2023年09月08日

閻浮(えんぶ)


夜ふけて長夜に至る程、洲鶴(しうかく)眠(ねぶ)りて春の水、娑婆の故(ふる)き郷(さと)に同じ、塞鴻(さいこう)なきては秋の風、閻浮(えんぶ)の昔の日に似たり(梁塵秘抄)、

の、

閻浮、

は、

「えんぶ(閻浮)」の撥音「ん」の無表記形、

で、

えぶ、

とも訓ますが、

閻浮樹(えんぶじゅ)の略、

もしくは、

閻浮提(えんぶだい)」の略、

である(精選版日本国語大辞典)。

閻浮提、

は、「三千世界」で触れたように、「須弥山」をとりまいて、

七つの金の山、

と、それを囲む、

鉄囲山(てっちせん)、

があり、その間に八つの海があり、これを、

九山八海(くせんはっかい)、

という。周囲の鉄囲山(てっちせん)にたたえた海水に須弥山に向かって、東には半月形の、

毘提訶洲(びだいかしゅう、あるいは勝身洲 ビデーハ・ドゥビーパvideha-dvīpa)、

南に、

三角形の贍部洲(南洲あるいは閻浮提)、

西に満月形の、

牛貨洲(ごけしゅう ゴーダーニーヤ・ドゥビーパgodānīya-dvīpa)、

北に方座形の、

倶盧洲(くるしゅう クル・ドゥビーパkuru-dvīpa)、

があり(『倶舎論(くしゃろん)』)、

贍部洲(せんぶしゅう)、

は、

閻浮提、

と同じで、

贍部(せんぶ)、

ともいい、須弥山の南にあるので、

南閻浮提(なんえんぶだい)、
南閻浮洲(なんえんぶしゅう)、

ともいうが、金輪際で触れたように、ここが、古代インドの世界観における人間が住む大陸に当たるとされ、ひいては人間界のことをさす(広辞苑・大辞林・大辞泉・日本大百科全書・精選版日本国語大辞典)。インド亜大陸を示している、とされる。

須弥山の概念図.jpg


閻浮提、

は、サンスクリット語の、

ジャンブ・ドゥビーパJambu-dvīpa、

に相当する俗語形からの音写語なので、他に、

剡浮洲(えんぶしゅう)、

とも音訳されるが、文字通りには、

ジャンブ(ムラサキフトモモ)の島、

を意味https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%96%BB%E6%B5%AE%E6%8F%90し、

ジャンブ樹jambuすなわちフトモモの木rose-apple treeの繁茂する島(ドゥビーパdvīpa)、

の意である(日本大百科全書)。

閻浮提、

は、

三辺がおのおの2000由旬(ゆじゅん ヨージャナ。1ヨージャナは約7キロメートル)、

残りの1辺がわずかに、

3.5由旬、

で、車のような形をしており、インド亜大陸に比していると見られるのはその形からのようである。

なお、この中央には、金剛座がし、そこで菩薩たちが、

金剛喩定(ゆじょう すべての煩悩を断ち切る堅固な心)、

を修習すると説かれている(仝上・倶舎論)。

閻浮提、

には、

大国16、
中国500、
小国10万、

が存在するといわれている(ブリタニカ国際大百科事典)。

閻浮樹(えんぶじゅ)、

というのは、

閻浮提(えんぶだい)の雪山(せっせん)の北、香酔山(こうすいせん)南麓の無熱池(むねっち)のほとりに大森林をなすという想像上の大樹、

で(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)、

常緑樹で、高さ百由旬(ゆじゅん)ある、

とされる(精選版日本国語大辞典)。

由旬(ゆじゅん)、

は、

Yojana、

の音訳、古代インドで用いた距離の単位の一つで、

約七マイル(約11.2キロ)あるいは九マイル、

という。

牛車の1日の行程、

をさし、

帝王の軍隊が一日に進む行程、

といわれ、中国では、六町を一里として四〇里(一里は約405m)または三〇里、あるいは一六里にあたる、

とされる(仝上・デジタル大辞泉)。

閻浮提図附日宮図 (2).jpg


閻浮提図附日宮図(1808年)というものが残っているが、これは、

ヨーロッパから新たな知識がもたらされるにしたがって、それまで浄土宗の学僧であった存統によって仏教系の世界観を示す世界図三部作が作られた一つで、上部に日宮を、中央に世界図を、下部に自然現象についての説明を載せている。世界図には新阿蘭陀(オーストラリア)やタスマニアが描かれており、当時としては最新の世界地理情報が取り入れられているhttps://www.ikm-art.jp/degitalmuseum/num/001/0011521000.html。世界図はその多くを高橋景保の「新訂万国全図」の西半球図に依拠しているといわれる。

なお、「三界」、「三千世界」、「金輪際」、「須弥山」、「佉羅陀山(からだせん)」、「鐵圍山(てちゐせん)」、については触れた。

「閻」 漢字.gif



「閻」(エン)は、

会意兼形声。臽(エン・カン)は、「人+臼(あな)」の会意文字で、くぼんだ穴をあらわす。閻はそれを音符とし、門を加えた字で、入り口となる穴のあいた門のこと、

とある(漢字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:42| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする