淡路はあな尊(たうと)、北には播磨の書冩をまもらへて、西には文殊師利、南え南海補陀落(ふだらく)の山(せん)に向ひたり、東(ひんがし)は難波の天王寺に、舎利(さり)まだおはします(梁塵秘抄)、
の、
舎利、
は、
しゃり、
とも訓み、
サンスクリット語シャリーラśarīra、
の音訳、原義は、
身体、
のことであるが、転じて、
遺骨、
とくに、
仏陀(ぶっだ 釈迦)の遺骨、
をさし、
仏舎利、
仏骨、
という(精選版日本国語大辞典・日本大百科全書)。骨崇拝は先史時代よりあったが、仏教で舎利崇拝がおこったのは、
仏陀がクシナガラで入滅し、その遺体が火葬に付され、遺骨と灰が仏陀ゆかりの八つの土地に分納され、塔が建立され供養されて以来のこと、
とされる(仝上)。アショカ王は、上記八つの仏塔のうち七つを開けて舎利を分け、インド各地に多数の仏塔を建てたと伝わる(仝上)。わが国でも舎利供養のための法会(ほうえ)が行われた(日本書紀)が、1898年(明治31)ネパールにおいて、仏陀の遺骨とみられるものが発掘されて仏教諸国に分与され、日本では名古屋市覚王山の日泰(にったい)寺に安置奉祀(ほうし)されている(仝上)とある。舎利を安置する塔を、
舎利塔、
舎利を納めておく堂宇を、
舎利殿、
という(仝上)。法華経に、
佛滅度後、供養舎利、
翻譯名義集(南宋代の梵漢辞典)に、
佛舎利、椎撃不破、弟子舎利、椎試即砕也、
とある。
(佛舎利を衛りて百国の王帰国する図(葛飾北斎『釈迦御一代記図会』) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8F%E8%88%8E%E5%88%A9より)
和名類聚抄(平安中期)に、
舎利、法華経云、以佛舎利、起七宝塔、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
御所遺骨分、通名舎利、
とある。
なお、
舎利、
は、
米粒、
また、
白飯、
を指して用いたりするのは、
仏舎利が米粒に似ていること、
によっており、近世から例が見え始める。ただし、仏舎利と米粒とを結び付ける例は中国唐代に既に見られ、日本でも空海撰「秘蔵記」に、
天竺呼米粒為舎利。仏舎利亦似米粒。是故曰舎利、
とあるが、これらは、梵語の、
米śāli、
と、
身体śarīra、
との混同に依るらしい(精選版日本国語大辞典)とある。
「内舎人」で触れたように、「舎(舎)」(シャ)は、
会意兼形声。余の原字は、土を伸ばすスコップのさま。舎は「口(ある場所)+音符余」で、手足を伸ばす場所。つまり、休み所や宿舎のこと、
とある(漢字源)。別に、
形声。音符「余 /*LA/」+羨符「口」(他の字と区別するための記号)、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%88%8D)、
象形。口(垣根の形)と、(建物の形)と、亼(しゆう)(集の古字)とから成り、「やどる」、ひいて「おく」意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(余+口)。「先の鋭い除草具」の象形(「自由に伸びる」の意味)と「ある場所を示す文字」から、心身をのびやかにして、「泊まる(やどる)」、「建物」、「ゆるす」を意味する「舎」という漢字が成り立ちました、
ともあり(https://okjiten.jp/kanji841.html)、微妙に解釈が異なる。
(「利」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%A9より)
「利」(リ)は、
会意文字。「禾(いね)+刀」。稲束を鋭い刃物でさっと切ることを示す。一説に、畑をすいて水はけや通風をよくすることをあらわし、刀はここではすきを示す。すらりと通り、支障がない意を含む。転じて、刃がすらりと通る(よく切れる)、事が都合よく運ぶ意となる、
とある(漢字源)。
会意。「禾 (穀物)」+「刀」で、穀物を鋭い刃物で収穫するさまを象る。「するどい」を意味する漢語{利 /*rits/}および「もうけ」を意味する漢語{利 /*rits/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%A9)、
は、前者、
会意。刀と、禾(か いね)とから成り、すきで田畑を耕作する意を表す。「犂(リ すき)」の原字。ひいて、収益のあること、また、すきのするどいことから「するどい」意に用いる(角川新字源)、
会意文字です(禾+刂(刀))。「穂先がたれかかる稲」の象形と「鋭い刃物」の象形から、稲を栽培し、鋭い刃物(すき)で土を耕す事を意味し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「するどい」・農耕に「役立つ」を意味する「利」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji592.html)、
は後者の説を採っている。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95