蓮華陸地に生(お)いずとは、暫く弾呵(たんか)の詞(ことば)なり、泥水(でいすい)掘り得て後(のち)よりぞ、妙法蓮華は開(ひら)けたる(梁塵秘抄)、
弾呵(たんか)、
とあるのは、
だんか、
とも訓まし、
弾は弾劾、呵は呵責(かしやく)、
を意味(日本大百科全書)し、
弾訶、
とも当て(精選版日本国語大辞典)、
小乗の教えにとどまっているのを叱ること、
とあり(大辞林)、
彼等を一々不品行、不徳義として弾呵するのは縄墨(ぜうぼく)の見(けん)であらうが(中村春雨「欧米印象記(1910)」)、
と、
しかり、とがめること、
非難すること、
の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。
大乗仏教では、大乗経典を指して、
方等経(ほうどうきょう)、
と呼び、天台宗では、
浄土三部経(『無量寿経(むりょうじゅきょう)』、『観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)』、『阿弥陀経(あみだきょう)』)、『大日経』・『金剛頂経』・『金光明経』・『維摩経』・『勝鬘経』・『解深密経』、
等々がそれにあたるとし、それを、
弾呵(たんか、だんか)の教え、
といい、『維摩経』では、
釈迦の弟子で阿羅漢(声聞)とされる舎利弗たちが、在家である維摩詰にやり込められる模様、
を述べるなど、小乗の修行者を厳しく弾劾・呵責、している(梅田愛子「『維摩経』における声聞の扱いについて」・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B9%E7%AD%89%E7%B5%8C)。
方等(ほうとう・ほうどう)、
は、
方広、
ともいい、
毘仏略、
と音訳する梵語(サンスクリット語)、
vaipulya(バイプルヤ)、
の訳語で、本来、
広い、
とか、
大きい、
の意味をもち、
方広、
広大、
などと訳す(精選版日本国語大辞典・日本大百科全書)。
大乗では非常に重要な意味をもつように喧伝(けんでん)されているのは、「方等」が、
仏所説や如来所説の十二部経(じゅうにぶきょう)の一つとされ、後世に製作された大乗経典が、十二部経の方等にあたり、したがって大乗経典は仏説であると主張された、
ためであろう(仝上)としている。それは、
パーリ語の九分(くぶん)教ベーダッラvedalla(教理問答)のかわりに、サンスクリット語の十二分教ではバイプルヤvaipulya(方等)と置き換え、このバイプルヤがすなわち大乗の経典をさすとし、後世発達した経典の権威づけのために、九分十二分教の転釈が行われた(仝上)とみられている。
因みに、十二部経(じゅうにぶきょう サンスクリット語: dvādaśāṅgadharmapravacana)は、仏教の経典の形態を形式、内容から12種に分類したものをいい、
修多羅(しゅたら、sūtra、契経(かいきょう)教説を直接散文で述べたもの)、
祇夜(ぎや、geya、重頌(じゅうじゅ)散文の教説の内容を韻文で重説したもの)、
和伽羅(わがらな、vyākaraṇa、授記仏弟子の未来について証言を述べたもの)、
伽陀(かだ、gāthā、諷頌(ふじゅ)/偈 最初から独立して韻文で述べたもの)、
優陀那(うだな、udāna、自説経 質問なしに仏がみずから進んで教説を述べたもの)、
伊帝曰多伽(いていわったか、ityuktaka、itivr̥ttaka、本事(ほんじ)、如是語とも 仏弟子の過去世の行為を述べたもの)、
闍多(じゃーたか、jātaka、本生(ほんじょう)仏の過去世の修行を述べたもの)、
毘仏略(びぶつりゃく、vaipulya、パーリ語: vedalla、方広(ほうこう)広く深い意味を述べたもの)、
阿浮陀達磨(あぶだだつま、adbhutadharma、未曾有法(みぞうほう)仏の神秘的なことや功徳を嘆じたもの)、
尼陀那(にだな、nidāna、因縁)経や律の由来を述べたもの)、
阿婆陀那(あばだな、avadāna、譬喩(ひゆ)教説を譬喩で述べたもの)、
優婆提舎(うばだいしゃ、upadeśa、論議 教説を解説したもの)、
で、9種の分類法、
九部経、
がより古い形態とされている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E4%BA%8C%E9%83%A8%E7%B5%8C・ブリタニカ国際大百科事典)。
十二分教(じゅうにぶんきょう)、
十二分聖教(じゅうにぶんしょうぎょう)、
ともいう(仝上)。
なお、
一説に「啖呵を切る」などの啖呵は、これから出たのではとする、
など(世界宗教用語大事典)、
弾呵、
が、
啖呵を切る、
の、
啖呵、
の語源とする説があるが、啖呵で触れたように、語源には、
「弾呵(だんか)」の転
と。
