2023年07月23日

重波(しきなみ)


南(なん)宮の御前(おまへ)に朝日さし、兒(ちご)の御前に夕日さし、松原如来の御前には、官位(つかさ)昇進(まさり)の重波(しきなみ)ぞ立つ(梁塵秘抄)、

の、

重波、

は、

頻浪、

とも当て、

次から次へとしきりに打ちよせる波、

をいい、字鏡(平安後期頃)に、

波浪相重、志支奈美、

とあるが、転じて、

頻並、
敷並、

とあてる、

しきなみにつどひたる車なれば、出づべきかたもなし(枕草子)、

と、

絶え間なく続くさま、
たてつづけ、

という意で使い(広辞苑)、

しきなみなり(頻並みなり)、

は、

あとからあとから続いている、

意で(学研全訳古語辞典)、

頻浪(しきなみ)を打つ、

というと、

和泉・河内の早馬敷並を打つて(太平記)、

と、

しきりである、

意で使う(広辞苑)。ちなみに、

しきなみぐさ(頻浪草)、

というと、

すすき、

の異称である(仝上)。

なお、上記の、

南(なん)宮、
兒(ちご)、
松原如来、

とあるのは、摂津国武庫郡(西宮市大社町)の、式内社、

広田神社、

の、

摂社、
末社、

で、十巻本の伊呂波字類抄(平安末期)に、

広田  五所大明神 本身阿弥陀 在摂津国
矢洲大明神  観音  南宮  阿弥陀 
夷  毘沙門 エビス  児宮  地蔵 
三郎殿  不動明王  一童  普賢 
内王子  観音    松原  大日 
百大夫  文殊    竃殿  二所

とあるhttp://www.lares.dti.ne.jp/~hisadome/honji/files/HIROTA.html

「頻」 漢字.gif

(「頻」 https://kakijun.jp/page/1745200.htmlより)


「瀕」 漢字.gif


「頻」(漢音ヒン、呉音ビン)は、

会意文字。「頁(あたま)+渉(水をわたる)の略体」で、水ぎわぎりぎりにせまること、

とあり(漢字源)、

会意。頁と、涉(しよう=渉。𣥿は変わった形。步は省略形。水をわたる)とから成り、川をわたる人が顔にしわを寄せる、ひそめる意を表す。もと、瀕(ヒン)に同じ。借りて「しきりに」の意に用いる、

とも(角川新字源)、

会意文字です(もと、渉(涉)+頁)。「流れる水の象形(のちに省略)と左右の足跡の象形」(「水の中を歩く、渡る」の意味)と「人の頭部を強調した」象形(「かしら」の意味)から、水の先端「水辺」、「岸」を意味する「頻」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1877.htmlが、別に、「頻」は、

「瀕」の略体。のち仮借して「しきりに」を意味する漢語{頻 /*bin/}に用いる、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A0%BB、「瀕」は、

原字は「水」+「步」から構成される会意文字で、水際を歩くさまを象る。西周時代に「頁」を加えて「瀕」の字体となる。「水辺」を意味する漢語{瀕 /*pin/}を表す字。『説文解字』では「頁」+「涉」と分析されているが、これは誤った分析である。甲骨文字や金文の形を見ればわかるように「涉」とは関係がない、

と、上記の、

「頁」+「涉」説、

を一蹴しているhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%80%95

「重」 漢字.gif


「重」(漢音チョウ、呉音ジュウ)は、

会意兼形声。東(トウ)は、心棒がつきぬけた袋を描いた象形文字で、つきとおすの意を含む。重は「人が土の上にたったさま+音符東」で、人体のおもみが↓型につきぬけて、地上の一点にかかることをしめす、

とある(漢字源)。別に、

象形。荷物(音符「東 /*TONG/」を兼ねる)を背負った人物を象る。「おもい」を意味する漢語{重 /*drongɁ/}を表す字。のち仮借して「かさねる」を意味する漢語{重 /*drong/}にも用いる、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%87%8D

会意形声。人と、東(トウ→チヨウ ふくろ)とから成り、人がおもいふくろを負う、ひいて「おもい」、また、「かさねる」意を表す、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です(壬+東)。「人が立っている」象形と「重い袋の両端をくくった」象形から(人が)重い袋を持って耐える、すなわち「おもい」を意味する「重」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji503.html。なお、「東」(漢音トウ、呉音ツウ)は、「東司(とうす)」で触れた。

「浪」 漢字.gif



「浪」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「浪」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B5%AAより)

「浪」(漢音呉音ロウもー、唐音ラン)は、

会意兼形声。良は◉(穀物)を水でといてきれいにするさま。清らかに澄んだ意を含む。粮(リョウ きれいな米)の原字。浪は「水+音符良」で、清らかに流れる水のこと、

とある(漢字源)。別に、

形声。水と、音符良(リヤウ)→(ラウ)とから成る。もと、川の名。のち、借りて「なみ」の意に用いる

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です(氵(水)+良)。「流れる水」の象形(「水」の意味)と「穀物の中から特に良いものだけを選び出すための器具の象形」(「良い」の意味だが、ここでは、「ザーザーと、うねる波を表す擬態語」)から、「なみ」を意味する「浪」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1512.html

「波」  漢字.gif


「波」(ハ)は、

会意兼形声。皮は「頭のついた動物のかわ+又(手)」の会意文字で、皮衣を手でななめに引き寄せて被るさま。波は「水+音符皮」で、水面がななめにかぶさるなみ、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(氵(水)+皮)。「流れる水の象形」と「獣の皮を手ではぎとる象形」(「毛皮」の意味)から、毛皮のようになみうつ水、「なみ」を意味する「波」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji405.html

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:38| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする