海におかしき歌枕、磯邊の松原琴(まつばらきん)を弾き、調(しら)めつつ沖の波は磯に来て鼓打てば、雎鳩(みさご)濱千鳥、舞い傾(こだ)れて遊ぶなり(梁塵秘抄)
の、
傾(こだ)る、
は、
薪(たきぎ)樵(こ)る鎌倉山の許太流(コダル)木をまつと汝が言はば恋ひつつやあらむ(万葉集)、
とあり、
こ垂る、
とも当て(岩波古語辞典)、
「木垂る」で樹木の枝葉が繁茂して垂れ下がる、
意、また一説に、
「木足る」で、枝葉が充足している(繁茂している)、
意ともあり(精選版日本国語大辞典)、
重みでだらりとなる、
しなだれ下がる、
意で(仝上)、そこから転じて、
緊張がゆるんで姿勢がたるむ、
意でも使う。上記の、
舞い傾(こだ)れて遊ぶなり、
は、
この意味のようである(岩波古語辞典)。のちには、さらに転じて、
あのつらでこだれちゃあ、掃き溜めの地震、雪隠へ落っこちた雷、といふつらだらう(洒落本「辰巳婦言」)、
と、
泣きしおれる、
泣く、
意でも使うが、これは、もと、
人形浄瑠璃の社会の隠語、
という(デジタル大辞泉)。
みさご、
は、
鶚、
雎鳩、
鵃、
魚鷹、
などと当て(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%B4)、鳥綱タカ目ミサゴ科ミサゴ属の、
トビとほぼ同大のタカ、
で、海辺や湖岸に住み、
全長約55センチ。尾は短めで、翼は長め。背面は暗褐色で、下面は白色。翼の下面には暗褐色の模様が出ます。空中の一点に羽ばたきながら留まり、水面を探し、獲物を見つけると急降下し、足を伸ばして水中へ飛びこみ、魚類を捕らえます。捕らえた魚は小さければ片足で運び、大きいものは手拭を絞るように握り、魚の頭を先にして縦にして運びます
とあり(https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1496.html)、
捕らえた魚を岩陰の巣に積んでおく習性、
があり、その魚を、
みさご酢、
といって珍重する(岩波古語辞典)とある。
鹽、醤を加へずして食ふべく、味、人の作れる酢の如し、
とある(大言海)。和名類聚抄(平安中期)に、
雎鳩、美佐古、
天治字鏡(平安中期)に、
雎、雎鳩也、彌左古、又、萬奈柱、雎(上同)、
とある。
雎鳩(しょきゅう)、
州鳥(すどり)、
ともいい、魚を好んで食べることから別名、
ウオタカ(魚鷹)、
とも(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%B4)いい、垂直離着陸能力をもつ、
オスプレイ、
は、
みさご、
の意味である。
雎鳩(しょきゅう)、
は漢語であるが、
關關雎鳩、在河之洲、窈窕淑女、君子好逑(詩経)、
と、
雌雄仲が良いこと、
や、
淑徳ある婦女、
に喩えられるともある(岩波古語辞典・大言海)。
ミサゴ、
の由来は、
水探(ミサゴ)の義か(大言海)、
水サグルの意(日本釈名)、
ミヅサガシ(水捜)の義(名言通)、
ミサク・ミサゴ(水探)の義(言元梯)、
ウミサグリドリ(海捜鳥)の義(日本語原学=林甕臣)、
ミサグの転、ミサグはミヅサハカスの反(名語記)、
水沙の際にいるところから、ミサゴ(水沙児)の義(東雅)、
ミッシャコ(水𪋞鴣)の義(日本語原学=林甕臣)、
と、何れも、その生態から音を当てているが、はっきりしない(日本語源大辞典)。
「鶚」(ガク)は、
会意兼形声。「鳥+音符咢(ガク ガクガクトかどがたつ、あごが鋭い)、
とある(漢字源)。「みさご」の意である。
「雎」(漢音ショ、呉音ソ)は、
会意兼形声。「隹(とり)+音符且(ショ)」
とあり(漢字源)、「雎鳩」(しょきゅう)で、「みさご」の意である。
(「鳩」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%B3%A9より)
「鳩」(漢音キュウ、呉音ク)は、
形声。「鳥+音符九」。ひと所にあつまって、群れをなす鳥。ひきしめあつめる意を含む、
とある(漢字源)が、別に、
会意兼形声文字です(九+鳥)。「屈曲(折れ曲がって)して尽きる」象形(数の尽き極(きわ)まった「九(きゅう)」の意味だが、ここでは「はとの鳴き声(クウクウ)の擬声語」)と「鳥」の象形から「はと」を意味する「鳩」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2800.html)。
「鵃」(チョウ、トウ)は、
「鶻鵃(こっちょう)」は、鳥の名。ハトに似た鳥の意(この場合、チョウの音)、「鵃䑠(ちょうりょう)」は、船体が細長く、足の速い船の意(この場合、トウの音)、とある(https://kanji.jitenon.jp/kanjio/7125.html)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95