「痰火(たんか)」の転、
の二説があり、
痰火、
は、痰の出る病、あるいは咳を伴って激しく出る痰をいい、のどや胸につかえた痰が切れて、胸がすっきりした状態を「痰火を切る」ということから、「痰火」に「啖呵」をあて、…「啖呵を切る」というようになった、
といわれる(日本大百科全書)。
弾呵(だんか)、
は、上述のように、維摩居士(ゆいまこじ)が十六羅漢や四大菩薩を閉口させた故事による、自分だけが成仏すればよいとする小乗の修行者の考えを強くたたき、しかりつけることをいい、転じて「啖呵」の字をあて、相手を激しくののしることの意となった、
とされる(仝上)。しかし、
弾呵が「責める」の意味とすれば、「切る」は必要ない言葉となるため、何を表しているか不明である、
というように(語源由来辞典)、
痰火(たんか)から転じたとする説が有力である、
とされる(日本大百科全書)。
啖呵を切る、
の「啖呵」は、もともと「痰火」と書き、体内の火気によって生ずると考えられていた咳と一緒に激しく出る痰や、そのような病気のことをいう。「切る」は、その啖呵(痰火)を治療・治すこと、
とする(語源由来辞典)のが妥当な気がする。
痰火が治ると、胸がすっきりするところから、香具師などの隠語で、品物を売るときに歯切れのよい口調でまくしたてることを、
啖呵を切る、
と言い、相手をやりこめる意味にもなった(仝上)ものと考えていい。
啖呵、
は当て字である(デジタル大辞泉)。
(「弾」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BD%88より)
(「弾」 中国最古の字書『説文解字』・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BD%88より)
「弾(彈)」(漢音タン、呉音ダン)は、
会意兼形声。單(単)は、両耳のついた平らな団扇を描いた象形文字で、ぱたぱたとたたく、平面が上下に動くなどの意味を含む。彈は「弓+音符單」で、弓や琴の弦が上下に動くこと、転じて、張った紐や絃をはじいて上下に振動させること、
とある(漢字源)。別に、
形声。「弓」+音符「單 /*TAN/」。「はじく」「発射する」を意味する漢語{彈 /*daan/}を表す字、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BD%88)、
形声。弓と、音符單(タン)とから成る。石つぶてなどを飛ばす弓、ひいて、「はじく」意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(弓+単(單))。「弓」の象形と「先端がY字形になっているはじき弓」の象形から「はじき弓」を意味する「弾」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1411.html)。
(「單」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%96%AEより)
「單」(①漢音・呉音タン、②漢音セン、呉音ゼン)は、
象形。籐(とう)の弦を編んで拵えたはたきを描いたもの。はたきは両側に耳があり、これでぱたぱたとたたき、ほこりをおとしたり、鳥や小獣をたたきおとしたりする。獣(獸)の字に意符として含まれる、
とある(漢字源)。①音は、「単位」のようにひとつとか、ひとえの意味のとき、②音は、平らげる意のときとある(仝上)。別に、
象形。狩猟用具の一種を象る。本義は不明。のち仮借して「ひとつ」「ひとえ」を意味する漢語{單 /*taan/}に用いる、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%96%AE)、
象形。先がふたまたになっている武器の形にかたどる。借りて、ひとつの意に用いる、
とも(角川新字源)。
象形文字です。「先端が両またになっているはじき弓」の象形から「ひとつ」を意味する「単」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji654.html)あり、武器系と見る説が多い。
「呵」(カ)は、
会意兼形声。「口+音符可」。可の原字は、¬ に曲がったさまを示す。それに口を加えて、呵となった。息がのどもとで屈曲し、はあ、かっと摩擦を帯びつつでること、
とある。
「訶」(カ)は、
会意兼形声。可はかぎ型に曲がる、まっすぐにいかず、かどでまさつをおこすという基本義をもつ。曲りなりにも承知すること。訶は「言+音符可」で、のどもとに強い摩擦をおこして怒鳴ること。喝(カツ どなる)は、その語尾が転じた語、
とある(漢字源)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95