「梵天」で触れたように、
帝釈天は梵天と並んで諸天の最高位を占め、仏法の守護神とされる(広辞苑)。
密教では十二天の一つとされるが、「大梵天」で触れたように、
十二天、
は、
仏教の護法善神である「天部」の諸尊12種の総称、
で、十二天のうち、特に八方、
東西南北の四方と東北・東南・西北・西南、
を護る諸尊を、
八方天、
あるいは、
護世八方天といい、更に、
天地を護る諸尊、
を加えて、
十天、
ともいう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E4%BA%8C%E5%A4%A9)。すなわち、
東方の帝釈天(たいしゃくてん インドラIndra)、
南方の焔魔天(えんまてん ヤマYama)、
西方の水天(バルナVaruna)、
北方の毘沙門天(びしゃもんてん バイシュラバナVaiśravaa、クベーラKuvera)、
東南方の火天(アグニAgni)、
西南方の羅刹天(らせつてん ラークシャサRākasa)、
西北方の風天(バーユVāyu)、
東北方の伊舎那天(いしゃなてん イーシャーナĪśāna)、
上方の梵天(ぼんてん ブラフマーBrahmā)、
下方の地天(ちてん プリティビーPthivī)、
日天(にってん スーリヤSūrya)、
月天(がってん チャンドラCandra)、
をいう(日本大百科全書)。
帝釈天、
は、梵語。
Śakro devānām Indraḥ、
の音写、
釈迦提桓因陀羅(釈迦提婆因達羅)、
の訳語、
梵天帝釋の略、
とあり(大言海)、
天帝釈、
釈提桓因、
帝釈、
帝釈天王、
などともいう(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。
梵云、釋迦提婆因達羅、釋迦姓也、此飜為能、提婆天也、因達羅帝也、正云能天帝、……此在妙高山(須弥山)頂而住、三十三天之帝主也(『妙法蓮華経玄贊(唐の慈恩大師窺基著)』)、
とある。
(帝釈天 広辞苑より)
「四天王」で触れたように、もとはバラモン教の神で、インド最古の聖典『リグ・ベーダ』のなかでは、
雷霆神(らいていしん)、
であり、
武神、
である。ベーダ神話に著名な、
インドラIndra、
が原名、天衆をひきいて阿修羅(あしゅら)を征服し、密教では、
十二天の一つで、また八方天の一つ、
として東方を守り、
須弥山(しゅみせん)の頂上にある忉利天(とうりてん)の善見城(ぜんけんじょう)に住し、四天王を統率し、人間界をも監視する、
とされる(日本大百科全書)。「是生滅法」で触れた、『大乗涅槃経(だいじょうねはんぎょう)』聖行品(しょうぎょうぼん)にある、
雪山童子(せっさんどうじ)、
の説話で、帝釈天が羅刹(らせつ 鬼)に身を変じて童子の修行を試し励ます役割を演じている(仝上)。
(帝釈天 精選版日本国語大辞典より)
善見城(ぜんけんじょう)、
は、喜見の城でも触れたように、
喜見城(きけんじょう)、
ともいい、梵語、
Sudarśana、
の訳語、
帝釈天(たいしゃくてん)の居城、
とされ、
須弥山(しゅみせん)の頂上にある忉利天(とうりてん)の中央に位置し、七宝で飾られ、城の四門に四大庭園があって諸天人が遊び戯れるというので、楽園などのたとえにされる、
とある(精選版日本国語大辞典・広辞苑・デジタル大辞泉)。
善見城(ぜんけんじょう)、
喜見、
喜見宮、
喜見城宮、
等々とも呼ばれる(仝上)。帝釈天は、
殊勝殿(しゅしょうでん)、
に住み、忉利天は、四方の峰に八天があるので、
三十三天、
ともいう(広辞苑・デジタル大辞泉・日本大百科全書)。『慧苑音義』には、
この天、須弥山の頂に在り、四方に各八天の住処あり中央の善見城を加ふるゆゑに三十三天となる、帝釈天王の居所である、
に続いて、
往昔迦葉仏入滅の時一女人あり発心して塔を修す、また三十二人ありてこれを助修す、この功徳によりて女人は忉利天王に転生し、其助修者は皆輔臣となつたと、三十三天ある所以である、
とある(仏教辞)。ちなみに、三十三天は、中央の、
喜見城(きけんじょう)天(善見城天)、
のほか、
善法堂天(ぜんぽうどう 善見城の南西に善法堂があり、ここに天人が定期的に集まり会議を開く)、
山峯天(さんぽうてん 北東の外側にある)、
山頂天(さんちょうてん 北西の外側にある)、
鉢私地天(はっしちてん 北西にある)、
倶吒天(くたてん 北東にある)、
雑殿天(ぞうでんてん 北西の外側にある)、
歓喜園天(かんぎえんてん 北方にある。ここには善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ歓喜園と如意池がある。ここへ入ると自然に歓喜の心が生じるとされる。「かんぎおん」とも)、
光明天(こうみょうてん 北東の外側にある)、
波利耶多天(はりやたてん 北東の外側にある)、
離険岸天(りけんがんてん 東にある。その内側には善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ衆車園と如意池がある)、
谷崖岸天(こくがいがんてん 東にある。その内側には善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ衆車園と如意池がある)、
摩尼蔵天(まにぞうてん 北東の外側にある)、
旋行天(せんぎょうてん 北東にある)、
金殿天(こんでんてん 北東の外側にある)、
鬘影天(まんえいてん 南東にある)、
柔軟天(じゅうなんてん 南東の外側にある)、
雑荘厳天(ぞうしょうごんてん南東の外側にある)、
如意天(にょいてん 南東にある)、
微細行天(びさいぎょうてん 南東の外側にある)、
歌音喜楽天(かおんきらくてん 南の外側にある。その内側には善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ粗悪園(悪口園)と如意池がある)、
威徳輪天(いとくりんてん 南西の外側にある)、
月行天(げっこうてん 南西にある)、
閻摩那娑羅天(えんまやさらてん 南西の外側にある)、
速行天(そっこうてん 南西の外側にある)、
影照天(えいしょうてん 西の外側にある。その内側には善見城の周囲にある4つの庭園のうちの1つ雑林園と如意池がある)、
智慧行天(ちえぎょうてん 西の外側にある)、
衆分天(しゅうぶんてん 西の外側にある)、
曼陀羅天(まんだらてん 北西にある)、
上行天(じょうぎょうてん 北西にある)、
威徳顔天(いとくがんてん 北西の外側にある)、
威徳燄輪光天(いとくえんりんこうてん 北西にある)、
清浄天(しょうじょうてん 北西の外側にある)、
とある(https://jiincenter.net/toriten-33ten/)。
帝釈天の像形は一定でないが、古くは、
高髻で、唐時代の貴顕の服飾を着け、また外衣の下に鎧を着けるもの、
もあるが、平安初期以降は密教とともに、
天冠をいただき、金剛杵(こんごうしょ)を持ち、象に乗る姿、
が普及した(精選版日本国語大辞典)。
(帝釈天半跏像(東寺講堂) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%9D%E9%87%88%E5%A4%A9より)
帝釈天に仕える、
四天王(してんのう 梵語Caturmahārāja)、
は、「深沙大王」で触れたように、
六欲天の第1天、
四大王衆天(しだいおうしゅてん、四王天)の主、
大王(しだいおう)、
もいい、
東方の持国天(じこくてん)、
南方の増長天(ぞうちょうてん)、
西方の広目天(こうもくてん)、
北方の多聞天(たもんてん)、
の四神をいい、帝釈天に仕え、それぞれ須弥山・中腹に在る四天王天の四方にて仏法僧を守護し、八部鬼衆を所属支配し、その中腹で共に仏法を守護する(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E5%A4%A9%E7%8E%8B)。
八部鬼衆、
は、
四天王に仕え仏法を守護する8種族の鬼神です。乾闥婆(けんだつば)、毘舎闍(びしゃじゃ)、鳩槃荼(くばんだ) 、薜茘多(へいれいた)、那伽(ナーガ、龍神)、富單那(ふたんな) 、夜叉(やしゃ)、羅刹(らせつ)、
をいい(https://jiincenter.net/8bukishu/)、
もとは古代インドの鬼神でしたが、仏教に帰依して仏法の守護神となりました。また、どれも集団の名であり、個別の神をさすものではありません、
とある(仝上)。『仁王経合疏』によると、
乾闥婆(けんだつば 古代インドのガンダルヴァ。香陰と訳す。酒や肉を食さず、ただ香をもってその陰身を保つ。東方を守護する持国天の眷属。
毘舎闍(びしゃじゃ 啖精気と訳す。人および五穀の精気を食す。東方を守護する持国天の眷属)、
鳩槃荼(くばんだ 形と訳す。その陰茎甕形に似た厭魅鬼である。南方を守護する増長天の眷属)、
薜茘多(へいれいた 餓鬼と訳す。常に飢餓・涸渇に切迫せられた鬼神である。南方を守護する増長天の眷属)、
那伽(ナーガ、龍 水属の王とされる。西方を守護する広目天の眷属)、
富單那(ふたんな 臭餓鬼と訳す。これ主熱の病鬼である。西方を守護する広目天の眷属)、
夜叉(やしゃ 勇健鬼と訳す。地行夜叉・虚空夜叉・天夜叉の3種類がある。北方を守護する多聞天の眷属)、
羅刹(らせつ 捷疾鬼と訳す。北方を守護する多聞天の眷属)、
とある(https://jiincenter.net/8bukishu/)。
八部衆、
と名称が似ており、また鬼神名も一部重複するため間違われやすい。八部衆も八部鬼衆も天部に位置し仏法を守護する護法善神に属するという点では同じであるが、八部鬼神は四天王の配下とされる点で異なる(仝上)。
「八部衆」については、「妙見(めうけん)大悲者」でも触れたが、
天部、
とは、
仏教の尊像の4区分、
如来、菩薩、明王、天、
の第4番目にあたるのを、
天部、
といい、
諸天部、
ともいい、
インド古来の神が天と訳されて仏教に取入れられ、護法神となったもの、
で、
貴顕天部と武人天部、
があり、前者は、
梵天王、帝釈天、吉祥天、弁財天、伎芸天、鬼子母神(訶梨帝母)、大黒天、
後者は、
毘沙門天(多聞天)などの四天王や仁王、韋駄天、深沙大将、八部衆、十二神将、二十八部衆、
等々である(精選版日本国語大辞典・ブリタニカ国際大百科事典)。
帝釈天、
は、天部の最高位に属する(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%9D%E9%87%88%E5%A4%A9)。なお、
八部衆、
とは、
八つの種族、
という意味で、『舎利弗問経』を基本に、『法華経』や『金光明最勝王経』などの説により、
天衆、龍衆、夜叉衆、乾闥婆衆、阿修羅衆、迦楼羅衆、緊那羅衆、摩睺羅伽衆、
の八つを指す(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E9%83%A8%E8%A1%86)。
天(Deva、てん 梵天、帝釈天を初めとする、いわゆる「天部」の神格の総称。欲界の六天、色界の四禅天、無色界の四空処天のこと。光明・自然・清浄・自在・最勝の義を有す。古代インドにおける諸天の総称。天地万物の主宰者、
龍(Naga、りゅう 「竜」、「竜王」などと称される種族の総称。蛇を神格化したもので、水中に棲み、雲や雨をもたらすとされる。また、釈尊の誕生の際、灌水したのも竜王であった。人面人形で冠上に龍形を表す)、
夜叉(Yaksa、やしゃ 古代インドの悪鬼神の類を指すが、仏法に帰依して護法善神となったもの)、
乾闥婆(Gandharva、けんだつば 香を食べるとされ、神々の酒ソーマの守り神とも言う。仏教では帝釈天の眷属の音楽神とされている。インド神話におけるガンダルヴァである)、
阿修羅(Asura、あしゅら 古代インドの戦闘神であるが、インド・イラン共通時代における中央アジア、イラン方面の太陽神が起源とも言われる。通常、三面六臂に表す)、
迦楼羅(Garuda、かるら ガルダを前身とする、竜を好んで常食するという伝説上の鳥である。鳥類の一種を神格化したもの)、
緊那羅(Kimnara、きんなら 音楽神であり、また半身半獣の人非人ともいう。人にも畜生にも鳥にも該当しない。仏教では乾闥婆と同様に帝釈天の眷属とされ、美しい声で歌うという)、
摩睺羅伽(Mahoraga、まごらが 緊那羅とともに帝釈天の眷属の音楽神ともいう。または廟神ともいわれる。身体は人間であるが首は蛇である。大蛇(ニシキヘビとも)を神格化したもの)、
とある(仝上)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95