妙見(めうけん)大悲者は、北の北にぞおはします。衆生願(ねがひ)を満(み)てむとて、空には星とぞ見えたまふ(梁塵秘抄)、
の、
大悲者(だいひしゃ・だいひさ)、
は、
大慈悲者の意で、諸仏菩薩、特に観世音菩薩の称、
とあり(精選版日本国語大辞典・広辞苑)、
妙見大悲者、
は、
妙見菩薩(みょうけんぼさつ・めうけんぼさつ)、
である。
妙見菩薩、
の、
妙見、
は、
Su-dṛṣṭiの訳、
で、
優れた視力、
の意で、
善悪や真理をよく見通す者、
とされ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A6%99%E8%A6%8B%E8%8F%A9%E8%96%A9)、
北極星または北斗七星を神格化した菩薩、
で、
尊星(そんしょう)王、
妙見尊星王、
北辰(ほくしん)菩薩、
北斗妙見菩薩、
ともいう(https://www.reihokan.or.jp/syuzohin/hotoke/bosatsu/myoken.html・日本大百科全書)。インドで発祥した菩薩信仰が、中国で、
道教の北極星・北斗七星信仰と習合、
し、仏教の天部の一つとして日本に伝来した(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A6%99%E8%A6%8B%E8%8F%A9%E8%96%A9)とされ、
国土を守り、災難を除去し、敵を退け、または人の寿命を延ばす福徳ある尊像、
とされる(日本大百科全書)。古来、
人間の一生は天文と関係していると考えられ、北半球では北斗七星がその中心とみなされていた。これは、北斗七星が人の善悪の行為をみて、これによって禍福を分け、死生を決めるものという、道教の思想から出たものと混交したものらしい、
とある(仝上)。
「菩薩」は、「薩埵」で触れたが、本来、
ボーディ・サットヴァ(梵語 bodhisattva)、
の音写で、
菩提を求める衆生、
の意で、
十界(じっかい 迷いと悟りの両界を分けたもの。迷界での地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人間界・天上界と、悟界における声聞界・縁覚界・菩薩界・仏界の称。あわせて六凡四聖(ろくぼんししょう)とも)、
では上位である、
四聖(仏・菩薩・縁覚・声聞)、
の一つだが、妙見菩薩は他のインド由来の菩薩とは異なり、中国の星宿思想から北極星を神格化したものであることから、形式上の名称は菩薩でありながら実質は、
大黒天や毘沙門天・弁才天と同じ天部、
に分類され(仝上)、
妙見菩薩は名前こそ「菩薩」ですが、事相(じそう・実践上の儀式)においては天部として扱われ、その点では特殊なほとけといえます、
とある(https://www.reihokan.or.jp/syuzohin/hotoke/bosatsu/myoken.html)。
「天部」というのは、仏教の尊像の4区分、
如来、菩薩、明王、天、
の第4番目にあたり、
諸天部、
ともいい、
インド古来の神が天と訳されて仏教に取入れられ、護法神となったもの、
で、
貴顕天部と武人天部、
があり、前者は、
梵天王、帝釈天、吉祥天、弁財天、伎芸天、鬼子母神(訶梨帝母)、大黒天、
後者は、
毘沙門天(多聞天)などの四天王や仁王、韋駄天、深沙大将、八部衆、十二神将、二十八部衆、
等々である(精選版日本国語大辞典・ブリタニカ国際大百科事典)。
妙見は、仏教では、
七仏八菩薩諸説陀羅尼神呪経(妙見神呪経 晋代失訳)、
に組み込まれ(https://www.ensenji.or.jp/contents/category/believe/)、
我北辰菩薩名曰妙見。今欲說神呪擁護諸國土。所作甚奇特故名曰妙見。處於閻浮提。眾星中最勝。神仙中之仙。菩薩之大將。光目諸菩薩。曠濟諸群生(我れ、北辰菩薩にして名づけて妙見と曰ふ。今、神呪を説きて諸の国土を擁護せんと欲す。所作甚だ奇特なり、故に名づけて妙見と曰ふ。閻浮提に処し、衆星中の最勝、神仙中の仙、菩薩の大将、諸菩薩の光目たり。広く諸群生を済ふ)
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A6%99%E8%A6%8B%E8%8F%A9%E8%96%A9)。
妙見菩薩は、北極星を神格化したものなので、
よく物を見、善悪を記録するとされる、
ため「妙見」の名があるとされ、
眼病治療、
を祈願するほか、常に北の空にあり、航海における道標ともなった北極星の化身ということもあり、
航海の安全、
を祈願したり、
国土を擁護して災いを除き、敵を退け、人の福寿を増す菩薩とされる(https://www.reihokan.or.jp/syuzohin/hotoke/bosatsu/myoken.html)。妙見菩薩を本尊とする、
尊星王法という修法、
は天台宗寺門派において最大の秘法とされる(仝上)とある。
(日輪・月輪・紀籍・筆を持つ四臂の尊星王(妙見) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A6%99%E8%A6%8B%E8%8F%A9%E8%96%A9より)
その姿は変化に富み、
二臂や四臂で龍や亀に乗るもの、
手のひらの上や蓮(はす)の上に北斗七星を置くもの、
の他、
俗形束帯像、
童子・童女形像、
もある(仝上)が、
一面四臂で二手に日と月とを捧(ささ)げ、二手に筆と紀籍(鬼籍)を持ち、青竜の上に乗る、
のが代表とされる(日本大百科全書)とある。
「妙」(漢音ビョウ、呉音ミョウ)は、
会意文字。少は「小+ノ(けずる)」の会意文字で、小さく削ることをあらわす。妙は「女+少」で、女性の小柄で細く、なんとなく美しい姿を示す。細く小さい意を含む、
とある(漢字源)。別に、
会意形声。女と、少(セウ→ベウ わかい)とから成り、年若い女、ひいて、美しい意を表す。また、杪(ベウ)・眇(ベウ)に通じて、かすかの意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(女+少)。「両手をしなびやかに重ね、ひざまずく女性」の象形と「小さい点」の象形(「まれ・わずか」の意味)から、奥床しい女性(深みと品位がある女性)を意味し、そこから、「美しい」、「不思議ではかりしれない」を意味する「妙」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1122.html)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95