬敷並を打つて(太平記)、
と、
しきりである、
意で使う(広辞苑)。ちなみに、
しきなみぐさ(頻浪草)、
というと、
すすき、
の異称である(仝上)。
なお、上記の、
南(なん)宮、
兒(ちご)、
松原如来、
とあるのは、摂津国武庫郡(西宮市大社町)の、式内社、
広田神社、
の、
摂社、
末社、
で、十巻本の伊呂波字類抄(平安末期)に、
広田 五所大明神 本身阿弥陀 在摂津国
矢洲大明神 観音 南宮 阿弥陀
夷 毘沙門 エビス 児宮 地蔵
三郎殿 不動明王 一童 普賢
内王子 観音 松原 大日
百大夫 文殊 竃殿 二所
とある(http://www.lares.dti.ne.jp/~hisadome/honji/files/HIROTA.html)。
「頻」(漢音ヒン、呉音ビン)は、
会意文字。「頁(あたま)+渉(水をわたる)の略体」で、水ぎわぎりぎりにせまること、
とあり(漢字源)、
会意。頁と、涉(しよう=渉。𣥿は変わった形。步は省略形。水をわたる)とから成り、川をわたる人が顔にしわを寄せる、ひそめる意を表す。もと、瀕(ヒン)に同じ。借りて「しきりに」の意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意文字です(もと、渉(涉)+頁)。「流れる水の象形(のちに省略)と左右の足跡の象形」(「水の中を歩く、渡る」の意味)と「人の頭部を強調した」象形(「かしら」の意味)から、水の先端「水辺」、「岸」を意味する「頻」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1877.html)が、別に、「頻」は、
「瀕」の略体。のち仮借して「しきりに」を意味する漢語{頻 /*bin/}に用いる、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A0%BB)、「瀕」は、
原字は「水」+「步」から構成される会意文字で、水際を歩くさまを象る。西周時代に「頁」を加えて「瀕」の字体となる。「水辺」を意味する漢語{瀕 /*pin/}を表す字。『説文解字』では「頁」+「涉」と分析されているが、これは誤った分析である。甲骨文字や金文の形を見ればわかるように「涉」とは関係がない、
と、上記の、
「頁」+「涉」説、
を一蹴している(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%80%95)。
「重」(漢音チョウ、呉音ジュウ)は、
会意兼形声。東(トウ)は、心棒がつきぬけた袋を描いた象形文字で、つきとおすの意を含む。重は「人が土の上にたったさま+音符東」で、人体のおもみが↓型につきぬけて、地上の一点にかかることをしめす、
とある(漢字源)。別に、
象形。荷物(音符「東 /*TONG/」を兼ねる)を背負った人物を象る。「おもい」を意味する漢語{重 /*drongɁ/}を表す字。のち仮借して「かさねる」を意味する漢語{重 /*drong/}にも用いる、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%87%8D)、
会意形声。人と、東(トウ→チヨウ ふくろ)とから成り、人がおもいふくろを負う、ひいて「おもい」、また、「かさねる」意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(壬+東)。「人が立っている」象形と「重い袋の両端をくくった」象形から(人が)重い袋を持って耐える、すなわち「おもい」を意味する「重」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji503.html)。なお、「東」(漢音トウ、呉音ツウ)は、「東司(とうす)」で触れた。
(「浪」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B5%AAより)
「浪」(漢音呉音ロウもー、唐音ラン)は、
会意兼形声。良は◉(穀物)を水でといてきれいにするさま。清らかに澄んだ意を含む。粮(リョウ きれいな米)の原字。浪は「水+音符良」で、清らかに流れる水のこと、
とある(漢字源)。別に、
形声。水と、音符良(リヤウ)→(ラウ)とから成る。もと、川の名。のち、借りて「なみ」の意に用いる
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(氵(水)+良)。「流れる水」の象形(「水」の意味)と「穀物の中から特に良いものだけを選び出すための器具の象形」(「良い」の意味だが、ここでは、「ザーザーと、うねる波を表す擬態語」)から、「なみ」を意味する「浪」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1512.html)。
「波」(ハ)は、
会意兼形声。皮は「頭のついた動物のかわ+又(手)」の会意文字で、皮衣を手でななめに引き寄せて被るさま。波は「水+音符皮」で、水面がななめにかぶさるなみ、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(氵(水)+皮)。「流れる水の象形」と「獣の皮を手ではぎとる象形」(「毛皮」の意味)から、毛皮のようになみうつ水、「なみ」を意味する「波」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji405.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95