2023年07月28日

箆(の)


鷲の本白を、くわうたいくわうの箆(の)に矧ぎて、宮の御前を押開き、無道(ふとう)射させんとぞ思ふ(梁塵秘抄)、

の、

箆、

は、和名類聚抄(平安中期)に、

箆、乃、箭竹名也、

とあり、

ヤダケの古名、

であるが、「やだけ」は、

矢竹、
箭竹、

と当て、

篠の類、形、雌竹に似て細く、葉は、ちまきざさ(粽笹)の如し、高さ、丈に過ぎず、幹、強くして、節の閒長く、多く矢の幹に作る、

とある(大言海)、

矢に用いる竹、

の意から、

矢に用いる竹の部分、

のため、

矢柄(やがら)、

の意となり、

箆、

も、

馬の額を箆深に射させて(平家物語)、

と、

矢柄(やがら)、

の意で使い、
箆、一名のだけ、一名やだけ、一名やのたけは漢名を菌簬、一名筓箭、一名箭幹竹といふ、

と(古今要覧稿)、

やだけ、

箆、

はほぼ同義となっている(広辞苑・大言海)。「矢柄」は、

矢幹、
簳、

とも当て、

矢の幹、

つまり、

鏃(やじり)と矢羽根を除いた部分、

をいい、普通は、

篠竹(しのだけ)で作る(デジタル大辞泉)。これも。

篦、

と同義でも使い、

矢篦、

ともいう(仝上)。

やだけ.jpg

(やだけ 広辞苑より)

なお、

本白、

とは、

矢羽根の名、

で、

褐色で根元の方が白いもの、

をいう(精選版日本国語大辞典)。

本白.bmp

(本白 精選版日本国語大辞典より)

侍(さぶらひ)藤五君(ぎみ)、めしし弓矯(ゆだめ)はなどとはぬ、弓矯も箆矯(のだめ)も持ちながら、讃岐の松山へ入(い)りにしは(梁塵秘抄)、

の、

弓矯(ゆだめ・ゆみだめ)、

は、

檠、

とも当て、和名類聚抄(平安中期)に、

檠、又は擏、由美大米、所以正弓弩也、

とあり、

弓の弾力を強くするために、弓幹(ゆがら)を曲げてそらせること、

あるいは、また、

曲がっている弓の材を、真っすぐに改めること、

の意で(精選版日本国語大辞典)、また、

そのために用いる道具、

をもいう(精選版日本国語大辞典)。

箆矯、

は、

箆撓、
箆揉、

とも当て、

弓の箆を撓(た)めて、曲がりなどを直す、

意から、

箆を撓めて、弓を張れる如き形、

をもいう(大言海)。また、

矢竹の曲がったのを撓め直す道具、

をもいい(岩波古語辞典)、

細い木に筋かいに溝を彫り、その中に箆を入れて直す、

ので、

すじかい、

ともいう(仝上・大言海)。

篦(の)の位置.jpg

(箆の位置 デジタル大辞泉)

箆、

の由来は、

矢のノリ(度)の意(和訓栞・大言海)、
直であるところから、ナヲ(直)の反(名語記・日本釈名)、
箭の古訓ノリの略(古今要覧稿)、

とあるがはっきりしない(日本語源大辞典)。なお、

箆、

を、

へら、

と訓むと、

箆を使う、

というように、

竹・木・象牙・金属などを細長く平らに削り、先端をやや尖らせた道具、

をいい、

折り目・しるしをつけ、または漆・糊を練ったり塗ったりするのに用いる、

ものを指す(デジタル大辞泉)。

なお、「矢」については、「弓矢」で、「矧ぐ」についても触れた。

「篦」 漢字.gif



「箆」 漢字.gif


「箆」(漢音ヘイ、呉音ハイ、慣用ヒ)は、

会意兼形声。下部の字(ヒ・ヘイ)は、びっしりと並ぶ意を含む。箆はそれを音符として、竹を加えた、

とあり(漢字源)、「竹ぐし」の意で、

へら、

の、

の意で使うのはわが国だけである。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:23| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする